ブログラジオ ♯115 Your Wildlife | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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プロパガンダというバンドである。

1,2,3,4/Propaganda

Amazon.co.jp


あるいは時々ここを覗きに
来て下さっている中になら、


ひょっとしてこのバンドを
すでにご存知だった方も
あるいはいらっしゃるかもしれない。


洋楽系の記事を
ブログに上げていらっしゃる方も、
少なくなくお見受けするし。


でも、それでもたぶん
この曲については、


耳にする機会は
滅多になかったんじゃないかと思う。


正直代表曲ではないし、
シングルにすらなってはいない。

もちろん当時から、
アルバムを追いかけていたような


熱心なファンの方であれば
別だろうとは思うけれど。



だから普通に考えれば、
このプロパガンダを
紹介するのであればまず、

トラックはp:Machinaryか
あるいはDr. Mabuseだろうし、


アルバムはこの二曲を
収録したデビュー作、
A SECRET WISHであるのが
順当といえば順当なのである。


それでも敢えて今回
このチョイスにしたのは、

実をいうとこの一枚、
僕の中では昨年末に
エクストラの方で取り上げた、


SNoWの『初雪』(♭70)なる作品と、
極めてよく似たポジションにいて、
ひどく重宝しているからである。


つまり、あの時にも触れたけれど、
ある種異界との回線みたいなものを
無理矢理開くのに、

非常に助けになってくれる
一枚だったりするのである。


何故そういう作用が
起きてくるのかは
正直自分でもわからない。


この作品もやはり、
上述の『初雪』と同様に、

ホラー映画のサントラのような
おどろおどろしさばかりを、
演出しようとしている訳ではない。


まあ、言葉の選び方は、
ややそちらに
寄っているのかもしれないが。


実際オープニング・トラックの
タイトルからして
Vicious Circleといったりする。

普通のポップソングには
ほとんど出てこない表現だろう。


「悪意の循環」とでも
訳すべきかとも思われるが、


邦題は
『邪悪な妄想』とつけられている。

このトラック、形容するとしたら、
たぶん不穏という言葉が一番相応しい。


アルバム全編を
過不足なく予感させる、
極めて鮮烈な開幕である。


でも、全体としては、
決してそれだけではないところが、

このアルバムの非常に
ユニークなところで、
そこら辺が実は
非常に使い勝手がいいのである。


それでも、全編にわたって、
妖しいといおうか、
むしろ不可解ともいうべきかも
しれないくらいの


ある種キュビズムみたいな
意味不明さに
満ちていることは否めない。

一言でいってしまえば、
極めて気難しい種類の音楽である。


しかもこの手触りは、
彼らのデビュー作であり、
代表作でもある、


前作A SECRET WISHから、
ぶれることなく
継承されているといっていいのだが、

ところが、このバンドの場合、
この点もまたむしろ、
不可解な部分だったりするのである。


仔細はこれから詳らかにする。


さて、90年発表の本作は一応は
このプロパガンダなるバンドの

セカンド・アルバムという
位置づけにある。


――それは確かにそうなのだが。

結論から書いてしまうと
この作品の時にはもうバンドは

84年にデビューしてすぐ、
いきなりシーンに
強烈なインパクトを
刻みつけた時とは、


残念ながら、すっかり別物に
なってしまっていたのである。


ここに至る経緯には
一筋縄では説明できない、
紆余曲折があったりする。

そもそもまず彼らは
上にも記したように、
Dr. Mabuseというシングルで


あのトレヴァー・ホーン(♯18他)の
ZTTレーベルから
ドイツ本国ではなくまずイギリスで
デビューを果たしているのだけれど、


折りよくというか、
あるいは結果としてみれば
折悪しくだったのか、

ちょうど同じ時期、FGTH(♯92)の
Relaxが怪物級のヒットとなっていて、
誕生したばかりの同レーベルにも
市場の注目が集まっていた。


プロパガンダもまた、
このDr. Mabuseを引っさげて、


デビュー早々イギリスの
著名なテレビ番組への
出演を果たすなどして、

そのある種奇怪な音楽性を武器に
衆目を集めることに
まずは十分な成功を収めていた。


ここから先は、半ば想像の域を
決して出るものではないのだが、


前後して、まだ揺籃期としか
いいようのない時代だった、
ZTTというレーベルそのものが、

プロモーションなり
マーケッティングなりといった、
会社のエネルギーのほとんどを、


次第にFGTHへと
注がなければ
ならなくなってしまっていき、


結果として、
こちらのプロパガンダの
2ndシングルDuelと、

それからデビュー・アルバムとが、
次に市場に出てくるまでには、


Dr. Mabuseの発売から
実に一年以上の時間が
空いてしまうことに
なってしまったのである。


それでも、ここでリリースされた
デビュー作A SECRET WISHは

チャートでも
それなりに上々の成績を収めた。


それにすっかり気をよくしたのか
どうかまではさすがに
簡単には断言できないが、


ホーンとZTTとは
今度は同作所収のトラックを
全曲リミックスした一枚を、

WISHFUL THINKINGという
タイトルで、


バンドの新譜として
リリースしてしまうのである。


なるほどこれも、戦略的に見れば
それほど間違いだった訳ではなく、

同作もまずはそこそこの
成功を収めこそするのだが、


とりわけこれが、
本人たちの意図したものでは
決してなかったものだったから、


どうやらこの辺りから、
バンドとレーベルとの関係は

すっかりギクシャクして
しまったらしい。


詳細は省くが、数年も経たぬうち、
ついにはこの両者、
法廷で争うような形となってしまう。


結果バンドは、希望していた、
ヴァージン・レコードへの
移籍こそ認められたものの、

14ヶ月の活動停止という
裁判所命令を
受けてしまうのである。


しかも、この騒動と前後して
メイン・シンガーだった、
クラウディア・ブルッケンなる女性が


ソロで活動することを選んで
バンドを脱退してしまう。

この脱退劇の背景には、
プロパガンダという
バンドにいたままでは、


最悪の場合、音楽活動を
続けていくことすら
できなくなるかもしれないという


漠とした不安があったのでは
なかろうかとも推察される。


もっとも、ZTT側にも、
バンドに対して、
最初から悪意があった訳では
たぶんなかったはずである。


p:Machinaryの
ビデオなんかを見てみると、


むしろすごくきちんと
十分な時間と予算とをかけて、
作っているようにも思われる。

知っている人には
あの、人間繰り人形のやつ、で、
たぶん通じると思うのだが、


大体この表現で、
ご想像いただける通りの内容である。


いや、やらされたメンバーが
一番大変だったろうとは
それは確かにそう思うのだが、

でもやっぱり、
こういうアイディアを、
できっこないと一蹴しないで、


実現してしまった熱意には
やっぱりかなり頭が下がるし、


それにこれ、相当予算を掛けないと、
撮影できなかったはずである。

人一人吊るして動かす機械が
いったい幾らくらいで、
作れるものか、


あるいはレンタルなどして
くれるような業者があるのかどうか。


保険だってさすがに
必要になってくるだろうし、

結局そんなのあわせると
想像もつかない額になりそうである。


だからたぶん、決して
ないがしろにしていたつもりもなく、
むしろ埋め合わせを
しようという姿勢はあったのだと思う。


しかもこのアイディアが、
同曲のテイストやテーマと
まあ見事に合っているのである。

興味を持たれた方は、
どこか適当に探してみてください。


一見の価値はあるかと思います。

ちなみにこのp:Machinaryは、
本邦でも、当時車のCMに
起用されたりもしていたから、

聴けば思い出される向きは
けっこういらっしゃるのでは
なかろうかと思われます。



さて、そういう訳で
リード・シンガーを失い、
かつ活動を制限されながらも、


新たなヴォーカリストとして、
ベッツィー・ミラーなる

アメリカ人女性を迎えて、
バンドが作り上げたのが、


今回ご紹介のこの
1234という一枚なのである。


しかしまあ、可愛そうなことに
この制作過程でもまた、

いろいろとトラブルが
降りかかってきてしまう。


もうすでに十分過ぎるほど長いので、
こちらも結論だけいうと、


レコーディングの半ばで、
オリジナル・メンバーだった二人が

幾つかのトラックには参加しながら、
結局やはりバンドを離れてしまい、


そもそもは元々途中加入だった
ミヒャエル・マルテンスなる
人物を中心にして改めて、


新たなリズム隊に
シンプル・マインズ(♯14他)を
脱退した二人を迎え、

ようやくアルバムの全体が
完成に漕ぎ着けているのである。


だからもう、本作リリース時には
名前だけはどうにか
そのままプロパガンダに
なってこそいたけれど、


バンドははっきりと
別物になって
しまっていたという次第。


事態がここまできてしまうと、
後年デビュー当時の、
つまりはZTT時代のラインナップで、


バンドの再結成などが
行われたりした場合でも、


レパートリーに
このアルバムからの

楽曲が取り上げられることは
当然ながら皆無となる。


実際、98年以降、
初代ヴォーカリストの
クラウディアを中心に、


幾度か再結成が
試みられてもいた模様であるし、

あるいはT. ホーンの
音楽活動何周年だかを祝う
メモリアル・ライヴなどでは、


プロパガンダとしての
出演も果たしているらしいのだが、


ここはまだちゃんと
ウラは取っていないのだけれど、
たぶんその場でやったのは、

九分九厘A SECRET WISHからの
ピック・アップのみ
だったのではないかと思われる。


だから、そういう訳でこの一枚、
ある意味では作品そのものが、


鬼子とでもいえばいいのか、
存在そのものが
最初から幽霊みたいな

そういう不遇なアルバムになって
しまったという訳なのである。



しかし、それでは
些かどころではなく
勿体なさ過ぎる。


個人的にずっと
そう感じていたもので、
だから今回は敢えて、

A SECRET WISHも
p:Machinaryも外して、
こちらからのチョイスとした次第。


もしこの作品を愛聴盤の位置に
置いていらっしゃる方が
万が一中にいらっしゃったとしたら、


たぶん博多まで僕と一緒に
新幹線乗れると思います。

あ、このネタは、
トット・テイラー(♯81)の時に
やった奴ですので念のため。



いや、それにしてもこのアルバム、
実はそれなりに、


プロパガンダらしく
仕上がっているから
そこがまったくもって不思議なのである。

とにかく全編、最初にもいったけれど、
極めて妖艶で、いわばドイツ的な
ある種の重々しさを醸し出している。


その特徴はp:Machinaryや
Dr. Mabuseの手触りと
さほど変わってはいないといっていい。


むしろ、音の造りは全体に、
ZTTっぽい、ゴリゴリの
シンセサイザーの尖り方から、
適度に一歩退いていて、

全体に程よく
マイルドになってもいる。


そして個人的には
こちらのタッチの方がむしろ
心地好かったりもしたりする。



なお、このアルバム、全9曲中、
最初に触れた『~妄想』を含め、
計七曲に邦題がつけられているのだが、

とりわけ後半、
こちらもどんどんと
いかがわしさを増してくる。


面白いのでラストの四曲分だけ、
折角だから書き出してみる。


『再び、妄想』『恐怖の代理人』
『傷つきやすく』『妖夢』――。

なんかまるで、
デス・メタルのアルバムみたい。


あるいはマリリン・マンソンとか?

まあ、でもこれも、
まるで見当違いという訳では
まったくなくて、

確かにこういう
雰囲気なのである。


それでも、たぶん気持ち悪いと
形容してしまっていい
種類の音では絶対にない。


不穏だが同時に美しいし、
それに、多少ポップに寄せた
トラックもそっと紛れ込んでいる。

たとえば、原題を
Wound in my Heartという


ラス前収録の一曲は、
なるほど上に紹介した


『傷つきやすく』の邦題の通り、
繊細で美しいバラードである。

それから、二曲目収録の
Heaven Give Me Wordsも
なんというか、


全編に漂う重々しさから
ちょっとだけ解放されていて、
いいアクセントになっている。


なお、本作には、
どういう繋がりでかは
まったくわからないのだが、

あのハワード・ジョーンズ(♯89)が
ソングライティングで、
クレジットされていたりして、


この曲がどうやら彼がメインで
書いたトラックのようである。



しかも、今回クレジットを
よくよく確かめてみたら、
一曲だけではあるのだけれど、

あのデヴィッド・ギルモアが
しれっとギターを
弾いていたりもする。


こちらは四曲目収録の
Only One Wordというトラック。


それから今回の記事タイにした
三曲目のYour Wildlifeも
ギターが相当カッコいいなと思って
ずっと聴いていたのだけれど、

これが誰かと思ったら、
元プリテンダーズの


ロビー・マッキントッシュの
プレイだったりしました。


Middle of the Road(♯27)も
Show Meも彼のギターだし、
それからたぶん
Talk of the Town(♭29)とかもそう。


そういう訳でだからまあ、
今回ちゃんと紹介しようと思って、


それまでほとんど
ただプレイヤーに載せて
聴くばっかりだったものを、


いろいろちゃんと
ブックレットの文字情報を
隅々まで確かめてみて、

いや、これは確かに
気に入る訳だと、
自分でも改めてひどく納得した次第。


いや、ひょっとすると
本当にこの一枚、
隠れた名盤かもしれません。



さらにちなみにというか、
これはもう余談の域なのだが、

結局リリースには至っていない、
最初の再結成時代の
マテリアルの中には、


デペッシュ・モード(♯15)の
マーティン・ゴアが、


ギターで参加している
トラックもあるらしいので、

今さらながら
興味津々だったりしております。


いつか聴ける機会があるといいなあ。

それからさらに1234に関して
もう一つだけ付け加えておくと、
同作のプロデューサー・チームは、

一時期だけではありますが、
ティアーズ・フォー・フィアーズ(♯13)に
参加していたメンバーだったりします。


で、先述の米国人シンガー、
ベッツィー・ミラーなる女性は


たぶん本作が縁で、
このうちの一人と結婚されて
そのまま音楽を止めてしまった模様。

そうなるとますます、
もうきっとこの人が
人前で歌うことは
ないんだろうなあとか思うし、


本当、プロパガンダという
名前で発表されていながらも、


実はこのアルバム
ひどく不思議な一枚だったのだなあ、と

つくづくそんなことを
考えさせられながら、


今回はいつもよりつい長々と
記事を起こしてしまいました。



そういう訳で、
p:Machinaryの方は改めて、
そのうちエクストラでやります。

でないとなんか、ちゃんと
プロパガンダやった気がしないし、


それにさすがに今回は
自分で何度か読み返してみても、


Your Wildlifeの良さですら、
全然書けてない気がします。

同曲、六分を越える大作です。

この曲が大丈夫なら、
このアルバムの全体も
たぶん十分楽しめます。



まあ、そろそろ本当に
長過ぎるので、
今回はなるべく軽めに締める。

でもトリビアもやっぱり
ほぼ本編の続きだったりする。


残念ながら英米両国では
結局はトップ10ヒットを
残すことのできなかった、
このプロパガンダなのだが、


調べてみるとどうやら他国では
その限りでもないようで。

ZTT時代のp:Machinaryが
85年にスペインで、


それから今回の1234から、
『傷つきやすく』の
邦題を紹介した


Wound in my Heartの方が
こちらは91年にアルゼンチンで、

それぞれチャートの一位を
記録しているのだそうである。


いや、それにしても
実に不思議な取り合わせである。


なんか、前回の
スウィートボックスの時にも
似たようなことを
書いたような気もするのだが、

改めて念を押すと、
この人たち、英語で歌っている
ドイツのバンドなのである。


ひょっとすると、
こういう発見が
あった場合こそ


音楽に国境はないのだと
それこそ声を大にして

改めていうべきなの
かもしれないな、と
思ったりもしてしまいました。