ブログラジオ ♯106 Give Me Up | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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さて、では少し南下してイタリアへ。

GIVE ME UP-COMPLETE BEST OF MICHAEL FORTUNATI-/マイケル・フォーチュナティ

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この曲、なんといおうか、
あまり誉め言葉に
聞こえないかもしれないけれど、


いわばバブル景気の
テーマ・ソングみたいな
トラックである。


一時期本当、こういう音ばかりが
流行ってくるような感触があった。

イギリスでも、
リック・アストリー(♯90)や
デッド・オア・アライヴ(♯91)は
明らかにこの流れの中にいたし、


ペット・ショップ・ボーイズ(♯19他)
なんかも実は、この辺りの
サウンドを意識した音造りをしている。


イタロ・ディスコなんて
いい方もあったようだが、

大陸系の打ち込みのリズム、
いわゆるユーロ・ビートである。


時にはハイ・エナジーなんて
いい方もしていたはずである。


そしてこのトラックこそ、
その中のいわば
代表格といっていい。

とりわけこの日本でウケた。

あの当時のいわば社会そのものが
浮き足立ってしまったような雰囲気を


見事に顕現させた
一曲であるとまでいってしまっても

いい過ぎではないかも
しれないくらいに思う。



個人的には、どちらかといえば、
ユーロビートの用語より、
ハイ・エナジーの語感の方が
多少どころでなく好きかなあ。


いずれにせよまあ、
とにかく明るい。
むしろ軽過ぎてしまうほど。

だからこそ、こっちも無条件に
つきあわなければならないような
気分にまでなってくる。


何も考えずに、ビートだけ聴く。
そのうちなんとなく
盛り上がっているような気がしてくる。


アッパー系の音楽とでも
いってしまっていいのかもしれない。

実際、テンション下がってるなあ、
みたいな感じの時は
このジャンルのコンピレーションを、


引っ張り出してくることが
今でも僕自身、たまにある。



さてこのGive Me Upの
大ヒットを放った、
シンガーというか、
アーティストの名を、

マイケル・フォーチュナティーという。

――いや、しかし困った。

この方もやはり、英文のWIKIに
項目が見つかってこないのである。

本名でも引いたがダメだった。
仏文にしかページがない。


小ネタが拾えないではないですか。

もっとも、
パッツィー(♯104)とは違って、
日本語版はちゃんとあるので、

その辺からわかる範囲での略歴を、
まずは、とりあえず。


本名を
ピエール・ミカエル・ニグロと
おっしゃるらしいこの方、


1955年の生まれで、
イタリアは、ブッリャ州の出身だそう。

どこだよ、それ、と
思って確認してみたら、
あのブーツの、
ちょうどヒールの辺りになるらしい。


この方の出身地は、そのヒールの
ほとんど付け根の部分に
位置する町のようである。


ローマからも結構距離がある。

そういえば、そもそもイタリアの
レコード会社って、
どこに事務所を構えるのだろう。


むしろトリノとか
ミラノなんじゃないだろうか。


いずれにせよ、このピエール、
おそらくは音楽をやるために、
故郷を離れることを決めるのである。

しかしながらこの方には関しては、
バイオらしいバイオも
まるで見当たらないので、


幼少期とか、どういうきっかけで
音楽の道に進もうと思ったのかは、
全然さっぱりわからない。


ただ86年、21歳の時に、
ベルギーのレコード会社から、

このGive Me Upで
デビューを果たしていることが、
どうにかわかるだけである。


で、とにかくこの曲が、
ベルギーとそれからフランスとで、


一躍スマッシュ・ヒットとなるのである。

もっとも、アメリカでは、
リリースされたのかどうかさえ不明。


多少でもチャート・アクションがあれば、
たぶんWIKIの記事にはなるだろうから、


リリースさえなかったのでは
なかろうかとも思うのだけれど、
これも確実なことはいえない。


それから、大体の曲に共作者が
クレジットされてはいるのだが


基本はたぶん御自身で
曲を書かれているのだろうとは思う。


――思うのだが。

どうやら歌詞は基本
英語の模様なのである。


今回のGive Me Upや
あるいはAlleluia,
Into the Nightなど
ほかの代表曲にも


フランス語やイタリア語の
ヴァージョンが
ちっとも見つかってこない。

まあこの点は、リサーチ不足の
可能性は十分にあるけれど。


むしろ日本語版の方がすぐに出てくる。

もちろん本人の歌唱ではなく、
カヴァーだけれど。


そんなこんなを考え合わせると、
この方いったい
どんなティーンネイジを


過ごされてきたのかなあ、などと、
少なからず不思議になってくる。


イタリアの人って、
英語もそんなにすぐ、
扱えるようになるものなのだろうか。

しかもベルギーでデビューということは、
フランス語も多少はわからないと、


契約とかレコーディングとか
できなかったんじゃないだろうか。


いや、イタリア語のわかるスタッフが
ちゃんといたのかもしれないけれど、
たぶんそうなのだろうとは思うけれど。


いずれにせよ、状況からして
この人たぶん、最初の最初から、
英語圏での成功を
夢見ていたのではないかとも思われる。


バナナラマ(♯25他)辺りが
ちゃんと注目する訳だから、
UKのシーンでは、


まったくもって無名だった訳でも
ないだろう。

だがまあ、実際アメリカでは
上でも触れたように、
まったく反応が見つからないのである。


むしろ日本のマーケットの方が、
この方を、いわば評価し、
大事にしているように見える。


このGive Me UpがBaBeなる
女の子たちによってカヴァーされ、

大ヒットとなったことを
記憶していらっしゃる方も
少なくないだろうと思うけれど、


これ以外にもあの松平健さんが、
この方のAlleluiaを
『マツケンパラパラ』なるタイトルで、
取り上げてもいるらしい。


いや、さほど聴いてみたいとも
正直思わないけれど。

ほか、Into the Nightにも、
ディスコ・チェーンの
社長の歌唱によるカヴァーが
録音されてもいたりする。


こちらも食指はまったく動かないが。

それでも、どんな形であれ、
取り上げられるということは、

アーティストにとっては、
喜ばしいことに違いないはずである。



実際このGive Me Upの
インパクトは相当強烈だった。


この曲はなんといっても、
イントロが始まってすぐから出てきて、
曲中幾度も登場してくる、
鍵盤のあのラインである。

八文音符による
下降の三音のアルペジオが、
二小節の間に五回鳴って、


同じパターンを次には
音程を上げて繰り返してくる。


このリフレインは確かに、
極めて独創的だったし、強烈だった。

だからこれとまったく同じパターンを
バナナラマの
I Heard a Rumourなるトラックが、


そっくりそのまま
何の工夫もせずに借用していて、


いや、だからこれは
ギリギリアウトだろうと、

あの頃はそんなことを
考えたりもしたものである。


前にもいったと思うけど。


さて、では今回のトリビアは、
同曲のリリクスから。

Give Me Up、これつまりは、
自分のことを
諦めてくれという歌である。


どう読んでもこれ、
いわゆる一夜だけの関係を、
図らずも持ってしまった
相手に向けられた内容だと思う。



初めてだった訳じゃないだろう?
いつものことなんじゃないのかな。

僕にはほかに意中の女性がいるんだ、
だから僕のことは諦めてくれ。


――。

なんだかなあ。

いや、これこんな歌だったんだ。

だからノリだけ楽しんで、
歌詞なんて全然まったく、


ここで取り上げようと思うまで、
気にかけたこともなかったからさ。

まあだから、
あの当時の世相と同じくらい
適当といっていいほど軽いのである。


そういう訳でBaBeの日本語版は
実はよく考えると、
すごく変なことになっている。



しっかりしてよ、甘えちゃだめ
君が強くなくちゃ私
キュートな娘になれないでしょ?

――だから私のことは諦めて


だいぶ中間すっ飛ばして
要約してしまったけれど、


どうしてもこうならざるを得ない。

確かに原詞の大意を尊重して、
女の子視点にしてしまったら、


なんか相当、
とんでもないことになってしまう。


かといってサビであり、
タイトルでかつキー・フレーズである
Give Me Upのラインを
変更してしまう訳には絶対いかない。


だから、曲の持つ基本アッパーな
雰囲気だけを抽出し、


あるいはBaBeの二人の
キャラクターにも合わせて、


女の子からの
ちょっと情けないというか
優柔不断な感じの男の子への、

応援歌というかエールというか、
いわばハッパかけてる感じに
したんだろうなあ。


原詞からはまったく離れて。

そうすることをまず決めて。

いや、自ずと当時の
森雪之丞さんの御苦労が、
察せられてこようというものである。