ラジオエクストラ ♭63 Only When You Leave | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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スパンダー・バレエは
84年の4thアルバム、

PARADEのオープニング・トラックである。

Parade/Spandau Ballet

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本編(♯45)でも触れたように、
Trueがこの前年の83年に
空前絶後の大ヒットとなって、


続いてリリースされた
同じアルバムからのGoldも
バンドの代表曲の一つとなるには
十分な成功を収めていた。

同作からは、Trueに先行していた
幾つかのトラックも、
あの頃よく、そこかしこで
耳にしていたように覚えている。


まあだから、
一つのブームだったといってよい。


そんな具合だったから、
周囲は彼らの次のアルバムを
今か今かと
待ち望んでいるような状況だった。

そこへ、新作PARADEの
リード・シングルとして、
登場してきたのがこの曲だった。


いや本当に、頻繁にラジオから
流れてきていたものである。


それこそ相当飽きるほど。


さて、この84年にはたぶん
まだAORという言葉は、
さほど市場には
定着していなかったのではないかと思う。


ボズ・スキャッグスと
クリストファー・クロスとを筆頭に、


グローヴァー・ワシントンJr.とか、
ボビー・コールドウェル辺りが担っていた

ちょっとウェスト・コースト風の
アーバンさとでもいったような、


まあ簡単にいってしまえば
極めてお洒落な感じの音楽である。


もっと端的にいえば、ある種
杉山清貴&オメガトライブみたいな手触り。

一緒にしたら怒られるかもしれないけど。

まあいずれにせよ、
こういう流れがあればこそ、
後年サックス奏者のケニーGが、


インストゥルメンタル・トラックしか
基本演らないにもかかわらず、
あれほどの支持を
集められたのだろうとも思う。


シカゴが後年、このAORのコピーで
紹介されるようになったのは
まあなんとなくわかるのである。


Hard to Say I’m Sorryや
Hard Habit to Breakなど、
今になってみれば
この言葉がよくハマる。


ただTOTOについては、
この用語でいつのまにか
括られ始めていたことには

正直ちょっとだけ
違和感がなくもなかったのだけれど。



さて、例によって前置きが
少なからずどころではなく
長くなってしまったようだが、


まあそこは大体いつものことなので、
御容赦いただくとして、

このスパンダー・バレエなる
バンドの魅力というか、
目指していた場所というのは、


実はそちらの系譜で
捕らえるべきなのかな、というのが、
近頃の個人的な所感であったりする。



初期のシンプル・マインズにも
ほぼ同じような
手触りがあるのだけれど、

彼らもまた、デビュー当初の
サウンド・メイキングの
方向性というのは、


実はパンクの文脈の中で
捕らえた方がわかりやすい
メロディー・ラインや
アレンジのスタイルを基本にしている。


デビュー・シングルである、81年の
To Cut a Long Story Shortで聴こえてくる、

ちょっと濁らせた音色の
どことなくせわしない
シンセサイザーのパターンなど、
その好例ではないかと思う。



それがやはり、アルバムTRUEで、
はっきりと方向転換したのだと思う。


ある種の粗野さから離れ、
美しさというか、
ドラマティックであることでもいおうか、

トラック全体がそういう場所を
目指していくようになった気がする。


そのアプローチが、
西海岸風とまではいわないけれど、


どことなく
AORという言葉に似合うのである。

それをバンドの進化と捕らえるか、
あるいは市場そのものの嗜好性の変化、


もっとありていにいえば、
時代の流行として把握するかは、


当然意見の分かれて然るべき
部分ではあるとも思うけれど。


今回のOnly When You Leaveは
曲そのものの方向性は明らかに、


TrueやGoldといった、
もっぱらハドリーの得意そうな
ミッド・テンポのバラードとは
ちょっと違っているのだけれど、


なかなかどうして、
アルバムの開幕には十分相応しく
適度にどころではなくアーバンである。

何よりまず、
イントロからして相当カッコいい。


めずらしくギターがパターンを引っ張って、
彼ららしい、エレピともちょっと違う
澄んだ音色をチョイスしたキーボードが、
これに絶妙に絡み合ってくる。


直後には、このギターが
ちょっとハード・ロックっぽく
鳴らして見せたりもする。

それでもやはり、鍵盤とそれから
随所に挟み込まれるサキソフォンとが
ハドリー独特の声と相俟って、
トラック全体を巧妙に演出しながら、


曲を最後まで引っ張っていく。

あの頃飽きるほど耳にしたので、
今はさほど頻繁に
プレイヤーに載せる訳でもないのだが、
やっぱりいい曲だな、と思う。


残念ながらスパンダー・バレエは
このOnly When You Leaveを最後に


全米でのチャート・インを
果たすことができなくなり、


今回のPARADEの次々作となる
HEART LIKE A SKYなる一枚では、

アルバムの発売そのものがアメリカでは
見送られてしまったりもしてしまう。


どうやらこの時期、バンド内の
ゴタゴタとかもあったようだし。


エコバニ(♯43)もそうだが
そういうのがあると、どうしても、

周囲の歯車まで、
上手く回らなってくるものだろうから、
まあ致し方のないことだったのだろう。



それにしても、
こうやって振り返ってみると彼らもまた、


ほかのバンドからは
なかなか似たような音の出てこない、
個性的な音楽を演っていたのだなあ、と

まあ遅まきながら、そんなふうに
思わないでもないこの頃である。


ちなみにこのOnly When You Leave、
邦題を『ふたりの絆』といったはず。


特にコメントはないけれど、
そういう歌とはたぶん
ちょっと違っているのではないかと思う。


さらにいうと、シンプリー・レッド(♯48)の
ヴァージョンでとりあげた、
H.メルヴィンの
If You Don’t Know Me by Nowなる曲も


表記こそやや違っているが
基本同じ『二人の絆』という
邦題がついていたりする。
前にも同じこと書いた気もするけれど。



さらにさらについで。
このタイトル、漢字の場合だと
あの浜田省吾さんのカタログに、

平仮名の場合では、川中美幸さんと
それから藤あや子さんのレコーディングに
同名異曲が存在している模様である。