ラジオエクストラ ♭59 What Have I Done to Deserve This? | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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ペット・ショップ・ボーイズは
87年のセカンド・アルバムから。

Actually/Pet Shop Boys

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本編の時(♯19)にも触れたけれど、
この二人の全キャリアを通じて


個人的にはこのトラックが一番好きである。

しかしこのタイトル、些か長い。

僕がこんな目に
合わなきゃならないような
いったい何をしたっていうんだ、と
いった程度の意味である。


ひょっとしてこういう
どこか恨みがましいニュアンスの方が、


このニール・テナントという方の、
独特の声にはむしろ
ぴたりとはまるのかもしれない。


だが僕がこの曲のいったいどこが
すごく好きなのかというと、


歌詞とか旋律とかというよりは、
とにかく全体の雰囲気だったりする。


彼らのほかのヒット・ソングと比べると
このトラックの手触りはやや異なっていて、

それがなんというか、
いわば自分のフィールドに、
すんなり入ってくる気がするのである。



確かにサウンドの本質はやはり、
彼らの得意とする
彼ら流のディスコっぽいテクノではある。


でも何故だかこのトラックには
ボードヴィルとかレビューとか、
そういった感触の、

50~60年代のアメリカの
それもある種極めて下世話な部類の
ショウビズの世界の香りが
ぷんぷんと漂ってくるのである。


その手触りが昔からひどく気に入っている。

もちろんPVもそういう方向で
作られてはいるのだが、

その印象を差し引いたとしても、
この曲のメロディーとアレンジには
明らかにそういった種類の
アプローチが聴き取れると思う。



そもそも曲のコンセプトそのものが、
最初からその手の方向を狙って
作られていたのだと思う。


そしてこの点には、実は
すごくわかりやすい背景があったりする。


このWhat Have I Done to~には、
ダスティ・スプリングフィールドなる


英国のフィメール・ヴォーカリストが
ゲストに迎えられているのだけれど、


この方の音楽的な志向性が、
実は比較的そちらに寄っているのでは
ないかと思われるのである。

だからたぶんこのダスティの魅力を
彼らなりのやり方で
最大限に引き出すことを、


この時まず、PSBの二人は、
しっかり念頭におきながら
すべてに着手したのではないかと想像している。


そして、その試みは、たぶん十分以上の
成功を収めているといえるのだろう。


もっとも、この曲でお名前を目にするまでは、
このD. スプリングフィールドは
僕自身にとっては
正直全然知らない人だった。


何せ彼女のメインの活動時期は、
60年代の、それも前半から
中盤にかけてなのである。


ベイ・シティ・ローラーズの
大ヒットの一つである
I Only Want to Be With You
(邦題『二人だけのデート』)や

84年にミック・ジャガーとボウイが
自分たちのデュエットに選んだ
Dancing in the Streetといった曲の


オリジナルが、実は彼女の
レコーディングだったりするようである。


あるいはプレスリーの歌唱で有名な
You Don’t Have to Say You Love Me
(邦題『この胸のときめきを』)を

イタリアの民族音楽、カンツォーネから、
ポップスの世界に最初に移植したのも
どうやらこの方の録音である模様。



だからおそらく、まだ黎明期の
ポピュラー・ミュージックが
引きずっていた前史みたいな要素を、


その象徴的な存在である彼女を迎え
時代の趨勢を適度に反映しながら
巧妙に再現してくれたのが、

PSBのこのトラックなのでは
ないかと思ったりもするのである。



僕は未聴なのだが、ダスティーには
DUSTY IN MENPHISなんて
アルバムもあるらしい。


メンフィスはもちろん
エルヴィスを産んだ街であり、

ある意味ではロックンロール、
そしてソウル・ミュージックの
聖地というべきものの一つだともいえる。


ひょっとしてアメリカ音楽に傾倒していく
イギリスの女性ヴォーカリストというのは、


この方をいわば起源として、
脈々と地下に息づいて、
近年のあのアデルへと

ひそかに連なっていたのかもしれないとか
まあちょっとだけ思ったりしないでもない。



なお、このD. スプリングフィールドは
残念ながら99年、
59歳の若さで世を去っている。



その音楽からはなかなかすんなりとは
見えてこないような気もするけれど、

このPSBの二人はたぶん
ロックンロールはもちろんのこと
実はブロードウェイ系のサウンドにも


おそらく十分な造詣があって、
何よりそういうのも好きなのだと思う。


そのせいなのか、84年には、
ライザ・ミネリのアルバムを一枚、
プロデュースしたりもしているのである。

これも確か持っていたはずなのだが、
遺憾ながらどこかに
すっかり紛れ込んでしまっている。


近々もう一回ちゃんと
探してみようかなと思っている。