ラジオエクストラ ♭50 Drug(It’s Just a State of Mind) | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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デュラン・デュランは88年の5thアルバム
BIG THINGからのピックアップ。

Big Thing/Duran Duran

¥1,095
Amazon.co.jp

たぶん大体このくらいの時期から、
LPレコードでは発売されない
アルバムというものが
出始めたのではなかったかと思う。


そういう過渡期の作品であるせいもあって、
本作については、今となっては
やや中途半端な感は否めないかもしれない。


というのも、このアルバムは
まだLPでも発売されていた一枚で、

むしろ基本A面B面があることを
前提としており、


この両サイドが、いわばまったく異なった
コンセプトで制作されているのである。



だからCDでかけた場合、
真ん中で、音の印象ががらりと変わる。

M6のDo You Believe in Shame?を境に
前半の派手さ、ファンキーさが、
まったくといっていいほど影を潜めてしまう。


正直、あの頃は僕自身でさえ
少なからず戸惑ったものである。


何をやりたかったんだろうなあ、というのが
率直にいってつかみきれなかったのだと思う。

とりわけ後半の楽曲群は、
重たいというのでもないのだけれど、
どこか湿っぽくて地味に聴こえて


切り替えてついていくことが、
すぐには上手くできなかったように記憶している。


ただそれでも気がつけば、
今に至るまで比較的頻繁に繰り返し
聴いている一枚であることは本当である。


さて、3rdアルバムRAGGED TIGERと
その直後までの、
疾風怒濤とも呼ぶべき快進撃の後、


バンドは次第に疲弊し、
方向性を見失っていく。


五人による活動に些か倦んでしまった彼らは、
ジョンとアンディのパワー・ステーションと、

サイモン、ニック、ロジャーによる
アーケイディアという
二つのプロジェクトに分かれ、


いわば発生しかけていた
キャリアの空白を埋めたような形を作る。


その後、再び一つにまとまった彼らは
映画007の主題歌として
A View to a Killというヒットを放つのだが、

結果として、これが
今世紀に入ってからの再結成以前の、


オリジナルの五人による
最後の作品となってしまう。



なお、いつだったか、DDもトップワンは
Reflexだけだったんじゃないか
みたいに書いてしまったのだけれど

このA View to a Killも、一週ながら
トップワンに手が届いていたようである。
大変失礼致しました。



そしてバンドは、本作の前作に当たる
4th、Notorious(♯10)の制作中に、


ついにギターのアンディと、
それからドラムスのロジャーの
二人のテイラーの脱退という
厳しい事態に直面せざるを得なくなる。

本編の方ではSkin Tradeを取り上げたけれど、
この作品のタイトル・トラックNotoriousも、


なんとなくものすごくギターに
気を遣って、曲の全体が
作られているように
感じたことを記憶している。


でも同曲や、あるいはアルバムの
ほかのトラックなんかでも
ベースがまた、すごく難しいことを
やっていたりするんだけれどね。

とりわけ同作のラストの収録の
Propositionなんて曲のベースは、


どうしてこれでリズムが壊れないのか、
不思議になるくらいの変則ぶりである。


まあこの辺りの話は長くなるので、
また機会を改めて。


さて、そして三人による新生DDの
第二弾として登場したのが、
このBIG THINGなる作品だったのである。


オープニングは、
タイトル・トラックでもあるBig Thing。


これもなかなか野心的な曲だったと思う。
実際上手く形容する言葉が
すぐには見つかってこない。

ぎりぎり粗雑な感じのコーラスが、
冒頭からある種の気怠さと共に炸裂し、
トラックの全体も、彼らにはめずらしく、
基本ロックのテイストに寄っている。


だが、かといってロックンロールの
突き抜けた疾走感を目指しているかというと、
全然そんなことはない。


むしろ手触りは逆である。

たぶんこれ、ハード・ロック特有の
ニュアンスに共通する
マイナー・スケールによって作られた
ちょっとかったるいファンクなのである。


いやでも本当、この曲は、
言葉で表現するのが非常に難しい。
個人的にはすごく好きなんだけれども。


中でもとりわけ、二コーラス目に出てくる、
「そのプレイリストをこっちに寄越せ、
俺が食っちまうからそのまま見てろ」
なんて一節が、実はずっと気に入っている。

しかもこの開幕からの有無をいわせぬ勢いは、
リード・シングルとなった二曲目の
I Don’t Want Your Loveをピークに、


その次のAll She Want Isまで
微塵の躊躇も見せずに駆け抜ける。


らしいな、と思ったものである。


だからおそらくこの時のバンドのスタンスは、
A面ではパワー・ステーションで追求した、
ビートを基本にした、ダンサブルな
ファンキーさとでもいうものを改めて整理しなおし、


一方のB面では、
いわばアシッド・テイストともいうべき、
2nd所収のSave a Prayer(♭1)から始まって、
後に93年のOrdinary Worldへと連なっていく、


アーケイディア・サウンドの核でもあった、
いわばいびつというか、いい換えれば
ある種の闇を備え持った叙情性の
音楽的な探求だったのだろうと思う。

そんなことを考えながら
改めて本作を聴くと、


その二面性がA面B面にはっきりと
棲み分けてられている訳でも決してなく、


微妙に入り組んだ形で
構成されていることがわかる。

このあたりがまた、このアルバムの
一筋縄では解釈できない部分なのだが、


しかしながらこういったコンセプトは
バンドが意図したほどには、
市場に受け容れられなかったようで、


先行シングルI Don’t Want Your Loveが
トップ5入りをはたす、
まあ十分な大ヒットにこそなったものの、
アルバムのセールスは決して芳しくはなかった。

贔屓目を承知でいうけれど、
少しだけ早過ぎたのかもしれないとも思う。



さて、今回の記事のタイトルにした
Drug(It’s Just a State of Mind)は、
そのファンキーなA面のラストを飾っていた
作中でも一際派手なナンバーである。


どうしてこの曲を
シングル・カットしないのだろう。

最初に音だけ聴いた時は
率直にそう思ったものである。


――けれどすぐに納得した。

だってタイトルがDrugで、
しかもサビのラインがUse Meなのである。

オンエアを取るのが
相当難しいことは疑いようもない。


かける方も勇気が要るだろうし、
頼む方だってかなり気が引けるはずである。
その辺りはわが国も欧米も同じであろう。


しかも、このUse Meの直後には
夜中眠りたくない時は、
なんて表現も出てきている。

単に精神的な状態のことをいってるんだよ、と
いいわけしても、さすがにちょっと
これは通じないでしょう。


ちなみにビートルズの
A Day in the Lifeの最後に登場する
I’d love to turn you onなる一節も
実は薬物に関する隠語なのだそうである。



いずれにせよ、このDrugというトラック、
前作NOTORIOUSから採用された
彼ら独自のファンクへのアプローチが、

デビュー以来一貫している彼ららしい
先鋭性、あるいは攻撃性と
見事に融合をはたした一曲だと思っている。



まあ以上のようなことを、
つらつら裏を取りながら
何日かかけて書いていたのだけれど、


実は同曲は、一旦は四枚目のシングルの、
候補として挙がってはいたらしく、

そのためのリミックスの作業も
早い段階ですでに為されていた模様。


ところがサード・シングルとして切られた
前述のDo You Believe in Shame?が
あまりにもヒットしなかったため、


レコード会社からリリースを
見送れられてしまったというのが、
どうやら真相であるらしい。

うーん、なんともコメントしづらいなあ。

この時もしも、この曲か、でなければ
Big Thingの方がセカンド・シングルとして
切られていたとしたら、


きっとアルバムの評価も
もっと違っていたんじゃないかな、とか
ついそんなことを考えてしまう。

まあだから、多分どころではなく
贔屓目の見解ではあるのですけれど。



そしてしかも、たぶんこのくらいの時期から、
ジョン・テイラーが
それこそまさに薬物の問題を抱え込んでしまい、


バンドはここからしばし、
迷走というしかないような状態に

さらに足を踏み入れていって
しまうことになるのだけれど、


今回もまた、テキストが
相当長くなってしまったので
今日のところはこの辺で。


でもやっぱり最後に。

かくのごとく、最初こそかなり
戸惑った本作ではあるのだが、


繰り返し聴くうち、そのいわば地味な後半の
PalominoやLandが段々と好きになってきた。


それからクロージングの
The Edge of Americaから
Lake Shore Drivingに続くメドレーの

ラストに相応しい盛り上げ方と、
そしてこの、カット・アウトによる
唐突な幕切れの作り方は、


やっぱりすごいセンスだよな、と
思うようになりました。


だから後半が聴けるようになると、
全然退屈しない一枚なんですけどね。