ラジオエクストラ ♭27 Do They Know it Christmas? | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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バンド・エイドである。絆創膏ではない。
今年、また復活を果たしたようだし。
まあ、メンバーは当然全然違うのだろうけど。

もちろん僕が取り上げるのは
84年のオリジナルの方である。


Do They Know It’s Christmas/BAND AID

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パーマネントなグループではないので、
こちらエクストラでの扱いの方が
むしろ相応しいかなと思った次第。



さて同年の冬、このプロジェクトのニュースを
最初に目にした時はやっぱり仰天したものである。

こんな面子が一つのトラックで
一緒にプレイしてくれているなんて、
最高のクリスマス・プレゼントだと思った。



頭から順番に、リードを取っている
シンガーを並べていってみる。


開幕のラインの担当はポール・ヤング。
当時ホール&オーツのカヴァーである
Every Time You Go Awayというナンバーが、
なんだか突然に大ヒットしていた。

後を受けるのは、カルチャー・クラブの
ボーイ・ジョージである。


いつもこのラインと、それから少し後に出てくる
この人のスキャットの部分を聴くたびに、
なんて独特な声なのだろうと改めて思わされる。


続いてはワム!のジョージ・マイケル。
そしてデュランデュランのサイモン・ル・ボンは
途中からスティングとのデュエットへ。

一瞬だけ映るのはスパンダー・バレエの
トニー・ハドリーの姿である。


リハーサルの段階で全曲をまず最初に
一人で歌ったのが、どうやら彼だったらしい。


残念ながらソロの部分ではほとんど
このハドリーの声は聴こえてこないから、
これはその時のショットだろうと思われる。

それからU2のボノがサイモンと
入れ替わる形でかぶさってきて、
そのまま彼のソロ・パートへと入る。


実際スティングとボノのハモリを
聴けるのなんて、あるいは
このトラックだけではないかとも思う。


ちなみにスティングとサイモン・ル・ボンとは、
この翌年のアーケイディアのアルバムで、
一緒に歌っていたりもしたりするのだが。

さて、曲はそれからコーラス・パートへと入る。

カウンシルのポール・ウェラーに
バナナラマの三人。


カルチャー・クラブのジョン・モスや、
DDのほかのメンバーも、
少しずつだが画面に映る。

当時シャラマーのリード・シンガーだった
ジョディ・ワトリーは、アメリカからの
数少ない参加アーティストの一人だった。
もう一組はクール&ザ・ギャングの面々である。


ドラムを叩いているのは
飛ぶ鳥を落とす勢いだったフィル・コリンズ。


ほか何人か、僕では顔と名前が
一致しない姿もある。

おそらくはステイタス・クォーやヘヴン17、
でなければラッツのメンバーだろうと思う。


実はポール・マッカートニーとボウイも、
一応クレジットされてはいるのだけれど、


どうやらこの二人
コメントのみの参加だったようで、
PVには映っていない。

ちなみにボーイ・ジョージは
この日アメリカから帰ってきて、
夜自分のパートをレコーディングしたのだそうで、


だから彼だけは、ほかの参加メンバーと
一緒に映っているショットがないのである。


あと、レコーディングが実施されたのは、
トレヴァー・ホーン所有のスタジオである。
この一日、プロジェクトのために
無料で貸し出されたのだそうである。


いずれにせよ、ここまで僕の取り上げてきた
アーティストたちの揃い部みであることは、
すぐにおわかりいただけるだろうと思う。


そういう訳でまあとにかくこのトラック、
重要なクリスマス・ソングであると同時に、


僕のティーンネイジの、だけど本当
なんていえばいいんだ、こういうの。
だからとにかく、形容しがたい何かなのである。


さて、以前にも少しだけ触れたように、
このバンド・エイドは、
ブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフが


ウルトラヴォックスのミッジ・ユーロを
パートナーに立ち上げた、
エチオピアでの飢餓救済のための
チャリティー・プロジェクトである。


だから、いかにもクリスマスらしい、
陽気さと敬虔さとを兼ね備えた曲調とは裏腹に、
リリクスは極めてシニカルである。


世界に食べ物を。
彼らは今夜がクリスマスだってことを、
はたして知っているのだろうか。



こういう、スノッブともいいがたい、
ある種の婉曲さが、
いかにもイギリスらしいと思う。


だから個人的にはWe Are the Worldの
衒いのないストレートさに比べてしまうと、
どうしてもこちらに軍配が上がるのである。

いや、あちらも見て聴いて
本当にすごく楽しみはするのだが。



いずれにせよ、何よりこの曲は、
食べるということの切実さを、


このクリスマスの空気の中で、むしろ
あからさまに思い起こさせてくる。

色とりどりのオードヴルやら
骨付きのターキー・レッグやら
あるいはケーキやらを前にして
否応なくその重さを考えさせられる。


これ、考えてみれば相当痛烈である。


本年、バンドエイド30と銘打って、
このプロジェクトが再開したのは、

やはりあの時と同じアフリカの地を
今や縦横に苛んでいる、エボラ出血熱の
対策のための寄付を募ってのことである。


先日このニュースがテレビで流れた際、
一瞬だけボブ・ゲルドフの姿が映った。


髪はすっかり真っ白になり、
どこか内田裕也さんを
思わせるような風貌へと変わっていた。
あるいはむしろ当然のことなのかもしれないが。

いずれにせよ、あれから30年だもんなあ、と、
まあそんな感慨を抱かざるを得なかった。



なお、この曲については、僕は実は、
いわばこのブログの元ネタとなったともいえる
『北緯四十三度の神話』という作品でも
作中のラジオ番組で取り上げている。



たぶんこれまでの僕の本の中では、同作が
一番クリスマス・ストーリーっぽいかなとも思う。
一応ハッピー・エンドのつもりだし。

ちょうど起承転結の転の部分が、
聖夜の出来事となっております。


めずらしくリアリズムを逸脱する要素はなし。
その分ちょっと構成の方を凝っています。


いうなればクロス・カッティングの
ある種の変形。

もしお目に止まる機会がありましたら、
大変嬉しく存じます。



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