ラジオエクストラ ♭24 Here, There and Everywhere | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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久々にビートルズなどかけておく。
今回はまずポールの作品から。
収録は66年の7th、REVOLVER。

Revolver (Dig)/Beatles

¥3,011
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REVOLVERは、それぞれ以前エクストラでも
取り上げたRUBBER SOUL(♭5)
SGT. PEPPERS(♭4)との間に位置する作品。
実験的作風が一層顕になってくる一枚である。


たとえば二曲目のEleanor Rigbyでは、
バッキングは全編弦楽四重奏である。
これだけでもうすでに、
単なるロック・バンドの作品ではない。


前作収録のNorwegian Woodで導入された
インドの楽器シタールも、ハリスンの
Love to Youというトラックで、
大々的にフィーチャーされている。

のみならずこのアルバム、史上初めて
ある種の特殊なダビング技術が施されたり、
録音テープを逆回転した素材が使用されたりと、
とにかく非常に前衛的なのである。


こんなものが自分の生まれた年に、
作られていたのだなあ、と、
まあこの年になっても唖然としてしまう。


だからやっぱり、ビートルズ以前と以後で、
音楽、とりわけポピュラー・ミュージックが
大きな変貌を遂げてしまったことは

改めてここで僕などがいうまでもなく
疑いを差し挟む余地もないのである。


確かに本作では、トラックの手触りが
全体的にエルヴィスやチャック・ベリー、
エディ・コクラン辺りが活躍していた
黎明期のロックンロールとは
明らかに異なってきている。


それは同時に、彼ら自身の初期の楽曲群とも
微妙にぶれているということでもある。

たとえばShe Loves Youや
I Wanna Hold Your Handなどの
楽曲らを顕著に彩っていた、
痛快ともいうべき明るさを


本作の収録作品に見つけることは、
残念ながら少なからず難しい。


ただし、ある種のフロンティアに立ちながらも
決してアヴァンギャルドであることだけを
追求してしまわないところが、
やっぱり彼らのすごいところなのである。


本作収録の、とりわけジョンの手による
楽曲群は、なんというか、ギリギリである。


たとえばラスト収録のTomorrow Never Knows。
これ、ワン・コードで書かれている。


どういうことか。ベースを聴くとわかる。
おおよそ三分弱の間
一つの音程しか鳴らされていない。

そういうある種の制約を自身に課したうえで、
ではどうすれば一つの楽曲として
成立させることができるのかという試みが、
たぶんこのトラックの随所にあふれている。


同曲には、カモメの鳴き声のような
独特の効果音が全編にわたって登場してくる。


シンセサイザーがここまで進化した現在ならば、
たぶんこれはさほど難しくはないかもしれない。

だが時代は60年代なのである。
ようやくムーグシンセサイザーなる機械が
世界に登場してきたくらいの時期だった。


だからこういったSEを探し作り出すために、
バンドのみならず、プロデューサーのG.マーティン、
エンジニアのG.エメリックらまで巻き込んで
各トラックで恐ろしいほどの時間がかけられている。


さらに同曲のギター・ソロは、
聴けばわかる通り非常に奇妙な響き方をしている。

これ、逆回転で収録されているのである。

どうやって録ったかというと、
まず普通に引いたメロディーを
逆回しに再生して、それを改めて採譜し、
その譜面に従ってジョージが弾き、


今度はそれをまた逆に回して
上からダビングしてあるのである。
同じ試みはI’m Only Sleepingでも為されている。

でもこのラインが、これらの曲には本当に
ぴたりとはまっている。


だからジョンの頭には、そういうイメージが、
たぶん最初からあったのだろう。
むしろこうでなければ
ならなかったのに違いない。


このTomorrow Never Knows以外にも、
上のI’m Only SleepingやDoctor Robert,
あるいはShe Said, She Saidと、

ある意味ではこれまでの彼らの作品には、
見つけることのできなかった特異なテーマが、
きちんと一つの楽曲へと昇華されている。


そういうトラックが、本作では
次から次へと登場してくる。



さて、ジョンの曲ばかりに言及した形に
なってしまったけれど、今回のメイン、
Here, There and Everywhereは
ポールの手による極めて美しいバラードである。

昔からこの曲が、いわゆる赤盤、青盤に
収録されていないことが不思議でたまらない。


こればかりはジョージに文句をいいたい気がする。
ちなみに赤青の選曲を任されたのが彼なのである。


さて、ポール・マッカートニーという人の作る旋律は、
斬新なのに、どこかでノスタルジーを誘ってくる。
Yesterdayがそうだし、Hey JudeもLet it Beにも
やはり同じ手触りがある。

本作でも、その特徴は十二分に
発揮されているといっていい。


最初に触れたEleanor Rigbyはもちろんのこと
Good Day SunshineやFor No One辺りも
知名度こそ上の楽曲群にやや劣るかもしれないが、
すでにスタンダードの部類に入るはずである。


それでもフェイヴァリットを選ぶとなると
やはりHere, There and Everywhereになる。
個人的にはアルバムのハイライトといっていい。

まあ、本当に名曲である。
語る言葉がすぐには見つからないくらい。



だから、全体を一枚のアルバムとして聴いた場合
ジョンに兆し始めた(あるいは生来のものだった)
鋭利過ぎるほどの先鋭性と、


ポール特有の、ある種の普遍性へと
向かっていこうとするベクトルとが、
トラックごとに様々な形で鬩ぎ合っていて、

結果として非常に起伏に富んだ作品に
仕上がっているといえるのではないかと思う。


本作を、ビートルズというバンドの
最高傑作として挙げる方が多いのも
極めて頷ける話なのである。


そういう訳なので、ほかの収録曲についても、
上で挙げてしまったものも含めて、
また機会を改めてここで取り上げるつもりである。

まあここは本当、気分なので、
いつになるかは全然わからないのだけれど。



さて、以下はREVOLVERに関する基礎知識。

まずはジャケット。これ、デザイン、イラスト共、
クラウス・フォアマンという
ドイツのイラストレイターの手によるものである。

彼自身ベーシストでもあり、後年、
ジョンのプラスティック・オノ・バンドにも
参加している。


それからタイトルに関するエピソード。

制作は当初、ABRACADABRAなる
アルバム・タイトルを
想定しながら進められていた。

だがそれがしっくりとこなかったらしく、
なかなか決定にはならず、二転三転とした。


ようやくメンバーがこのタイトルを
思いついたのが、日本公演の最中であり、


同地から本国のレコード会社に
電話だか電報で知らされたのだというのも、
やはりかなり有名な逸話である。

だからたぶんこれ、ほぼ間違いなく、今はなき、
キャピトル東急(当時の東京ヒルトン)での
出来事なのである。


まあ今回もまたずいぶんと長くなったので、
今日のところはこの辺で。