ブログラジオ ♯48 If You Don’t Know Me by Now | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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シンプリー・レッドである。
大物にしては、やや紹介が
遅くなってしまった感はあるが。

名前にあるレッドは、ヴォーカリストであり、
中心人物というか、ある意味では
バンドそのものだともいえるのかもしれない、


このミック・ハックネルなるシンガーが
生粋の赤毛であることに由来している。


New Flame/Simply Red

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このハックネルについては、以前一度
ジミー・ソマーヴィル(ブログラジオ ♯30)の時に
ポーターがらみで名前を出している。


デビュー当初は、このハックネルに率いられた
四人か五人の編成だったと記憶している。
スパンダー・バレエのサックスが、
ペットに変わったようなイメージだった。


だがとにかくこのバンドもやはり
メンバーチェンジが極めて激しかった。

まあそもそも活動期間が長いし、
しかも第一線にしっかりと
とどまり続けていた訳だから、そのために
必要だったという側面もあるのだろう。


むしろU2みたいなのが特別なのである。

だから彼らの場合、作品ごとに結構、
音のタッチが変わっていたりもする。

それがバンドの編成によるものなのか、
あるいは戦略的なアイディアだったのかは、
正直判断に迷うところである。


でもたぶん両方だったのだろう。

実際デビュー・アルバムから、
Holding Back the Yearsというトラックが
いきなり全米でもトップ・ワンという
大ヒットになるのだが、

実はアルバム所収のほかのトラックは
個人的にはイマイチだった。


なんだろうなあ、たぶんハックネルの歌い方が
ほんの少しだけ野暮ったく思えたのである。


このバンドはもういいかな、
くらいの気持ちでいた。

打ち明ければ2ndのMEN AND WOMENは
今も未聴のままである。
それなりに売れてはいたように
記憶しているのだけれど、手が伸びなかった。


ところが、そこへ登場してきたのが、
この3rdアルバムNEW FLAMEだった。


聴く気になったのは、このジャケットの
パープルともピンクともつかない
鮮明なバックカラーのせいである。

元々アプローチが嫌いなバンドではないのである。
なんとなく、当たりの予感があった。
そしてその期待が裏切られることはなかった。


なるほど音のつくりが極めてタイトになっていた。
同時に適度な華やかさが全編にわたって感じられた。


もちろんミックのヴォーカルも、
耳障りに響くことはなかった。

――へえ、化けたな。

僭越ながらそんなふうに思ったものである。

さて、今回のご紹介の
If You Don’t Know Me by Nowも
もちろん同作の収録である。
ちなみに邦題を『二人の絆』という。

元々はハロルド・メルヴィン&
ザ・ブルー・ノーツなるグループの、
72年のヒット曲である。


このトラック、なんと全米で
バンドにとって二曲目の
ナンバー・ワン・ヒットともなっている。


まあ、やや狙い過ぎのキライは否めないが、
その試みをいともたやすく
成功させてしまうのだから、やはり凄い。

このヒットがシンプリー・レッドという名を
不動のものにしたといっていいだろう。
89年の出来事である。


続いたSTARSでこのバンドは、
とりわけ本国イギリスを含む欧州地域で、
最早怪物クラスのビッグ・ネームへと進化する。


もっともこれらは90年代の出来事なので、
正直僕自身は、それを肌で感じた記憶があまりない。
明日の昼食や、来月の家賃のことばかりを
心配していた時期なのである。残念だが仕方がない。

で、このSTARS、何がすごいかといって、
全英の年間チャートで二年連続で
トップワンに君臨しているのである。


ウラは取っていないけれど、
たぶんこんなこと、ビートルズやストーンズですら
成し遂げてはいないのではないかと思う。



今回改めて聴きなおしてみて思ったのだけれど、
この頃から彼らのサウンドは確実に
当時勃興し始めてきたクラブ・シーンに
微妙に、あるいは適度に寄り添っているように思う。

いわゆるハウス・ミュージック、つまり、
あの頃アシッド・ジャズとか、あるいは
グラウンド・ビートとか呼ばれていた
種類のアプローチである。


ソウルⅡソウルとかインコグニートとか
あるいはブラン・ニュー・ヘヴィーズ辺りが
代表格に挙がるだろうか。


で、その取り込み方の匙加減が絶妙なのである。

ハックネルの唱法も、作曲の方法論も、
あからさまといっていいくらいに
はっきりとソウル/R&Bの影響下にある。


そのテイストを失わないままのニュアンスを、
いわゆるドラムンベースのリズムに
的確に載せてきているのである。


以前に触れたデペッシュ・モードの場合と、
ある意味でパラレルだともいえるかもしれない。
もっともデペッシュの場合は、
オルタナティヴへの接近だったが。

いずれにせよ、このハックネルにせよ
デペッシュのマーティン・ゴアにせよ、
そういう時代の潮流を、
意識的無意識的にかかわらず鋭敏に感じ取り、


それをまた自分のスタイルとして
改めて昇華しなおすことのできる
優れたアーティストだったのだろうと思う。



さて、バンドは残念ながら
2010年をもって正式に解散している。

ハックネルいわく、25年もやったんだから
もう十分だろうということらしい。


まあ彼の場合、ソロでやっても
やりたいことはさほど変わりは
しないのではないかな、と思うのだが。



ではトリビア。

今回出したドラムンベースという用語は、
ジャングルというリズムから派生してきた
一形態であるとして通例用いられている。


大まかにいえば、低音や打楽器が早いBPMで
複雑に鳴っているのだけれど、


それが一つのうねりのようになって、
ある意味ミッドテンポの手触りを
感じることもできるようになる
とでもいったようなスタイルである。

ベースがひどく上下に動いたり、
あるいはハイハットの刻み方が
細かくてひどく変則的だったりする。


とりわけドラムスは、たぶん三分なり五分なり、
生身の人間がこのパターンをキープするのは、
たぶん無理だよな、と思うこともしばしばである。


だから、シーケンサーが登場していなければ、
生まれてこなかったであろう
リズムであることは間違いがない。

ちなみに後期のEBTGのトラックにも、
この種のアプローチを見つけることができる。


そしてたぶん、このジャングルなる
リズムを採用した一番有名なトラックが、
小室さんと浜ちゃんの
WOW WAR TONIGHTなのである。