11’01 別冊カドカワ 総力特集佐野元春 | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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同誌に記事を書かせていただけたことは、
ある意味で、僕にとって間違いなく
人生におけるクライマックスの一つだったとさえ
いってかまわないくらいかもしれないとも思う。

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さて、電話でまくし立てた僕の希望に、
たぶん担当者女史と、それから編集長氏とは、
とりあえずは相当頭を悩ませたのではないかと思う。


もちろんこういった種類の企画であれば、
ただこちらが書きたいからというだけでは、


錚々たる執筆人の中に、そんなに簡単に
名前を連ねさせてもらえる訳ではないことも
多少はお察しいただけるのではないかと思う。

まず何よりも、アーティスト御本人か
あるいは事務所サイドからの
了承が得られなければ成立しないのである。


そういう訳で、とにかくまずは編集長氏が
佐野さんサイドに僕のことを
プレゼンしてくれるところから
たぶん話は始まったはずなのである。


これは後になって教えていただいたのだけれど、
この時彼は、以前の陽水さんの時の僕の記事を
参考として先方に渡して下さったのだという。

ちなみにこの陽水さんの企画の際には、
幸運なことに、事務所のスタッフの中に
拙著『四日間~』に一度目を通して
気に入っていて下さった方がいらっしゃった。
バック・ステージでわざわざ御挨拶も戴いた。


そういう背景もあり、割とすんなり
起用してもらえたのかなとも想像している。


だから、仕事って一つ一つが少しずつ、
次へ次へと繋がっていくのだなあ、などと、
この時は割りと真剣に感じ入ったものである。

まあおおよそはかくのごとき次第で
この号で僕に任される記事は、


始まったばかりのコヨーテ・バンドとの、
クラブ・サーキット・ツアーの
そのレポートということに相成った。



すっかり寒くなった小雨交じりの十月末、
大宮の駅へと降り立った。
会場はヘヴンズ・ロックだった。

脳裏には自ずと、佐野さんの音楽を聴きながら、
机に向かっていた十代の記憶が甦っていた。


なんとなく、こんなふうに書きたいな、
みたいなものが捕まえられそうな気がしていた。


まあステージの模様は、
記事にも詳細に書いたので、
今回は割愛させていただくことにする。

という訳で、終演後である。
改めて佐野さんに御紹介いただいた。


うわ、佐野元春が目の前にいる。
(勝手ながら敬称略)
本当にそう思いましたよ。
それしか言葉が浮かばなかったです。


もちろん『NO DAMAGE』のCDを持参して、
そこにサインしていただきました。

もう本当に、宝物である。

実際自分が直接あの佐野さんと
言葉を交わす機会が訪れるなんてことは、
あの頃は思ってもいなかったのである。


本当に自分が現実の時間を
生きているのかどうかさえ、
ともすれば覚束なくなってしまいそうだった。

そんな気分をそのままずっと抱えたまま、
長い電車に揺られて帰宅した。



その興奮もまだ冷めやらぬ翌日のことである。
昼前に担当女史から電話があった。


実は佐野さんの方から、昨夜はステージの音に
少しだけ不満があったので、できれば書く前に、
名古屋でのライヴも見てもらった方が
いいのではないかという御提案があったのだという。

もちろんこちらとしては、二つ返事で頷いた。

すごいな、と思ったのは、
雑誌の方もこの追加の取材を即断したことである。


おかげさまで僕は、あの有名な名古屋の
ボトム・ラインで、もう一度彼らのステージを
拝見することまでできてしまったのである。

ちなみに同所に足を踏み入れたのも
この時が初めてのことだった。


改めて細かな部分を確認しつつ、
二度目のステージを拝見した後には、
大宮で自覚したあの手触りも
より鮮明で、強固なものになっていた。


だから帰ってすぐ、ただちに原稿に着手した。

それこそ卒論を出しているような気持ちだった。
いや、たぶん本当の卒論より
よほど真剣に書いたのではないかとすら思う。


もう臆面もなく自分でいってしまうけれど、
この時のテキストには半端ではなく自信がある。


通り一遍のレポートにはなっていない。
ある種小説的な仕掛けが施してもある。

自分でも、こんなユニークなものは、そう簡単に
もう一度は書けないんじゃないかなくらいに思う。
それだけの手応えが確かにあった。


ちなみにタイトルを『永遠のボーイズ&ガールズと
過ぎ去った三つのディケイドのために』という。


もし興味を持っていただけたなら
それは非常に嬉しいのだけれど、
今のところ、この記事に関しては
同誌を取り寄せていただくしかない。

いつか本にできる機会があればなあ、と、
実はずっと考えている一編である。



さて、年が明け、一月には無事雑誌も刊行された。


そして三月になり、あの震災が起きた。


すべてが前と同じではなくなるのだな。

思い出せばそんな気分ばかりを日々
無力なまま抱えていたような気がする。



その衝撃がようやく薄れかけた頃のことである。

とある雑誌の編集長の方から、
初めての御連絡を頂戴した。


訊いてみると、佐野さんの事務所からの御紹介で
僕にコンタクトを取って下さったのだという。


我知らず、気づけば息を飲んでいた。

といったところで、どうやらそろそろお時間である。
いや、本当にそういう訳では決してないのだけれど。


いずれにせよ、続きはまた
次の機会の講釈で、ということで。