ブログラジオ ♯43 The Cutter | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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エコー&ザ・バニーメンという。
リヴァプール出身の四人編成のバンドである。

あの頃はよく、エコバニなどとも
適当に略して呼んでいたものである。


Porcupine/Echo & The Bunnymen

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リード・ヴォーカリストの名を
イアン・マッカロクという。


このファミリー・ネーム、他ではあまり、
というかほぼ目にしたことがない。

スペルがMcC~と始まっているので、
おそらくスコットランド系だろうとは
当時から勝手に思っているのだけれど、
恐縮ながらウラを取ったこともない。


サウンド的には、パンクのニュアンスを
それなりに残しつつ、80年代の潮流にも
巧妙に接近していったという感じの
音楽性だったのではないかと理解している。


ギター、ベース、ドラムのいわば
基本のスタイルの上に、トラックによって
巧妙に弦や鍵盤やほかの音色が載せられて、

これがマッカロクの特徴的な声と相俟って、
独特の雰囲気を作り上げてくるのである。
野暮ぎりぎり、みたいな感じ。


とにかくこのマッカロクの歌い方には、
一方ならぬ癖がある。
投げやりというか、ひどく乱暴に
聴こえることもしばしばである。


ちょっとべたつくというか、
すんなり通るというよりは、
空気に絡みついてくる感じ。

だから、どこかミック・ジャガーや
先に紹介したボブ・ゲルドフに
通じるスタイルではあると思う。


正直、最初はちょっとだけ抵抗があった。
ところがこれが繰り返し聴くうち
すっかり癖になってしまうのである。


しかも曲のユニークさは
やはり頭一つ抜けていて、
デビューから一貫して本国での評価が
非常に高かったことにも頷ける。

基本シンプルなのに、どこかが独創的である。
そういうのって、たぶんすごく大事だと思う。


とりわけこのエコバニの場合、なんだか音階が
ひどく奇妙に響くことが多い。
それが独特のエキゾチシズムを醸し出してくる。


実際昔はBring on the Dancing Horsesという
ベスト盤で発表されたおとなしめのトラックが
一番の好みだったのだけれど、

今はむしろRescueやThe Puppetといった
初期の楽曲の方が、
この特徴がより前に出ていて、
彼ららしいなとも思うようにもなった。



さて、今回のThe Cutterは83年の3rdアルバム、
PORCUPINEのオープニング・ナンバーである。
ちなみにこのPORCUPINEとはヤマアラシのこと。


レコードをプレイヤーに置いた途端に、
いきなりどこかエスニックなストリングスが、
それこそ空間にとぐろでも巻こうとしている
蛇みたいな雰囲気で絡み付いてくる。

だが決しておどろおどろしくはない。
むしろ陽気というか、
コミカルぎりぎりのラインで迫り出してくる。


このトーンが、イアンのヴォーカルスタイルに
極めてきっちりはまるのである。


サビのシャウトの直後の、
ギターのストロークのタッチも巧妙。
この感じ、ほかのバンドでは
なかなかお目にかかれない。

このPORCUPINE続いて発表された
4th、OCEAN RAINからの
一風変わったバラード・ナンバー、


Killing Moonが、本国のみならず、
全米でもそこそこのヒットとなって、


バンドはついにその名声と地位を
不動のものとしたかのようにも見えた。

だが、どうやらこの頃から
すでにグループの内部には
軋みが走り始めていたらしい。


OCEAN RAINの後、ベスト盤を一枚挟んで、
その次にはバンド名をタイトルにした


いわゆるセルフ・クレジットの五枚目こそ
どうにか発表しこそするのだけれど、
そこでついにバンドは空中分解してしまう。

ソロキャリアに興味を引かれた
ヴォーカルのイアンがまず脱退し、
前後して不幸にもドラマーが事故死する。


この五枚目がやはり完成度の非常に高い
一枚だっただけに、今思うと相当惜しい。


改めて、続けるということの
難しさを痛感しもしてしまう。

さて、残されたバニーメンたちは、
新たなヴォーカリストとドラマー、
それに今度はキーボーディストとを迎えて、
バンドを存続させはするのだけれど、


まあこの新体制でのアルバムの出来は、
どうやら散々なものだったらしい。


僕自身は一度も聴いていないので、
本来は断言するべきではないのだが、
実際ほぼ話題にもならなかったことは
間違いのないところではある。

なお、現在はマッカロクと、ギタリストの
ウィル・サージャントとが組んで、
97年にバンドを復活させ、
今も存続させているようではある。


昨年も新譜が出ているようだが、
恐縮ながらこちらも未聴。


さらにこれは余談だけれど、
一昨年かその前辺りにボウイが
すっかり沈黙してしまった際、

このイアン、どうやら追悼作品の
準備を始めていたなんて噂も目に入ってきた。


勇み足にもほどがあろうというものである。
まあでも、彼のキャラクターには
似つかわしい挿話かもしれないとも思う。



さて、今回のトリビアもまた、
前回と同様バンド名から。

だけどまあたぶん、使いどころは先の
トンプソン・ツインズよりもさらに難しい。


このエコー&ザ・バニーメンという表記、
素直に取れば、エコーというフロントマンと
バンド・メンバーという形を踏襲している。


スモーキー・ロビンソン&ミラクルズとか、
あるいはそれこそ、ジギー・スターダスト&
スパイダーズ・フロム・マーズとか。

ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツなんてのも、
たぶんポップ・ミュージックの歴史の中では
かなり重要な位置にある。


ところがこのエコー&ザ・バニーメンの場合、
フロント・マンは上述のようにイアンである。


もしエコーがイアンの愛称ならば、
それで問題は解決しそうだが、
残念ながらそうではない。

ではこのエコーとはいったい何ものか?

答えは機械なのである。

バンドの結成当初、ドラマーだけが
なかなか決まらなかった彼らは、
一台のドラム・マシーンに
リズム・キープを預けていた。

たぶんデモのレコーディングはもちろん
時にはステージにも、この機械を
伴っていったのではないかと思う。


彼らはそうして、この一台に、
エコーという名前を授けるのである。


メジャーデビュー間際になってようやく
ドラマーが正式に加入するのだけれど、
このエコーがそのまま、バンド名として
残ってしまったというのが由来である。

もちろんあえてそうしたのだろうが、
なんか、このひねくれ具合が、
イアンの歌にも出ている気がして、
共感というか、つい納得してしまうのである。


だから、イアンが抜けていた時期も、
彼らはエコー&ザ・バニーメンを
名乗り続けられたという訳である。


さて、実はこのエピソード、
個人的にかなり気に入っていて、
短編の一本のモチーフにも使用している。

ドラム・マシーンと野郎二人の、
いびつなスリー・ピース・バンドが
ホテルで過ごす一夜の話である。


現段階では未発表だが、いずれなんとか
日の目を見せられるように
したいつもりではもちろんいる。


だからもし見つけた時には、あ、これか、と、
ほくそ笑んでいただければいいな、とも思う。

来年出るかな。出せるといいなあ。