ブログラジオ ♯44 Whose Side Are You On? | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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マット・ビアンコなるグループである。
あるいはあのバーシアが、
一時期在籍していたバンド、といった方が
ひょっとして通りがいいかもしれない。

というか、バーシアだってひょっとしてもう
誰にもわからないのかもしれないんだよなあ。


Whose Side Are You on/Matt Bianco

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紹介は84年の彼らのデビューアルバムである。
O.ウェルズの『第三の男』辺りに出てくるような
モノクロの地下道が雰囲気を出している。


まあちょっと音のイメージとは違うのだけれど。

さて、改めて『マット・ビアンコ』と書いてみる。

一見しただけでは、これがバンドの名前だとは
誰もなかなか思わないのではないかと思う。


印象はむしろ人名ではないだろうか。
それもラテン系の、ちょっと気障で、
しかもやたらと軽いタイプの男。

そんな感触ではないだろうか。

なんというか、それ行けスマートみたいな。
いや、もうそんな番組誰も知らないってば。


で、半ば誘導尋問みたいになったけれど、
だいたいそれで正しいのである。

このマット・ビアンコというのは、
バンド名であると同時に、
アルバムのモチーフとなっている
架空のキャラクターのフル・ネームなのである。


しかもこのマット、スパイという設定である。

さて、改めて彼らのデビュー・アルバムの
タイトルへと目を戻す。

WHOSE SIDE ARE YOU ON?

あんたいったいどっちの味方なの?
おおよそそんな感じの意味である。


このアルバムには『探偵物語』という邦題が
つけられていた。たぶん今もそのままのはず。

念のためだが、もちろん松田優作さんとは
まったくもって無関係である。


ただまあ、探偵物語といういわば四字熟語が、
あの頃非常にポピュラーだったことは否めない。


というか、考えてみればテレビシリーズと
映画とで、まったく別々の作品が
同じタイトルで作られていて、
しかもその両方が、彼が主役だった訳である。

あまりこういう例もないのではないだろうか。

でも探偵という言葉も字面も、
本当に松田優作さんに似合っているとは思うけど。


さらに念のためですが、この優作さんは、
松田龍平、翔太兄弟のお父さんです。

いや、こういわないとわからない人も
ひょっとして読んでくれてるかもしれないし。


あと、映画の『探偵物語』の
薬師丸ひろ子さんによる同名の主題歌は
あの大瀧詠一さんの作曲でした。
これもなかなかの名曲です。


ああ、今回はまたずいぶんと
話が遠回りしているなあ。
とにかくマット・ビアンコへと戻ることにする。

さて、このマット・ビアンコが特筆すべきなのは、
いわゆるラテン系のリズムのノリを、
ジャズのエッセンスを適度にまぶしながら、
巧妙に時代のエッセンスと融合させた点であろう。


率直にいってしまえば、アルバムで聴くと、
このアプローチが些か徹底し過ぎていて、
サウンドに一貫性があるというのを通り越し、


逆にどのトラックも、必要以上にどこか
手触りが似てしまっている感は否めない。

焼き直し的な要素が目立つ訳でもないのに
なんだか印象が同じなのである。


だが、これも欠点とはやはりいいがたい。
むしろ個性が際立っているということだろう。


ジャズ、ボサノヴァ、あるいはサンバ。
そういう気配が、どのアルバムでも、
時にファンキーな方向によりつつ、
全体としてきちんと纏め上げられている気がする。

だからこれ、夏に海辺とかでエンドレスでかけると、
それなりにかなり気持ちいいです。


もしサザンにちょっと飽きてきたら、
是非一度お試し下さい。


さて、Whose Side Are You On?は、
彼らのメジャーでの二枚目のシングルであり、
ここまでで皆さんおそらく御了解の通り、
デビュー・アルバムのタイトル・トラックである。

やっぱりこの曲が、一番いろんなアイディアが
効果的に採用され、巧みに構成されている。


まず間違いなく曲全体が、
スパイ映画のサウンド・トラックを
念頭に置いて作られている。


歌詞もそんな感じで、カフェを舞台にした
エージェント同士の騙し合いみたいな光景が、
ナレーションのようなトーンで語られる。

そしてサビでヴォーカリストが交代し、
バーシアの声が、例の一節を歌いあげる。


やっぱりこの人の声が、
実は要だったのだろうなあと、
改めて思ったりもする。


同作ではHalf a Minuteというトラックで、
彼女が全編リードを取っており、
こちらもまた佳曲で、英国のみではあるが、
スマッシュ・ヒットを記録している。


後にマドンナがI’M BREATHLESSという作品で、
こちらはDICK TRACYという探偵をモチーフに
ある意味彼らの手法と極めて近いスタンスを
踏襲しているかのようにも見える。


もっともあちらの場合、先にコミックがあったり
映画が決まっていたりと、
スケールがまるで比較にもならないのだけれど。



さて、トリビアといおうかなんというか。

このマット・ビアンコの中心人物は、
名前をマーク・ライリーという。


デビュー時が、このマークに、
先のバーシアとそれから
ダニー・ホワイトなる鍵盤奏者を加えた
三人のユニットという編成。


ところがダニーとバーシアとが恋愛関係になり、
さらには二人してこの一枚きりで脱退してしまう。

このバーシアは後にソロとして
大成功することになるのだけれど、
彼女はポーランドの出身なので、
だからその話は、イギリス編が終わったら、
また改めて取り上げるつもりである。


さて、ライリーは新たにファースト・ネームが
自分と同じマーク・フィッシャーなる人物と、
別の女性ヴォーカリストとを迎え、
どうにかこのマット・ビアンコを維持する。


だが結局はこのヴォーカリストも
極めて短期間で抜けてしまい、
マット・ビアンコはしばらくの間デュオとなる。
この編成を時にWマークと呼んだりもする。

だから、これだけの変遷をたどっても、
確かにヴォーカルの掛け合い的な妙こそ
二作目以降は姿を消してしまうのだが、


それでも基本的には楽曲の芯の部分が
まったくぶれて聴こえないのが、


たぶんこのマーク・ライリーなる人の
一番すごいところなのではないかと
今さらながら、つくづく思ったりもするのである。

本国やヨーロッパでの人気に比して、
このバンドがアメリカで成功することは、
残念ながらなかったといわざるを得ない。


メジャーとの契約も維持されてはいないけれど、
それでもバンドは04年のオリジナルの三人による
テンポラリーな再結成なども挟みつつ、


今もコンスタントに作品を
発表しているようでもある。

直近のアルバムは12年に出ているらしい。
もっともまだ聴いてはいないが。


いずれにせよ、この人たちには
このままずっと頑張ってほしいものである。