『Lie Lie Lie』 | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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中島らもさんによる『永遠も半ばを過ぎて』なる
小説の映像化作品。97年公開。配給は東宝。

Lie lie Lie

¥4,104
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鈴木保奈美がヒロインで、共演に豊川悦史と佐藤浩市。
この三人が三人とも、本作のいわば主人公である。


『松子』の時にもミュージカルという括りの中で
似たような表現をしたかと思うけれど、


この作品、邦画でコン・ゲーム作品として、
極めて見事に成功している非常に稀有な例である。

コン・ゲームというのは、簡単にいってしまえば
頭を使った騙し合いみたいなものの総称。
その性質上、詐欺師などを
主人公に据えることが多くなる。


代表格は『スティング』だろうか。
『オーシャンズ・イレヴン』も、一作目はまあ、
それなりにそういう要素を楽しめた。
もっともあれはそもそもが
リメイクだったと思ったけれど。


なお、同様に詐欺師を主人公にしていても
『ペイパー・ムーン』はコンセプト自体が
そもそもまるで違っているので念のため。

あとはジェフリー・アーチャーという
あちらの作家の作品群の多くが
このジャンルに分類されているはず。


まあこちらの方面に僕以上に詳しい方は
たぶんあちこちにいっぱいいらっしゃるので、
興味を持たれた方は、そちらをご参照下さい。
探せばたぶん、割りとすぐに出てくると思います。



さて、とにかくこの分野の良作に出会えた時の
爽快感というのはほかに替えられるものがない。
もちろん、そうそうはないことなのだが。

だから、正直自分でも一回くらいは
やってみたいなと、何度かは
考えてみたこともある。


しかしながら、日本という国を舞台に、
このジャンルを成立させるのは、
たぶん相当難しいのではないかと思う。


というのは、何故だか詐欺という行為そのものが、
この国では弱者を標的にしてしまいがちなのである。

あるいは逆にそういった役目を引き受けられる
圧倒的な強者が成立しない社会なのかも
しれないな、とも思ったりもしたのだけれど。


いずれにせよ、一瞬でも騙される側に
ああ、かわいそうだな、みたいな感情移入を
受け手に持たせてしまったならば、
コン・ゲームというジャンルは
おそらく失敗するに違いない。


何よりそもそも、仕掛け自体に説得力がないと、
まずどうにもならないし。

で、本作はある意味、その高いハードルのすべてを
ある種の発想の転換をもって、
見事にクリアしきって見せているのである。


主人公三人のうち、本当に詐欺師なのは、
豊悦演じる相川のみである。


佐藤浩市の役どころは写植工であり、
もう一人の鈴木保奈美は書籍編集者である。

――では、騙されるのはいったい誰か。

おそらくすぐにお察しいただけるのでは
ないかとも思うけれど、
もちろん保奈美の勤める出版社なのである。


でもこれ、たぶん三人の仕組んだ行為は、
法律的にはほとんど問題はないだろう。

実際核心はいわば、発注ミスである。

しかも、そのうえ間違いなく出版社側も、
彼らの計画の遂行に
(望むと望まざるにかかわらず)
一枚噛んでしまうことによって、
相応の利益を上げているはずなのである。


だからこれ、いってみれば
敗者のいないコン・ゲームなのである。

もちろん、この問題の本を買った人たちが、
皆内容に満足していれば、という留保は
たぶん必要だろうけれど。



原作の『永遠も半ばを過ぎて』という題は、
作中に登場する小説(?)のタイトルでもある。


誰がどのようにこの作中作をものすのかは、
この作品の根幹でもあるのでここでは触れない。

でもねえ、ここが本当に、
わかる気がするんだよねえ。


一応実作者の立場として、
こういうこと絶対ないとはいい切れないもの。


自分がチューブみたいになるって感覚は、
実は僕自身はすごく納得してしまいました。

らもさん御自身も時にそう感じながら、
実際に書いていらっしゃったのかなあ、
くらいに思ったことも本当である。


念のためだけれど、もちろんこんな
作中に出てくるような経験はないけどね。
この内容も、さっき触れた根幹の仕掛けに
関わってくるので、ここでは割愛。



さて、原作は三部構成になっており、
それぞれのパートに主人公三人の一人称が
割り振られる形になっている。

これだって、なかなかここまで完璧に
できるものではないよな、と思う。
視点が変わるにも関わらず、
プロットの開示が一切淀んでいない。


しかもこのスタイルを採用することで、
三者三様の行動原理が、
極めて明確に納得できるものになっている。


正直、かなわないな、と
ちょっとため息が出てきてしまう。

というわけで、原作、映画とも、
物語なるものを考えるうえで
非常に参考になる作品であることは保障します。


何よりも、観てて読んでて
とでも楽しいのである。



以下そのほかのスペック的なもの。

まず監督は『桜の園』『十二人の優しい日本人』で
当時一気に評価を高めていた中原俊氏。


特に後者は、三谷幸喜の脚本作品であり、
こちらも非常に面白かった。


音楽はあのボニー・ピンクが担当している。
主題歌の『たとえばの話』は極めて佳曲。

ほか、中村梅雀や本田博太郎、相島一之、
さらには故松村達夫といった個性的な俳優陣が
しっかりと脇を固めているのも
見所の一つであることは間違いがない。


だけどこれ、なんでDVDにならないんだろう。
もう一回観たいなあと常々思っているのだけれど。


まあきっと、いろんな事情があるんでしょうねえ。