『エリザベスタウン』 | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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以前『バニラ・スカイ』で紹介した
キャメロン・クロウ監督による05年の作品。

エリザベスタウン

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あの時、たぶんいずれ改めて取り上げると、
題名だけ出しておいて、
そのままにしてしまっていた。


前回キルスティン・ダンストの名前が出てきて、
そういえば、と思い出したという次第。
もちろん、本作のヒロインが彼女なのである。


『ロード・オブ・ザ・リング』への出演で
まずは世界の注目を一身に集め、続いて今や
ジョニー・デップの代表作とまでなった感のある
『パイレーツ・オブ・カリビアン』で、
ジャック・スパロウのある意味での相方、
ウィルを演じ、一気にスターダムへと駆け上った
オーランド・ブルームが主役に起用されている。

とはいえこの作品、決してこの二人による
単純なラヴ・ストーリーには留まらない。


もちろんそういう要素もあるにはあるのだが、
メインのテーマは違うところに置かれている。


冒頭のシークエンスは、なんだか
博物館みたいな雰囲気の場所で始まる。

主人公ドリュー(ブルーム)と、個性派俳優である
アレックス・ボールドウィン扮するもう一人の男とが
歩きながらやり取りしている。やがてこの相手が、
どうやらドリューの上司であるらしいとわかる。


つまり、あまりそれっぽく見えないけれど
舞台は彼らのオフィスなのである。


そうしてドリューが仕事で大失敗をやらかし、
会社に莫大な損失を与えたことが明らかになる。

かくしてある種のワーカホリックだった彼は
解雇を宣告されることになる。


さらには失意に追い討ちをかけるようにして、
父親の訃報がもたらされる。
彼は家族から離れ、自分の生まれた町にいた。


ここまできても、物語がいったいどういう方向に
進もうとしているのか、正直なかなかつかめなかった。

まあ『バニラ・スカイ』もこんなだったなあと
思わないでもなかったことは確かだけれど。


タイトルであるエリザベスタウンとは、
アメリカ南部に実在する小さな田舎町である。


ドリューはかくして葬儀の準備のために
母と妹に先行して、単身父の故郷である
この町へと足を運ぶことになる。

で、一瞬なんで、と戸惑ったのが、
この母親役にスーザン・サランドンが
キャスティングされていたことである。


念のため、彼女の代表作を挙げておくと
75年の『ロッキー・ホラー・ショウ』、
91年の『テルマ&ルイーズ』、そして
95年の『デッドマン・ウォーキング』
(アカデミー主演女優賞受賞)
といったところになるかと思われる。


要はもう相当にキャリアの長い、
オスカーさえ手にしている大女優さんなのである。

だから、なんでこんな端役みたいなポジションに、
この人使ったんだろうと思いながら観ていた。


そしたら、なんのことはない、オイシイところは
最後の最後に結局全部この方が持っていきました。


でもこのクライマックスの後、
物語はもう少し続くんだけれどね。

全体として、決して起伏に富んだストーリーではない。
スペクタクルやサプライズといった要素とは
一切無縁な、むしろ極めて地味な物語である。
ドラマティックという言葉さえ本作には当たらない。


だが小さなエピソードの丁寧な積み重ねが、
やがてドリューの回復というゴールまで、
きちんとこちらを導いてくれている。


安易な言葉でまとめてしまえば、これはやはり
若者が生きる力を取り戻す物語なのである。

評価は別れているみたいだけれど、
個人的にはとても好きな一本である。
こういうのが必要な場面って
生きていれば少なからずあると思うし。


さて、この辺りで例によって
本作のサントラについても触れておく。


ていうか、この監督についてはもう僕自身、
そもそもは音楽を聴くために追いかけている
側面があることは、どうしたって否めない。

今回は主な舞台がアメリカ南部であることから
都会とは一線を画した雰囲気を演出するために、
カントリー・タッチの曲を中心に選曲されている。


だからさすがに『バニラ・スカイ』のような、
P.マッカートニー+ボブ・ディランみたいな
サプライズはなかったのだけれど、それでも
E.ジョンやホリーズの、埋もれていた名曲を
発掘して聴かせてもらうことができた。


正直ホリーズなんて知らなかったし。
CSNのグラハム・ナッシュって、
そもそもはこのバンドでデビューした、
イギリスの方だったんですね。

もっとも、ここに収録されたホリーズのトラック
Jesus Was a Crossmakerは、ナッシュ脱退後の
録音だったりもするのだけれど。


それからさらに、同曲を書いた
ジュディ・シルなんてアーティストも
このサントラで初めて知った。


まあこの辺りの時代の、特にアメリカ・カナダの
作品群は、元々あまり詳しくはないのだが。

いずれにせよ、この人の選曲は本当に上手いなあと
つくづく思う。こんなふうに色々教えてもらえるし。


個人的に一番注目したのは、ラストに収録された
Same in Any Languageというトラックを
歌ったI NINEというバンドだったのだけれど、
どうやらこちらはすでに解散してしまった模様である。


しかもおそらくは同曲が、彼らの最初の
レコーディングだったのではないかとも思われる。

さらにはこの曲、クロウ本人と
ナンシー・ウィルソンとの共作なのである。
なんて贅沢なデビューであることか。


このI NINEはその後、07年に
Seven Days of Lonelyというシングルと、
アルバムを一枚だけ発表している様子なので、
機会があれば聴いてみようと思っている。