ラジオエクストラ ♭18 God Thank You Woman | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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カルチャー・クラブ。
86年発表の4thアルバムから。

FROM LUXURY TO HEARTACHE

¥2,800
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以前ボウイの時に、どのアーティストでも
三枚目のアルバムは、大抵重要な作品になる
みたいなことを書いたかと思う。


そもそもが、そこまでにある程度の実績がなければ、
新作を録音させてもらうことは、たぶんできない。
レコーディングには相当の予算がかかるのである。


もっとも、よほどの潜在的な可能性を
レコード会社サイドのスタッフが認めていれば、
この点は絶対ではないかもしれない。

それでも、そういった場合には、
これでダメならもう後がないという、
作り手側の気迫が込められるはずなのである。


逆に二枚目までに一定の成功を収めていれば、
さらなる飛躍が期待されるのは当然である。


いずれにせよその重要性は、たぶん関わる誰もが
少なからず認識しているはずなのである。
3rdアルバムというものは、ほぼ間違いなく、
そういった状況下で生まれてくるものなのである。

だがその肝心な一枚で、目も当てられない種類の
大失態をやらかしてしまうバンドもあるのである。


このカルチャー・クラブみたいに。

以前紹介した通り、彼らの83年の2ndアルバム
COLOUR BY NUMBERSは、
まさしく化け物みたいな完成度を誇った一枚だった。
(ブログラジオ ♯11参照)

念のためだが、彼らはデビュー作からすでに
極めて異彩を放っていた。
ボーイ・ジョージのあのルックスのインパクトも
さることながら、やっぱり曲がよかったのである。


事実、デビュー・アルバム収録の作品からすでに、
最初の全英ナンバー・ワン・ヒットが生まれている。
このDo You Really Want to Hurt Meには
『君は完璧さ』という邦題がつけられていた。
ミッド・テンポの綺麗なバラードだった。


このバンドが、いったい次はどんな楽曲群を
仕上げてくるのだろう。
周囲は当然、相当期待していただろうに違いない。
僕自身、発売日を楽しみに待っていた記憶がある。

あるいはあのThe War Songを記憶している方も
いらっしゃるかもしれない。最後の方に、
戦争反対って、素っ頓狂な日本語が出てくるやつである。


最初のシングルとして頻繁にオン・エアされていた
同曲には、確かにそれなりのインパクトはあった。


でもむしろそれはコミック・ソング的なそれだった。

だから嫌な予感は、あるにはあったのである。

後年ボーイ・ジョージは、レコード会社や
周囲の期待感というプレッシャーを感じながらの
制作であったことを述懐してはいるようだけれど。


一応記しておくと、この3rdアルバムのタイトルは
WAKING UP WITH THE HOUSE ON FIREという。

目が覚めたら家が燃えていたって、
いや、確かにそういう気分だったのかもしれないが。


同作の聴きどころはたぶん、30年代のハリウッド女優、
フランシス・ファーマーの過酷な生涯を
テーマに取り上げたThe Medal Songのみである。


しかしながらそれも、名曲の域に手が伸びているとは、
どうにもいいがたいレベルに留まっている。

大体彼女を持ち出した必然性があまり感じられない。
極めて重いはずのテーマをこのタッチで扱ったことには、
むしろかなり首を傾げざるを得ない感もある。


余談ながら、このフランシス・ファーマーについては、
ニルヴァーナのカート・コバーンも
その最後のアルバムで取り上げている。


詳細は省くが、正直あまり気持ちのいい話ではない。
彼女については、ジェシカ・ラング主演による
『女優フランシス』という映画があるので、
興味のある方はそちらを御参考いただきたい。

さて、バンドのほかの作品は、比較的早い時期に
CDで揃えなおしているのだけれど、
こういう理由でこの一枚だけはちっともその気にならず、
そのまま今に至っている。そういうアルバムである。


たぶん本人たちも、やっちゃったなあ、くらいに
思ってはいたのではないかと思う。


なんとかしないと。その気概が、たぶんこの次作
FROM LUXUARY TO HEARTACHEには
きっちりと出てきている。

悪い作品ではない。むしろ極めてよくできている。
名盤とまではいわないけれど、個人的には
今も繰り返し聴いている一枚である。


バンドの音楽性の幅も過不足なく表れているし、
各トラックの完成度も非常に高い。その証拠に、
最初のシングルMove Awayは、きっちりと
英米ともにスマッシュ・ヒットを記録している。


改めて、佳曲が揃っているなあと思う。

お得意のミッド・テンポのバラードである
Work on MeやReasons, Come Clean辺りは
相当耳に残る美しいメロディ・ラインを有している。


ボーイ・ジョージと女性コーラスとの掛け合いを
存分に活かしたGusto Blustoほか、
アップ・テンポのナンバー群も
バラエティーに富んでいて心地好い。


様々なリズムを取り込みながら、
ソウルフルなヴォーカルを引き立てていく、
往時のカルチャー・クラブのスタイルが、
過不足なく出てきていると思う。

なんだ、やっぱやればできるじゃん。
そう思ったんだよ、本当に。


ところが、である。
彼らはまたやってしまうのである。


いや、今度の場合は彼らではなく
彼というのが正しいのだが。

アルバム発売から間もない86年7月のことである。

ボーイ・ジョージことジョージ・アラン・オダウドは
以前から噂のあった薬物の所持容疑で逮捕されてしまう。


しかも前後して、このアルバムのレコーディングにも
参加していた鍵盤奏者が、やはり薬物の過剰摂取で
彼の家で死んでしまうという事態まで起きるのである。

お察しの通り、こうなるとプロモーションとか
サポート・ツアーとか、できる訳がないのである。
決まっていた三枚目のシングルのリリースさえ見送られる。
アルバムのセールスが伸びるはずもなかったのである。


その後、正式な解散のアナウンスもないままに、
バンドはほぼ、シーンから姿を消してしまう。


ボーイ・ジョージはソロとしてシングル・ヒットを
それなりに何度か放ったりもしているのだけれど、
その人気も最早、自国のうちだけのものに
留まってしまった感は拭えない。


さて、今回のGod Thank You Womanは、
同アルバムからのセカンド・シングルだった。


佳曲だと思う。適度にキャッチーだし、
冒頭から繰り返される短いギターリフも、
なんというか、とてもらしい。


間奏のヴァイオリンなんかを聞くと、ひょっとして、
スキッフルといった用語で呼ばれていた、
ロック以前のアメリカ音楽のエッセンスを、
とりわけその特有のメロディー・ラインを

どこかで意識しながらまとめ上げられた
トラックなのではないかとも感じているのだが、


かといって、そういう安易な解釈で
すっかり語りきれる音楽でもない。
十分に現代的で、ポップしている。


ギターやベースのラインが、どこか
オリエンタルというか、エキゾチックなのである。

それがボーイ・ジョージの声や雰囲気と
ぴったりマッチしているところが、
たぶんこのバンドの最大の魅力なのだと思う。


そういう意味では、Karma Chameleonと並んで
極めて彼ららしい一曲だとも思っている。


まあだから、ある意味で不幸な巡り合わせに
埋もれてしまった感のあるこのトラックを、
一度取り上げておきたかったという次第。


再び彼らの新作を耳にするためには、この後、
98年の再結成まで、実に十二年も待たねばならない。
 

まあでも今回もまた予定していたよりも
かなり長くなってしまったので、
そちらの話はまた機会を改めて、
とは思っていたのだけれど。


なんかでも、今再々結成していて、
来年また新作を出す予定もあるらしいです。

でもそこまでくるのにも、とにかく本当、
この人たちはどうやらまた、
相当にすったもんだしていた模様なのである。