‘10 10 別冊カドカワ 総力特集山崎まさよし | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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そういう訳でこの年、デビュー十五周年を迎えた
山崎まさよしさんの特集号に、
記事を書かせていただく次第となった。

別冊カドカワ 総力特集 山崎まさよし

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つまりは、山崎さんのデビューは95年なのである。
それは要するに、僕がCD一枚をそれこそ松屋とか
吉野家のメニューを単位に換算していた
まさにその時期の真っ只中なのである。


隠してもしようがないので告白するけれど、
彼の名前はもちろん『One More Time~』や
『セロリ』といった代表曲こそ知ってはいたが、
アルバムをきちんと拝聴したことは実はなかった。


依頼は同じタイミングでリリースされる予定の
HOBO’S MUSICというアルバムについての
歌詞を切り口とした解説だった。

そういう訳で新譜のサンプル音源と平行しつつ
過去のアルバムを順番に聴いてみるところから
まずは原稿の準備を始めた。


そしてその過程で僕は6thアルバム『アトリエ』の
オープニング・トラックである
『君とピクニック』なる楽曲に、半端でなく
打ちのめされてしまうこととなったのである。


こんな曲書ける人、日本にいたんだ。
それくらいにまで思った。

記事にも同じことを書いたのだけれど、
こういう特殊な世界を立ち上げることに
過不足なく成功している楽曲は、
同曲以前には、たぶん唯一あのS&Gの
Scarborough Fairがあるのみだろう。
少なくとも僕は、それ以外すぐには思い浮かばない。


だからおそらくは山崎さんという人の
音楽のルーツの中核は、このS&GやPPM、
あるいはカーペンターズといった、
さほど大きくブラック・ミュージックからの影響を
受けていないアメリカのアーティストたちに
あるのだろうと最初は思った。


『晴れた日と月曜日は』とか、
『僕と不良と校庭で』(!)とか、
それなりに思わせぶりな題名も出てくるし。

もっともこれらのトラックは、
元ネタを想起させるのはタイトルだけで、
中身は全然違っている。仄めかしもない。


こういう茶目っ気がまた、むしろいかにも、らしい。
そこまで含めてたぶん、さだまさしさんの持つ
方向性と共通しているのではないかなどとも思う。


ところが、07年の洋楽のカヴァーアルバムである、
COVER ALL YO!を聴いて少し考えを修正した。

まずオープニングがスティングの
English Man in New Yorkで、
いきなりはっとさせられた。


ある意味納得のBJトーマスとモンキーズからの
チョイスに混じって、あのオーティス・レディングに
スティーヴィー・ワンダーの大ヒット・チューン、
さらにはジャミロクワイまで出てきている。


しかも彼は、どのタッチの楽曲もさほど苦もなく
自分のスタイルにしてしまっているように聴こえる。
エルトン・ジョンもビートルズも、である。

それはやっぱり、あの独特の声が
為せる技なのだろうなあ、と改めて思う。


でもなんだかんだいってやはり、
彼の声にはバラードが一番似合っているのである。


個人的にはこの時のHOBO’S MUSIC所収の
『花火』というトラックは、
ほとんどある種のスタンダードの域にまで
手の届いている稀有な佳曲だと思っている。

それこそ陽水さんの『少年時代』みたいに
世代を超え、テンポラリーな潮流など振り切って、
いずれは夏の定番みたいなくらいにまで
なるのではないかとさえ、ひそかに思っている。


なお、最終的にこの時の原稿のタイトルは
『漂泊者の音楽のためのややペダンチックな
ライナー・ノーツ』といった具合になった。


だから、アルバムを聴いていただいた上で
読まれることが前提の文章なのである。

当時は書きたいことが次から次へと浮かんできて、
提案いただいていた字数を大幅にオーヴァーして
しまったりもしたものである。



後日NHKホールでのステージに御招待いただいた。
この時はバック・バンドを従えず、
本当に一人きりで舞台に立つパターンの方で、
何よりもともかく、この声の持ち主であればこそ、
できることだよなあ、などと思いながら足を運んだ。


音楽はもちろん、次々と繰り出される、
聴衆を飽きさせないための工夫の数々も
大変堪能させていただいた。

とりわけサンプリングマシンを駆使しながら
プレイした音を次々と重ねていき、
最終的にステージの上で一人でトラックを
完成させていくというパフォーマンスは、
あ、ジャコパスがやってたやつだ、などと
思いながら非常に楽しませていただいた。


ちなみにジャコパスとは、
ジャコ・パストリアスなるあちらのベーシスト。
ウェイン・ショーターという人の率いていた、
ウェザー・リポートなるグループ他に在籍していた。


若くして急死してしまったけれど、たぶん歴代で
五本の指には入るであろうプレイヤーである。
以上、例によっての余談でした。


さて、たぶんこの時の担当編集者との、
記事の方向性について最初に刷り合わせをした
電話でのことだったのではないかと思う。


話の接ぎ穂に僕は、今ほかに別冊カドカワでは
どんな企画が進んでいるのかと訊いてみた。


「ええ。実は佐野元春さんが今年デビュー30周年を
迎えているので、平行して準備を進めています」

考えるよりも先に言葉は口から衝いて出ていた。

「お願い。何でもいいから書かせて。本当に
ほんのちょっとでかまわないから、是非、絶対」


一字一句間違いがないかといわれればそうでもないが、
まあ大体はそんなようなことを口にしていたはずである。

以前にも書いたように佐野さんという方は、
僕にとってやはり、十代のヒーローだったのである。


こんな機会逃す訳にはいかない。心底そう思っていた。
その気持ちはお察しいただけるのではないかと思う。


さすがにその場での即答はもらえなかったのだけれど、
今回はまあ、この辺りでそろそろお時間ということで。
続きは次回の講釈までお待ち下さい。