ラジオエクストラ ♭13 Touched by the Hand of God | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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ニュー・オーダーから。87年のシングルである。

――『神の手に触れられて』
このタイトルだけでまずはっとさせられる。

International/ワーナーミュージックジャパン

¥2,592
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前回のストーンズの曲もそうなのだけれど、
哲学的というか宗教的というか、
そういうエッセンスが、ポップスの世界、
つまりまあ、言葉は悪いが吹けば飛ぶような、
ある意味消え去っていくことを宿命付けられた
領域であるはずの文化に入り込んできている。


どうも個人的に僕は、そういった部分に
やや過敏なくらいに反応してしまう、あるいは
魅力を感じる傾向があるようである。


とにかくこんな歌詞がメロディーに乗っかる、
そういうことが容易にできてしまう点が、
洋楽、というよりはむしろ英語表現の
面白いところだなあ、と常々感じているのである。
この点は昔からあまり変わっていない気もする。

さて、この曲の二人称のYou、はたして
神のことなのかどうか。聴くたびにいつも相当悩む。
そう解釈してしまって大丈夫なのかと訝ってしまう。


詞の内容は、だがやっぱり敬虔さとは程遠い。
GODという言葉を出しながらも、
讃美歌の類には決してならない。


だが、かといってさほど粗雑な印象でもない。

今僕を沈ませ孤独へと追い込んでいる
僕の所有するところのこういって感情のすべて
それはあなたでも奪い去ることはできない――


こんな感じである。

だから繰り返しいうけれど、
これがポピュラー・ミュージックの、すなわち
ラジオからこぼれてきていずれ消えていく宿命の
そういう音楽と一緒に存在しているのである。

そういうのがとにかくカッコいいなと思うのである。

冒頭からトラックを印象づけてくるのは、
ピーター・フックによる強烈なベースラインである。
キーボードとギターが、マイナースケールの
重々しく大仰な旋律をそれぞれに載せ、
ある種の荘厳さを演出してくる。


いかにも神との邂逅というモチーフに相応しい。

もっとも、ドラムとパーカッションの音色が
全編を通して極めて工夫されていて、
それらが全体をいい按配に緩和している。


テンポはミドル。メロディーの作り方は、
たぶんハード・ロックの方法論に寄り添っている。


だがニュー・オーダーがやることで、
つまりは強力なリズム隊に、B. サムナーの
物憂げとしかいいようのないヴォーカルが
載ってくることで、独特の手触りに変わっている。

メンバーもこの点には十分自覚的だったらしく、
同曲のPVは、HR/HMメタルのバンドのそれの
パロディーになっている。


一番メインの元ネタは、たぶんボン・ジョヴィ。
You Give Love a Bad Nameと
Livin’ on Prayerの両方じゃないかな。
ちゃんと検証してないけれど。


しかもこのフィルムには、曲が終わった後に
メンバーがステージやら楽器やらを破壊しまくる
なんてシーンまで結構長い時間くっつけられていて、
初見の時は相当大笑いしたものである。

いやでも、決してコミックソングとして
紹介するつもりはないのだけれど。
感触はむしろまったく逆である。


僕は神の手に触れられたんだ。
その時はわからなかったけれど、
もちろん間違いじゃない。


サビのリリクスはこんなふうに繰り返される。
信仰があるのかないのかよくわからない。

でもそれでもいいんだろうな、という気になる。

独白、あるいは若さ故の愚痴。
ある意味生きるのに不要なセンシティヴィティー。
それらがサビのこの一節によって、
ある種の神秘体験へと、
一瞬にして昇華されてしまう。


このトラックは大体そんな具合に聴いている。

しかし、本当にこの時期のニュー・オーダーは
極めて充実していたなあ、と改めて思う。


85年から89年の四年間で発表したシングルが
実に12枚。そのどれもが佳曲である。


とりわけBizarre Love Triangleや
True Faithあたりは名曲といってかまわない。

蛇足ながら、このTouched by the Hand of Godは、
SINGLES収録のヴァージョンでは
ちょっとだけ物足りない。


このベースだけは、とにかく12インチのやつで
長い分数聴いているのがひどく心地好いのである。