ラジオエクストラ ♭14 Life on Mars? | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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デヴィッド・ボウイである。

Hunky Dory/David Bowie

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ビートルズとストーンズとが、英国に
ロックンロールをもたらしたのだとしたら、
それを継承し、さらなる進展を切り拓いたのが、
エルトン・ジョンと、このボウイなのだと思う。


とはいえこの曲は、あまりロックっぽくはない
むしろどこかで聴いたような、古き良き時代の
シャンソンみたいな手触りがある。


先に種明かしをしてしまうと、
このLife on Mars? なるトラックは、
実はあのフランク・シナトラの
My Wayのコード進行に載せて
作られているのである。

ある意味やりたい放題だなあ、みたいな感じも
なんとなくしないでもないけれど。


なお、念のためだが、そもそもMy Wayは、
元々はフランスのアーティストの作品である。


それにポール・アンカが英語詞をつけたものが、
シナトラの歌唱によって、それこそ世界的に
大ヒットして今に至っているという次第。
もうほとんど彼の代名詞といっていい。

それでもやっぱり、いわれなければ
つまり、たださらっと聴いただけでは、
この曲がそんなふうにして作られたとは、
すぐにはわからないのではないかと思う。


そのくらいメロディーラインもバック・トラックも、
原曲から遠ざかることに徹底的に意識的である。


収録アルバムは71年のHUNKY DORY。

この辺りはちょっとややこしいのだけれど、同作は
ボウイの最初の代表曲であるSpace Oddityを収録した、
69年のフィリップスからの再デビュー盤を起点として
数えるならば、三枚目のアルバムということになる。


大体どのアーティストでも、3rdアルバムというのは
重要な作品であることが多いものである。


実はボウイの最初のレコードは64年にまで遡る。
それこそビートルズとストーンズが、
チャートを席捲していた只中である。

以来Space Oddityでシーンに認知されるまで、
実に五年という時間がかかっている訳である。


そんな苦難の時期を支えたのはやっぱり、
絶対に音楽をやって行くんだという、
相当強い気持ちだったんだろうなあ、とか、
そこはかとなく想像したりもするのである。


いや、それなりに自分もね、書くことに関しては、
絶対に止めないぞ、くらいは、結構日頃から
我が身に重ねていい聞かせてはいるのですよ。

もちろんデビュー前もその後もね。今でもほぼ毎日。
まあその話はまた別の機会に譲ることにする。
やっぱりこういう場だと少々照れ臭いしね。
現状だと半ば愚痴になりかねないかもしれないし。


という訳で例によってそそくさと
Life on Mars? の話に戻る。


この曲、疑問符まで含めてタイトルです。
曲中では前にIs Thereがついて歌われます。

綴られていくのは、灰色の髪の少女の物語。

出て行きなさいと父親にいわれ、
だけど友達の姿も見当たらないような
沈んだ自分の夢の中を歩いていく。


そうして見晴らしのいい席で、
けれどもう見飽きた退屈な映画を観させられ、
あまつさえ集中することまで強要される。
その画面で繰り広げられているのは――。

逐語訳ではないけれど、まあ展開はこんな感じ。
かくも美しいサビの冒頭で描写されているのは、
ダンス・ホールで喧嘩を始めた水兵たちの姿である。


ほかにもレノンやらミッキー・マウスやら、あるいは
洞窟の住人などの言葉が意味ありげに登場してくる。
それこそMy Wayなんてどこ吹く風の世界である。


まあこういうある種の訳のわからなさが、
多分にボウイの楽曲の魅力でもあるのだけれど。

そして彼女は、あるいはボウイは最後に呟く。

ねえ、火星に生命なんてあるのかしらね?

この一節に何を読み取るかは、まあ聴く者の
それぞれに委ねられているのだろうと思う。

いずれにせよ、ピアノの美しいバラードで、
とても好きな曲である。



さて、このHUNKY DORYが重要な作品であるのは、
個人的にはこのLife on Mars?が
収録されているからなのだけれども、
ほかにもう一つ、是が非でもこの場で
触れておかなければならない楽曲が収録されている。


それはオープニングを飾っているChangesである。
こちらもまた展開の非常に凝った名曲である。

時は僕を変えていくかもしれない。でも僕は、
そいつを追いかけていくことすらできないんだ。


――やがてボウイはこの宣言通りに、次々と
自分のスタイルを変え続けていくことになる。


だから、ある意味で彼のキャリアを象徴するような
内容を仄めかしたこのトラックが、極めて早い時期に
すでに発表されているという、ある種の偶然の符号が、
僕の目には非常に興味深いものに映るのである。

まあ、多分に後になってからだから
いえることではあるのだけれど。


今回言及した二曲の他にもOh! You Pretty Thingsや
Queen Bitch等の重要な楽曲が収録されているし、
全体にピアノや弦が思い切りよく採用された、
個人的に好きなタイプの音作りの一枚であることは
改めてここに付け加えておくことにしようと思う。