ブログラジオ ♯31 Never Can Say Goodbye | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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さて、いろんな意味でうって変って、今回は
いわばバリバリのダンス・ミュージックである。

このジミー・ソマーヴィルなる人物のキャリアは
83年にブロンスキ・ビートなるバンドに始まり、
85年結成のコミュナーズを経てソロへと至る。


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この方の特徴はなんといってもその発声法にある。
なんと、全編ファルセットで歌ってしまうのである。


まあそのスタイルから当然お察し戴けるだろう通り、
ボーイ・ジョージやエルトン・ジョンと同じ世界の人。
今の表現ならオネエ、つまるところゲイの方である。

ええと、こっちの表現は大丈夫なのかな。
でもオネエがよくてゲイが駄目ってこともないだろう。


基本的にこの人の作り上げるレコードは、
これ以上ないほど正統的なディスコ・サウンドである。
グロリア・ゲイナーとか、EW&Fとか、
ヴィレッジ・ピープルとか、とにかくあんなノリ。


しかもBPMの速いタイプの曲の方が、
とりわけこの方の声の場合、極めてハマる。

そういうタイプなので、60~70年代の
ソウル/ディスコシーンの名曲を幾つか取り上げ、
カヴァー・ヴァージョンとして発表してもいる。


ま、中にはフランソワーズ・アルディなんて
まったく予想外なところをチョイスしたりしてくる辺りが、
この人の実に面白いところなのだけれど。


ちなみにこちらはフレンチ・ポップスです。
『さよならを教えて』って、たぶん一度くらいは
どこかで耳にしたことあるんじゃないかと思う。
一回聴いたらなかなか忘れられない
印象的なサビのメロディーを持った楽曲です。

もちろんそれだって、この人は委細かまわず
すっかりダンス・ミュージックにしてしまいます。
他にも、アイラ&ジョージ・ガーシュインのナンバーや
シルヴェスタやビージーズなんて辺りまで手を出している。


ちなみにテルマ・ヒューストンの71年の
トップワンヒットだったDon’t Leave Me This Wayを
コミュナーズがカヴァーしたヴァージョンは、
86年に英国で一番売れたシングルなのだそうである。


さて、僕のフェイヴァリット・トラックである、
今回のNever Can Say Goodbyeも
やはりコミュナーズ時代の作品。

ジャクソンズによって発表され、先に挙げた
G. ゲイナーにもカヴァーされた70年代の
ディスコ/ソウル・シーンの代表曲の一つ。
もっとも僕が聴いたのはこちらのヴァージョンの方が先。


イントロの弦のラインからして、もうまさにディスコ。
ここだけですっかりわくわくして、座ったまま今にも
その場で踊りだしたいような気分になってくる。


まあ基本僕は音楽は仕事しながら部屋で一人で聴くので、
実際にその場で踊り出したりはもちろんしないのだけれど。
いや、本当に本当に本当に、極々極々たまにしかしない。
うん。絶対にそんなことしないと断言すると、
これはやっぱりどうしても嘘になっちゃうからな。

でも極めて稀にしかしない。年に数回あるかないかだ。
それも、ちょっと手と肘を動かす程度だからね、本当に。
ドゥ・ザ・ハッスルっていうか、そんな感じ。
だけどこれいっても、たぶん誰もわかんないんだろうなあ。


まあとにかく、元気にしてくれるサウンドなのである。
とりわけこの曲のサビの一番最後の最後で出てくる、
スキャットで分散和音を繰り返して、
ラストで跳ねる辺りなんて、もう最高である。


振り返ってみればコミュナーズ時代のアレンジの方法論が
ソマーヴィルの歌唱スタイルにはものすごく合っていたと思う。
このリチャード・コールなる相方とのコンビ関係が
極めて短期間で解消してしまったことは
今になってみれば、ひどく残念なことでもある。

ちなみにソマーヴィル脱退後のブロンスキ・ビートは、
ジョン・フォスターなるヴォーカリストを迎え、
Truthdare, Doubledareというアルバムを発表している。


この作品のオープニングトラックであり
最初のシングルとしてカットされた
Hit That Perfect Beatも非常にスピード感のある
いいトラックだった。現在ほぼ入手不可能なのが、
これもまたやはり至極残念だなあと思う。



では恒例のトリビア。後年このソマーヴィルは、
Red Hot + Blueという企画アルバムに参加している。

これ、エイズ撲滅キャンペーンのための
チャリティー作品としての側面ばかりを強調されて
プロモーションされていたようだけれど
同時にアメリカを代表する作曲家コール・ポーターへの
トリビュート作品でもあるのである。


ポーターはアステアやジーン・ケリーなどを擁した
ハリウッドの最初の全盛期に、ガーシュインと並んで
最も重要な役割を果たしたコンポーザーの一人である。


So in LoveやBegin the Begin、あるいは
Night and Day辺りが有名どころ。
曲名くらいはたぶん耳にされたことがあるかと思う。

また、彼の作品はジャズのスタンダードとしても
数多くカヴァーされているし、さらにその生涯は、
『五線譜のラブ・レター』というタイトルで
ケヴィン・クラインとアシュレイ・ジャドの共演で
04年に映画化されている。


同作にはコステロやナタリー・コール、あるいは
シンプリー・レッドのミック・ハックネルなんかが
歌手として出演しており、それぞれがポーターの楽曲を
短いながらパフォーマンスしている辺りも
大変見応えのある一本である。