ラジオエクストラ ♭12 You Can’t Always Get What You Want | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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もう一曲ストーンズから。69年の作品。
同曲には「無情の世界」と邦題がつけられている。
これもまた、なんとも上手い意訳だなぁと思う。

Let It Bleed/Rolling Stones

¥2,113
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この曲もひどく好きである。繰り返し聴くほど
なんだかじわじわと利いてくる。迫ってくる。


以前ストーンズについては、
R&Bを独特のスタイルに昇華することで、
ロックをそれ以前とはまったく違う
新しいものに書き換えてしまった、
みたいなことを書いたかと思う。


そのアプローチが行き着くところまで行き着いて、
このトラックに結実したんじゃないかな、
とか、なんとなく思ったりもするのである。

なんといってもこの曲の手触りには
霊歌という言葉こそが相応しい気がする。


荒々しい賛美歌。むしろそんな形容さえ似あう。
開幕に聖歌隊のようなコーラスを持ってくる
この発想も見事である。
曲の本質を過不足なく体現している。


もっとも歌詞の方はといえば、お察しのように、
敬虔さみたいなものとはかけ離れている。

欲しいものがいつだって手に入る訳じゃない。

――いかにも、らしい。

でもまったくその通りだよな、なんて、
妙に納得したりもしてしまう。

収録アルバムはLET IT BLEED。
前回言及したブライアンの解雇の直前の作品である。


もっともこのトラックでは彼はプレイしていない。
それどころか、実はこのドラムも、
チャーリー・ワッツのものではないそうである。
ミックの望むグルーヴが、彼では出せないとの
判断だったそう。


さらにちなみに、あの悪名高き
「オルタメントの悲劇」が起きてしまうのは、
このアルバムと、ひいてはジョーンズの死と
同じ年の12月のことである。

だからバンドにとっては、この69年というのは
ひどくタフな一年だったに違いない。


にも関わらず、その後、ブライアンに代わる
ギタリストとしてミック・テイラーを迎えたバンドは、
解散してしまったビートルズや、
沈黙の時代に入ったボブ・ディランを
まあいわば結果として振り切るような形で、
70年代初頭を迎えてもなお、
シーンを牽引する存在であり続けるのである。



考えてみると、昔よりずっとストーンズを
よく聴いている。Gimme Shelterや
Midnight Rambler、あるいはそれこそ前回も触れた、
Let’s Spend the Night Together辺りの、
極めて独特なリズム感には、なんだろうこれ、
と、改めて思わされたりもしてしまう。

だからやっぱり、この人たちは確実に時代から
しっかり突き抜けていたんだろうなと思うのである。


それに、やっぱりストーンズ以前と以後では、
世界は改変を余儀なくされたのだなあと、
このごろつくづく感じたりもしている。


どういうことか。たぶん僕らが子供の頃は、
ロックが一生の職業として成立するなんて、
誰も考えていなかったんじゃないかと思うのである。

たとえばエディ・コクランやエルヴィス。
マーク・ボランにジム・モリソン。
あと少し下ってマイケル・ハッチェンス。


早逝してしまったそういう人たち以外で、
死ぬまで第一線にいたのは、たぶん彼ら以前は
レイ・チャールズくらいだったんじゃないかな。


みんなもう70だよ。それがいまだに世界各地で
スタジアム公演を成立させられているんだから、
本当、凄いとしか言葉が出てきません。

やめなかったこと。どんなに衝突があっても
絶対バンドを解体しなかったこと。
その精神的なタフネスみたいなものに、
つくづく圧倒させられてしまうのである。


そしてまた、長い時間をかけなければ
見届けられないことってのも、本当にあるんだな、
と、そんな気分にもなったりしている。
もちろん年のせいもあるんだろうけれど。


だからこそかえって、自分がまあ、
最初こそ多少欠けたとはいえ、
こういう人たちと同じ時代に生を享けたことを、
それなりに幸運に感じたりもしながら、また
ストーンズをプレイヤーに載せてしまうのである。