ラジオエクストラ ♭5 Drive My Car | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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やはりビートルズ。6thアルバムRubber Soulの
強烈なオープニング・ナンバー。
Lucyがジョンの傑作なら、この曲こそ、
ポールの代表作だろうくらいに、実をいうと思っている。

Rubber Soul (Dig)/Beatles

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トラックをまず決定的に印象づけてくるのは、
終始跳ね回る、まさに踊るようなベースとギターの
ユニゾンのメロディーラインである。
それこそまるである種の鏡像のように
ぴたりと重なって聴こえてくる。


このベースとギターのスタイルの原型は、
オーティス・レディングのレコードの中に
見つけることができるそうである。
曲名まではちょっと確定ができなかった。


ちなみにこの方は、Doc of the Bayなどで有名な
アメリカの代表的ソウル・シンガーである。
だから、このパターンは突き詰めれば
ある種の引用であるといえなくもない。

ただし、そこはそれ、あのビートルズである。
決してただ借用するだけでは済まさない。


改めてこの曲のAメロを聴いていただきたい。
すべて三人のコーラスで貫かれている。
まるでギターか、あるいはピアノの
コード・ストローク・プレイのような手触りである。


だからある意味、このDrive My Carは、
むしろ楽器の方にヴォーカルを任せ、
人の声がバッキングを担当しているような
ものなのである。

しかもこの和音は、それまでのロックの範疇を
完全に逸脱している。どちらかといえば
むしろジャズの持っているそれに近い。
クラクションに似せたあのスキャットまで含め、
見事なまでのディスコードなのである。


だが仕上がりは、そういったアプローチを
すべて巧妙に隠すことに成功している。


どう聴いても、それまでのビートルズの
つまり、HelpやHard Days’ Night的な、
いわばエイトビートを基調にした、
正統なロックンロールのノリを失ってはいない。

むしろその疾走感はそれまでになかったほど、
なんというか、荒々しく洗練されている。


彼らファブ・フォー(イカした四人、みたいな意味で
全盛期にメディアがバンドをこう呼んでいた)の
残してくれたアルバムの中で、どれが一番好きかと
いわれれば、僕としてはやはりこのRubber Soulを
筆頭に挙げざるを得ないだろうな、と思っている。


まずNorwegian Woodが入っているし、
Nowhere ManもGirlもMichelleも入っている。
何よりあのIn My Lifeがこの作品の収録である。

それからラストのRun for Your Lifeだって、
ジョン自身はあまり肯定的な言葉を残しては
いないけれど、なかなかいい感触である。


でもそれだけではなく、もちろん個人的な感想なのだが、
この作品までは、レノン&マッカトニーという
ソングライティング・チームが本当の意味で
存分に機能していたのではないかと思えるのである。


それこそIn My Lifeである。
この曲一時期、ジョンもポールも自分が書いたと
主張して譲らなかったことがある。

おそらく基本的なテーマは、ジョンの方から
出てきたものなのだろうなとは想像される。
でもこのAメロの旋律の癖は、やっぱり
ポールが持っていたものだろうと思うのである。


長い音符、それから結構離れた音階への
些か思い切りのいい移動。これはたとえば、
Here,There and Everywhereとか、
それこそLong and Winding Road辺りとも
明らかに共通しているようにも見える。


その一方で、サビへと至る上下動が比較的少なく、
むしろ音数の多い、それこそ語りかけてくるような
この印象的なメロディーラインは、
ジョンから出てきたといわれた方が納得がいく。
そんな気がするのである。

このRubber Soulの衝撃がアメリカは西海岸に届き、
やがてビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンに
あのPet Soundsを作らせた。


そのPet Soundsに圧倒され、挑むような気持ちで、
ポールはこの前紹介したSgt. Peppersの
着想を思いつき、他の三人を牽引してそれを完成させ、
満を持して世に問うた。


ロック/ポップスというジャンルの変遷の歴史が、
海を隔てた形でそんなふうに展開されていた。
それだけをとってもひどく興味深い出来事である。


タイトルにこそしなかったけれど、僕も実はすでに
一度この曲を自作の作中に登場させている。


以前紹介したニュー・オーダーの時に触れた
『ビザール・ラヴ・トライアングル』
という短編の中に、主人公の義理の娘が
キッチンで食器を洗う場面がある。
その時に彼女が鼻歌で歌っているのが
何を隠そうこの曲なのである。題名も出している。


たぶんまたどこかで、言及することは
間違いなくあるんだろうなあとも思っている。
まあ自分で決めるだけのことなんだけれどもね。