ブログラジオ ♯30 Here’s Where the Stories Ends | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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改めて、ザ・サンデイズという。残念ながらこの人たちも
ほとんどワン・ヒット・ワンダーだったと形容するしかない。
手持ちの音源は90年発表のファースト・アルバムである
Reading, Writing and Arithmeticのみ。
最後の単語は算数という意味です。念のため。

だからたぶん、自分たちはまだようやく
始まったばかりなんだ、といった意味が
半ば自虐的に込められていたのではないかとも想像できる。

バンドの紅一点、ハリエット・ホィーラーなるシンガーは
本当に美しい歌声の持ち主だった。
透明で、同時にどことなくコケティッシュに響く。
なのにイノセンスみたいなものが
そこにはっきりと共存している。
そのせいかアコギそのものか、あるいはトラックによっては
そちらに十分に寄せたギターの音色がチョイスされている。
先に紹介したプリテンダーズのアプローチと似ていなくもない。
だがロック色はほとんど薄めで、むしろ空間的な広がりを
感じさせるサウンド・メイキングになっている。

バンドのデビュー・シングルはCan’t Be Sureなる一曲。
89年初頭にリリースされたこのトラックは、
たちまちに英国中のインディーズチャートでトップを
獲得してしまう。
バンドにとって二回目のギグではもうすでに
客席で各レコード会社による
熾烈な争奪戦が繰り広げられていたらしい。
その背景にはやはり、フェアグラウンド・アトラクションの
成功という要素が拭いがたく潜んでいたのに違いない。
彼女たちの音楽は決して完全なアンプラグドではないけれど
どこかノスタルジーをかき立てるという点において
フェアグラウンド・アトラクションと共通している。
たとえばこのCan’t Be Sureにしたって、
そもそもリズムそのものに、非常にプリミティヴな
どこかアフリカン・ミュージックにも通じる手触りがある。

さて、最終的に彼女たちは、ザ・スミスを敬愛していたという
理由から、ラフ・トレードとの契約を選択する。
だがこの時このスミスはすでに
大手への移籍が決まっていたうえに、
あろうことか、突如として解散を宣言してしまうのである。
そしてこの事件が、数年後のラフ・トレードの倒産という
不幸な事態を招いてしまう。
実際このレーベルは、収益のほとんどを
このスミスというバンドに負っていたから、
ある意味で仕方のないことではあった。
それが91年の出来事である。

当時バンドはセカンドアルバムを鋭意制作中だった。
決して十分な準備ができた上でのデビューではなかったから、
ファーストアルバムでさえ、満足のいく形で完成させるには
あのCan’t Be Sureの成功から数えても一年という時間が
必要となっていた。この彼らの最初のフル・アルバムは、
苦労の甲斐あってまずまずの成功を収めている。

ところがラフ・トレード倒産の煽りを受け、
この一枚が市場から姿を消してしまうという
信じられないような事態が発生してしまうのである。
しかもこの状況は96年まで続く。
その間バンドがどれほど辛い思いをしたかと考えると
これはもう、想像するだけで泣けてくる。
つまりはセカンドアルバムのプロモーションの間もずっと
自分たちの代表作が人々の手に届くことがないのである。
彼らが感じたであろう悔しさと虚しさは測り知れない。

Here’s Where the Stories Endsは同作の二曲目。
個人的な評価は続いて収録されている
先のCan’t Be Sureよりも数段上である。
実際僕自身、このトラックを手元に持っていたいがために、
同アルバムの購入に至ったことは否めない。
それだけの価値は十分にある作品だと思う。

メジャーセブンスの小刻みな、だが同時に十分に
余韻を残すスタイルのアコギのコードストロークが
開幕からトラックの雰囲気を一分の隙もなく決定づけている。
その上に例のハリエットの不思議な声が、極めてスムーズに
そっと滑り込んでくるのだけれど、そのメロディーはまず
これ以上は考えられないくらいなほどシンプルな
上昇のアルペジオのラインで始められている。
トラックのタイトルとなっているヴァースもまた、
この同じギターのパターンに載せられてくる。
この箇所の音程が少し低めにまとめられているところも
曲のメリハリをきっちりとつけることに貢献している。

そしてクライマックスともいえる印象的なサビのライン。
以下は曲終了直前の部分の、その箇所のスタンザの
例によって僕による勝手な和訳。

ひどかった一年の小さなお土産
それが胸のうちの私を微笑ませてしまう
世界なんてこんなものだわ
繰り返しそう思っちゃうのよ
自分でもびっくりしちゃうほど
ねえ、ここが物語の終わる場所なのね

原文では、五行目がSurpriseという単語の
繰り返しによって表現されているのだけれど、
ここの歌唱が本当に耳に残るのである。
改めて、幾度も繰り返し聴いていたい曲である。


さて、今回の稿を起こすに当たり裏づけを取っていくうちに
彼女たちのその後についても多少は詳しく知ることができた。
どうやらセカンドとサードのアルバムは、それぞれ
92年と97年に無事発売になっているようである。
もちろんレーベルはラフ・トレードからは離れている。
しかもアメリカでは、あのゲフィンが
ディストリビューターとして名乗りを上げていたようでもある。
国内盤のリリースがあったのかどうかはわからないけれど、
近いうちに取り寄せて聴いてみようとも思っている。
ちなみにこのゲフィンとは、レノンの最後のアルバムとなった
あの『ダブル・ファンタジー』をリリースした会社である。
のみならず、前回触れたガンズもこのレーベルからの登場で、
あの頃はゲフィンが推してくるハード・ロック・バンドなら
ほぼ間違いがないというような空気さえあったものである。


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