ブログラジオ ♯9 When Smokey Sings | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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The Look of Love であまりにも有名なABCである。
もっとも、もうそんなに知っている人もいないんだろうなあ。
最終的にヴォーカルのマーティン・フライと
ギターのマーク・ホワイトの二人だけのユニットみたいに
なってしまったけれど、最初からそうだった訳では決してない。

実際上記のLook of Loveと、
その収録アルバムのインパクトは強烈だった。
スタイリッシュという形容が一番似合っている。
ポップ・ミュージックにこんなことまで
できるんだという驚きさえあった。

A面収録の5曲が5曲とも、どれがシングルカットされても
おかしくはない強さがあった。
事実Poison Arrow, Many Happy Reutrns,
そしてTears Are Not Enoughの三曲が
入れ替わりにチャートを賑わすのだけれど、
選に漏れたValentine Dayの方が、
人によっては評価が高かったりする。
いや、この曲も最高にかっこいいです。
そのうえB面の一発目がLook of Loveなのである。
もう才能の塊みたいな印象があった。

ABCが不運だったのは、音の厚みこそが売りだというのに、
アルバムごとにバンドの編成が変わって
しまわざるを得なかったことだろう。
鮮烈なデビューであったにもかかわらず、あるいはそれ故にか、
セカンドアルバムもその次も
同じメンバーで制作されることはなかった。
四作目でついにマーティンとマークの二人は
二人きりで作品を作ることを余儀なくされてしまった。
もちろんスタジオ・ミュージシャンの力は
借りていたのだろうけれど。

その四枚目のアルバムAlphabet Cityの
先行シングルだったのが、
このWhen Smokey Singsである。
スモーキー・ロビンソン・アンド・ミラクルズ、という
ソウルの代表的なグループがあるのだけれど、
タイトルのスモーキーとは彼のことを指している。

つまりこの歌、イギリス人の彼らが
この黒人シンガーへの敬愛を包み隠さずに
歌にしたトラックなのである。
スモーキーが歌う時、ヴァイオリンが聴こえる。
彼の歌を聴けば何もかもを忘れてしまう。
ちょっと赤面するほどのストレートさである。

確かにマーティンの歌い方にはソウルへの傾倒が感じられる。
だが曲の手触りはむしろどこまでもポップソングである。
バート・バカラックやポーター辺りに代表されるような、
いわゆる三分間ポップの直系の子孫のような印象さえある。
リズムの刻み方や女性のコーラスなんかは、
どこかコミカルでさえあるし。

だがそれらが、いわばブリッジとでもいうべき
おそらくはレノン&マッカートニーならばミドルエイトと
呼んだであろうパートに仕込まれた、
たぶんセブンスを多用した
コードワークによって連結されることで、
ああ、完成してるなあ、と思わされる。
実際にお聞かせできないのが実にもどかしい。
とにかく僕を元気にしてくれる一曲の一つです。


まあトリビアという訳でもないが、
曲中にはスモーキー・ロビンソンのほかに、
マーヴィン・ゲイと
スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンの
スライとが出てくる。
もっともこの二人、やっぱりスモーキーが一番だという文脈で、
いわば引き合いに出されてしまっている感じなので、
いや、それはちょっと偏見かも、と
突っ込みたくならない訳でもない。
まあでも、そういう歌だから。


Alphabet City/ABC

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