ブログラジオ ♯8 It’s Doesn’t Have to Be This Way | 浅倉卓弥オフィシャルブログ「それさえもおそらくは平穏な日々」Powered by Ameba

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こんなはずじゃなかったのに。
直訳すればまあだいたいそんな意味である。
87年に、ブロウ・モンキーズなるバンドが放った
スマッシュ・ヒットである。

どんなジャンルが好きか。ロックでありポップスである。
そう答えるしかない。
だがこの表現では些か対象となる範囲が広過ぎるし、
僕自身も十分にしっくりとはこない。
ディスコサウンドはよく聴くし、
ヒップホップもファンクもありだ。
アシッドやグランジの中にも
琴線に触れてくる曲は幾つもあった。
プログレやパンクはさほど真剣に
手を出してはいないのだけれど、
HR/HMの中にも愛聴しているバンドは少なくなくある。
この年でいまだにボン・ジョビやハノイ・ロックスなんかは
時にどうしても流したくて仕方なくなる。

では自分が一番好きな音楽のスタイルとはなんなのだろう。
改めてそう自問した時すぐに浮かんでくるのが、
ブルー・アイド・ソウルという言葉である。
実際80年代には、結構よく使われていたはずだ。
青い目のソウル・ミュージック。
つまりは黒人の影響を受けた白人音楽ということである。
この表現には同時に、どうせ俺たちまがいもの、みたいな
自虐的な意味合いが拭いがたく込められてもいたりする。

ポール・マッカートニーも、あるいはデイヴィッド・ボウイも
一時期プラスティック・ソウルといった形容で、
自分たちの音楽について似たようなことを
自嘲気味に語っている。
ビートルズのRubber Soulはそのものずばり、
ゴム製のソウルという意味だし、
ボウイもYoung Americanの中で
そんなような内容を歌っている。

たぶん僕は、その偽物さ加減に反応しているのだろうと思う。
――ソウル・ミュージック。
原義的には魂に響く音という意味になるだろう。
ゴスペルを源流に持つあらゆる黒人音楽を指すと
言い換えてもかまわないのではないかと思う。

そのエッセンスが、白人ミュージシャンの手で
歌われプレイされることによって、
否応なくある種の変質を遂げてしまう。
その変成を引き起こしたのはあるいは照れなのかもしれないし、
でなければ無意識的な引け目のようなものなのかもしれない。
断言することは決して敵わない種類の物事ではあるけれど、
そのいわばブラックボックスを通ることによって
生まれてきてしまう何かが
どうしようもなく僕を惹きつけるのだ。
クールだな、とシンプルにそう思う。

あの頃このブルー・アイド・ソウルという
言葉を代表していたのは
スタイル・カウンシルというグループだった。
ジャムを解散したポール・ウェラーが
ディキシー・ミットナイト・ランナーズの
ミック・タルボットと組んで結成したユニットである。
このカウンシルについてはもちろん稿を改めて
きちんと取り上げるつもりでいるのだけれど、
そのいわばライヴァルとしてデビューから
注目を集めていたのが、
フォトジェニックなヴォーカリストにしてソングライター、
ドクター・ロバートなる人物に率いられた
このブロウ・モンキーズなるバンドだったのである。

オフビート気味のちょっと変わった印象のギターストロークと
軽めの音色のリズムセクションとだけでイントロは開幕する。
少し長いな、と思ったところにブラスセクションが
それこそ背後から潮が満ちるようにしてかぶさってくる。
そしてヴォーカルのドクター・ロバートが、
長音の最後を少しだけ掠れさせる独特の唱法で
どこか乾いた手触りの言葉たちをクールに紡ぎ出し始める。
歌詞もメロディーのそのどちらともが、
斜に構えて、といった形容が相応しい
独特の雰囲気をたたえている。

AメロBメロとサビのバランス。
ストリングスのかぶせ方、女性コーラスのアレンジ。
それから間奏のサキソフォン。
すべての要素が完璧だと思う。
もちろん個人的な感想なんだけどさ。
もっと評価されていい曲だしバンドだと
常日頃から思っている。
だからたぶん、また時間を置いて彼らの別の曲も、
この場で紹介させていただくことになると思う。


では最後にまたトリビアを一つ。
この曲を収録したバンドのサード・アルバム、
原題を、She Was Only A Grocer’s Daughter という。
たかが雑貨屋の娘じゃないか、という意味である。
これ実は、あのマーガレット・サッチャーを
揶揄したものなのである。
アルバムの発表当時、彼女はまさに
イギリスの現役の首相だった。
フォークランドの前だとは思うのだけれど
いずれにせよ、まあ国内ではずいぶんと評判が悪かったらしい。
それにしても普通そこまでするか、という感じではある。

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