厳冬期大日ヶ岳 執念のループコース | 強化人間331のブログ

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サイボーグである強化人間331の、つれづれ山行記録。
さしておもしろくもないのは、ご愛嬌。

郡上遠征!

 

ここのところ裏伊吹にこもりっきりで、目新しさの欠けていた当ブログ。いきなりケンカを売るようで恐縮だけれども、もちろん当アカウントは読者の便宜を図るために運営されているわけではなく、個人の備忘録という側面が強い。

 

したがってずっと裏伊吹でもよかったのですが、さすがに飽きてきました。ところで山ガールとやらいう都市伝説上の存在を、最近はとんと見なくなりましたね(これは筆者が入山している山域に問題があるのかもしれませんが)。

 

なぜだかわかるでしょうか。連中は流行りに乗って2~3時間のライトな山行のみを是として参入してきた、いわばライト層であります(なかには本格的な山屋になった女性もいるでしょうが、そうした層は全体の0.1パーセント以下でしょうから、統計誤差として捨象します)。

 

2~3時間程度のハイキングだけに限定していれば、遠からず登れる山は枯渇しますね。すぐに〈飽き〉という魔物が彼女らを席巻します。もともと登山なんてただ苦しいだけで面白いところなんてひとつもないんですから、飽きがくれば当然、彼女らは見向きもしなくなる。かくして山ガールとやらいうライト層の退出が、団塊世代の現役引退よろしく一挙に起こったというわけです。

 

この事例からなにが学べるのか? ずばり、

 

飽きは山屋最大の敵である

 

という点でしょう。これを克服しない限り、生涯の趣味にするなど夢のまた夢であります。前置きが長くなりましたがそうした意図のもと、今回は背伸びして岐阜県北部の大日ヶ岳へ挑戦してまりいりました。

 

実は本アカウントを立ち上げた際の、第一発めの記事が3月くらいの大日ヶ岳なのでした。そうした意味で原点回帰となります。最初の記事が確か2014年でしたので、約10年ぶりの厳冬期山行となります。山屋としての成長をお見せできればよいのですが。

9:00 桧峠道路の路肩に駐車~9:25 稜線合流~9:45 指導標ポイント①~11:15 指導標ポイント②~12:50 ダイナランドルート合流~13:00 大日ヶ岳(ランチ40分)~14:25 鎌ヶ峰~14:55 水後山~15:20 ウィングヒルズ白鳥リゾートのリフト降り場~16:00 登山口~16:40 桧峠道路の路肩(車回収)

 

日時 2024年2月10日(土曜日) 

天候 曇りのち強風を伴った雪

メンバー 強化人間331(単独)

装備 軽量化装備(調理器具、雨具、食料、非常食、水3リットル)

距離 約16キロメートル

推定累積標高差 約1,100メートル

所要時間 7時間40分(うち昼休憩40分、その他小休止含む)

備考 オールラッセル

 

1 気合い一発!

大日ヶ岳は岐阜市から割と近く、高速道路で飛ばせばせいぜい1時間30分圏内の山です。若いころ郡上へ行く際は極力下道を使って高速料金をケチっていたものですが、懐事情もいくぶん改善した昨今ではすっかり高速道路オンリーになってしまいました。

 

ケチるゆうてもわたしの乗ってる路線(関広見IC~白鳥IC)は休日割引でおよそ1,000円ほど。時間を買うという意味でならお釣りがくるほどの低価格です。というわけでその分浮いた時間はベッドのなかで消費され、登山口周辺の路肩に到着したのは9時前でした。これでも気合いを入れたほうなのですから、むしろほめてもらいたいくらいですね。

準備をして9:00出発です。登山口付近の様子はこんな塩梅。県道は除雪されてますが、両脇には1メートル以上の雪が積みあがってました。しめしめ、これはラッセルが楽しめるわいと笑いを嚙み殺しながら乗ってみると、これ根雪やん! カチコチに凍っており、ほとんど沈み込みません。

序盤は地形図の通り、沢を経由して稜線へ詰め上げます。本ルートはどうにか大日ヶ岳でループコースを作れないかと頭を悩ませていたとき、目に飛び込んできた代物。2023年の夏季に一度歩いているので勝手はわかります。無雪期の記録を読みたい方は、こちらの記事を参照してください。

 

沢は重力勾配的にもっとも雪が深い地形です。ここも例外ではなく、かなり積もっていたけれども固いため楽チンでありました。詰め上げる稜線直下はけっこう傾斜もキツイです。ジグザグに登って角度を緩和することで対応。不安な方はアイゼンなどのスパイク歩行具を持っていきましょう。

9:25、稜線に出ました。なんとも寂しいことに、積雪がほとんどありません。吹きさらしの尾根は雪が払われやすいのでしょうか。せっかく担いできたスノーシューの出番もなく、快速で飛ばします。

ツボ足の沈み込みはこんな程度。根雪が露出しているということは、ここ最近降雪がなかったことを意味しています。今冬って雪多かったんでしょうか? 1月は割とけっこう降ってた気がするのですが、ニュースでは伊吹山の積雪が例年より大幅に少なく、ドライヴウェイの除雪が捗っているとか言ってましたね。

標高をあげているのにも関わらず、ついに地肌の見えているか所まで出てくる始末です。一抹の寂しさを覚えますね。

 

寂しいからの連想ですけど、結婚のメリットとしてよく持ち出されるのが「孤独感の解消」であります。残業を終えて男やもめのアパートに帰ってきても、迎えてくれるのは誰もいない真っ暗な部屋だけ。こういうのが非常に堪えるそうで。

 

これは強がりでもなんでもないのですが、いまのところわたしはこうした感覚に陥ったことがない。一人暮らしなんだから、帰宅して迎えてくれるのが真っ暗な部屋なんて当たり前じゃないですか? なんでそれを寂しいと思うのかがわからない。それがいやなら実家暮らしをすればいいじゃないですか(いい歳こいた大人が実家暮らしでモテるかどうかは別問題ですが)。したがって少なくともわたしにとって、寂しさを紛らわすというファクターはメリットにはなりません。

 

次によく聞くのが「単身者と既婚者の寿命の差」ですね。単身者はおおむね60歳代でくたばることが多いのだそうです。女性と一緒に暮らしていると生命力が漲るのでしょうか? 昨今のアプリに常駐する超ワガママな連中を見る限り、むしろ生命力を吸い取られると思うのですが……。それはともかく、寿命延長効果の定説はずばり〈食生活〉であります。

 

男性単身者は栄養バランスを考えた手料理なんてまず作りません。コンビニ弁当やお惣菜、外食ですませてしまう。すると肥満をはじめとする生活習慣病に陥り、早死にするというわけですね。これが平均寿命として統計に反映されている由。

 

確かにわたしも凝った手料理なんて作りませんが、平日はどれだけ帰りが遅くても自炊はしています。栄養学の本を読み漁って作り上げた、ほぼ必須栄養素を摂るためだけの食事メニューを構築、それをここ13年ほど愚直にくり返しています。

 

結果、健康診断はオールAを連続受賞し続けてます。悪玉コレステロール値は100を切っており、38歳の肉体としては異例の健康体を維持しています。女性と一緒に暮らしていたと仮定したケースと比べても、遜色ないレベルなのでは?

 

むしろ最近の贅沢嗜好な女性族の食生活から推し量るに、一緒に暮らしていない現在のほうがむしろ体調がよい可能性までありそうです。したがって食生活仮説もわたしには当てはまりません。そもそも女性だから料理ができる/できるべきだという意見は時代遅れも甚だしいですよね。

 

あとメリットとしてあげられるのは、せいぜい子どもくらいですか。わたしは4人兄弟でして、わたし以外の兄弟は全員結婚しています。弟には待望の男児も生まれ、これにて強化人間一族の氏は継承されました。わたしが無理に子孫を残す必要性は薄れています。わたし個人としては〈いてもいい〉くらいの認識ですので、なにがなんでも正当な嫡子としての子どもがほしい! 結婚したい! という強烈な欲求はありません。

 

これは考えてみれば、一種異常な状況であると言わざるを得ません。男性は生物学的に、女性よりも子孫を残したいという遺伝的な性向が強いはずです。染色体の構成が男性XY、女性XXである以上、男性は男児を設けなければ自身のアイデンティティが途切れてしまう(女性は子どもが男女どちらでもX染色体が入るので、この限りではありません)。

 

戦前の日本の家制度は家父長的だ、男児優遇だ、女性蔑視だとさんざんに批判されてますけど、むしろ昔の人は直感的に分子生物学を理解していたといえるでしょう。その証拠にどの国でも家督は男性が継いでるでしょ。歴代の王や将軍といった支配者は息子が生まれるまで正室、側室に子どもを産ませまくっています。別に日本だけの特例的な現象ではありません(念のため断っておきますが、わたしはそうした女性抑圧時代を容認しているわけではありません。生物学的な事実を述べているだけです)。

 

ですから男性はなにがなんでも子孫を残したい! と熱烈に希望するはずです。にもかかわらずわたしにそこまでのパッションはないし、昨今取り沙汰されている男性の婚活離れという現象を見る限り、どうやら普遍的な現象になりつつあるようです。

 

何度も似たようなことを書いて恐縮ですが、率直に言って現代女性全般の結婚観はバグだらけであります。本当にデバックされたのかどうか怪しいアンリミテッド・サガよりもなおひどい。結婚はしたいけど生活レベルは落としたくない、結婚生活は毎日がスペシャル(古い)だ、イケメンでスマートで高収入な男以外はお断り、子どもはほしい(38歳女性)、専業主婦希望(同左)、エトセトラ。

 

あのさあ……。

 

よろしいですか、こんな現実世界から遊離した、おとぎの国に住んでいるかのような主張をくり返す女性とは、われわれ男性族はまったく結婚したいとは思いません! 結婚生活が秒で破綻することが目に見えているからです。結婚率の低下原因は諸説入り乱れているけれど、女性側のアップデートが遅れているからというのは大きなファクターだと断言できます。だいたいね――。

 

あの~、まーだ時間かかりそうですかね~?

 

せっかちですなあ。ではオチといきましょう。雪の少なさから推し量る日本の結婚率低下、というお話でした。ね、ちゃんとオチたでしょ。最近無理やりオチへもって行きすぎたせいか、「オチ」という概念そのものを見失いつつある強化人間でした。

9:45、1個めの指導標です。本ルートは大日ヶ岳東縦走路というらしいです。依然として積雪は少なく、記事の進みが悪いのとは対照的に山行は快速。

ブナ林の中を進んでいきます。随所で尾根が振れるか所があるので、ピークに乗り越す都度、進行方向は確認しましょう。うっかりしてると前谷川へ降りていってしまいます。

天気予報では晴れだと聞いていたのに、見事なまでの曇天であります。ここ最近ドピーカンの大当たりばかり引いていたし、こういう天気も受け入れていかねばなるまい。

顕著な尾根をひたすら辿っていきます。誰も入っておらずラッセル天国なんですが、沈み込みが浅いせいで冬山感はありません。これは楽勝でしょうね。※ネタバレ:楽勝ではありません。

さっきまで晴れ間が見え隠れてしていたなのに、どんどん曇天へと天気は崩れていきます。標高をあげるごとに気温も下がり、風も出てきました。なにやらいやーな雰囲気に……。

 

などと言ってるうちに、10:55ごろ、1200メートルあたりで横殴りの雪となりました。〈山の天気は変わりやすい〉を地でいく状況です。大丈夫かしら?

11:15、2つめの指導標です。前谷というのは本ルートが通されている尾根の西側に流れている沢のことですね。動いていれば耐えられるので、アウターは羽織らず続行。

11:40、1400メートルあたりでスノーシュー装着。沈み込みもけっこう深くなってきました。そしてやはり、装備後の快適さは特筆に値します。メモには「バーンはスパイクでグリップ、積雪は浮力でカバー、アイゼンいらず、万能感すごい」とありました。なにやら宗教的な色彩を帯びててちょっと怖い。

 

でも実際、スノーシューにはスパイクもついてるので、ちょっとしたバーンくらいならアイゼンの代わりになります。新雪は当然バッチリ浮力を得られるし、このツール万能なのでは? こうした思い上がりがのちの事故へとつながります。

これが事故現場。下から上を見上げている状況ですね。わかりづらいかと思いますが、阿呆みたいな急坂であります。なぜこんな坂を登ろうと思ったのか? これにはちゃんと理由があります。まずは下図をご覧ください。

進路は1,523メートルピークから北進し、ダイナランドルートへ合流、そのまま西へシフトして大日ヶ岳へ至るという流れ。なんら問題なさそうですよね。

 

ところが前谷ルート(本ルート)とダイナランドルートが合流する手前のピークの登り、例によって等高線が目詰まりを起こしています。この目詰まり部分が、

先ほど掲載したこの部分なわけ。この日は途中から天候が崩れ、この時点では吹雪いてました。昨今は冬山だ、オールラッセルだなどと息巻いていたけれど、結局最高標高は伊吹山の1,377メートル。現在地は1,600メートル近辺ですから、やはり気象条件が違う。ホワイトアウト寸前の環境のなか、急傾斜かどうかの判断すらつかないのですね。

 

ただひたすら眼前にそびえる坂を登る。それだけの作業と化しており、気づいたら体感的には絶壁に近い雪の壁に、かろうじてスノーシューのスパイクが刺さっている、という状況でした。斜面はクラストしており、踏み固めによる足場作りはまったく受け付けません。

 

あれ、これ俺死ぬのでは? 動揺が走り、一刻も早く詰め上げてしまいたいという焦燥感に駆られます。しかし眼前の絶壁を直登するのは無理ですので、やむをえず巻きながら登るしかない。トラバースした瞬間、スパイクがクラスト雪面から外れ、尻もちをつきました。

 

あとはどうなるかおわかりですね。終わりなき滑落への旅であります。なんやかやいままで冬季にせよ無雪期にせよ、滑落したことはそらありますよ。でもせいぜい数メートル、雪のクッションありきとか、堆積した落ち葉で足を滑らせたとか、その程度のプチ滑落でした。

 

今回のは史上最大でした。一度滑り始めると本当に止まらないんですね。どんどんスピードがついていくし、止める手段(=ピッケル)も未携帯。頼むから止まってくれと念じていると、岩と藪のミックスが進行方向に露出しており、あそこに衝突すれば止まりそう――。と思ったのも束の間、それがキッカーとなり、身体は宙を舞ってました。

 

着地はどうなったのか記憶にないのですが、気づいたら雪まみれになりながら吹雪く曇天を見つめておりました。どうやら死なずにすんだらしい。……あの、ひとつええですか。

 

滑落怖すぎるんやが?

 

推定滑落距離でいえば、せいぜい10~15メートル程度。その間ぐんぐん速度は増していき、最終到達速度はおそらく20~30キロメートルには達していました。藪がキッカーになって減速したのと、平坦に近い斜面が割合近くにあったのが幸いして大事故は免れましたが、毎年滑落で人死にが出るのも納得のスピード感でした。ああおっかな。

 

その後すっかり弱気になったわたしは撤退を検討するものの、どうにかクリアできないか悪あがきをすることに。

再掲します。赤線の途切れたあたりで滑落し、ダメージの回復を待ってから再出撃しました。ちなみにその際水筒が谷の方へ転がっていき、かなり深くまで捜索したものの結局ロスト。命と引き換えに失ったのが4,000円相当の代物で済んだと見るべきか、おそらく4,000円の価値すらないわたしの生命では釣り合わなかったと見るべきか……。

 

それはともかく夏道はご覧の通り、急坂を避けてダイナランドルートのコルへ合流しているので、それを辿ろうとしたのですが、雪面がクラストしているうえに絶壁のようなトラバースでした。もう途中からなにがなにやらわからなくなり、結局トラバースしながら青色ルートで小ピークに詰め上げるという謎ムーヴをかますことに。いや、ムチャクチャ怖かった。高層ビルの外壁に命綱なし、つま先立ちで移動しているような感覚でした。反省は最後に回すとして、とりあえずこれにて核心部はクリア。12:50、ダイナランドルート合流です。

 

滑落のショックと謎ムーヴの危険ルートのショックから放心状態となっており、大日ヶ岳へどうやって登ったかあまり記憶がありません。こんな悪天候なのにダイナランドスキー場からリフトで登ってきた人たちがけっこういたのには驚きました。強風に耐えつつ、

13:00,大日ヶ岳(1,709メートル)登頂。もうね、達成感なんかまったくなく、寒さと滑落のダメージで満身創痍、この地獄から逃げ出したい一心でした。

 

問題はランチをどう凌ぐかです(ランチを凌ぐ。この矛盾した表現から現場の悲惨さを想像してください)。こんな吹雪のなか30分も休憩したら、凍死確定。ウロウロしていると、

雪洞らしき代物が。どうやら物好きな山屋がこさえたようです。これに隠れてランチをいただこうかと思ったのですが、さすがにそれはダサくね? 人の作ったかまくらにおんぶにだっこでは、自称ベテラン山屋の名が泣きます。

大日如来もほとんど埋まってますね。周辺を捜索すること5分、どうにか風の凌げそうな丘の陰に隠れてやりすごすことに。ゆうてダイレクトに風を受けないだけで、漏れてくるやつがちょろちょろ当たってムチャクチャ寒いんですけどね。

 

なにを血迷ったか、この日はUFO焼きそばとあらびきロングウィンナーパンというラインナップ。暖かいスープの飲めるラーメンにしなかったのが災いし、焼きそばはすぐに冷たくなって食べられたものではありません。ガスの漏出も鈍って全然湯も湧かんし、まあロクなもんじゃござんせん。焼きそばを無理やりかっ込み、震えながら歯を磨き、13:40発。

 

出発はええんすけど、そもそもこれからどうするのか? この悪天候のなか、ナイフリッジが頻出する桧峠ルートを踏破できるのか? しかしピストンするとなると、例の超危険ゾーンが待ち構えています。しかも下り。これ進退窮まったのでは?

停滞は即、死を意味しますので、迷ったあげくループコースにこだわり、桧峠ルートで下山を試みます。横殴りの風雪のなか、尾根芯を外さないよう慎重に進みます。これはある程度下ってきてから尾根を見上げて撮影。

大日ヶ岳直下はいきなり核心部でした。写真ではようわからんでしょうし、地形図上でもそれほどまずそうなポイントはないんですけど、一部絶壁に近い下りがあります。そこは夏道を辿らず、大きく北側へ巻きながら下ってください。それでもかなりの傾斜ですが、幸い桧峠ルートは積雪が豊富で足場固め戦法が通じました。

 

もし根雪が露出していてクラストしていたら、たぶん無理でした。積雪は一般的に難易度を高めるけれども、本事例のように登山者を支援する条件になることも。

見づらいですが、大日ヶ岳からの下りを睥睨。ルート的には下図のようになります。

上述した通り、斜度のキツイか所は巻いています。本ルートは明瞭な夏道が下敷きになっているので経験者ほど、それをトレースしたくなるもの。ですが冬季はとにかく安全なルートを主体的に構築してください。痩せ尾根が連続しており、下手なムーヴをかますと山の藻屑と化します。

核心部を終え、なだらかな尾根をゆきます。相変わらず天候は悪く、氷点下のなかのろのろジリジリ牛歩の歩みを強いられます。

14:25 鎌ヶ峰(1,666メートル)着。出発から45分も経っているのに下げた標高はわずか40メート程度。こ、これ大丈夫なんか?

 

メモには「大日ヶ岳~鎌ヶ峰間全体的に難しい、ナイフリッジ、急坂あり」とありました。相当緊張を強いられたようです。ここまでこればもう楽勝かと思いきや、鎌ヶ峰からの下りもけっこうヤバかった。

命からがら鎌から降りてきました。見上げて1枚。メモには「鎌の直下も巻かないと滑落する」と書かれてました。かなり肝を冷やしたようです。なにぶん2月上旬のことなので、すでに忘却の彼方ですが……。

大規模なクラックが。これぐらい顕著なら踏み抜いたりしないんですが、クラックがなければどこが空洞になっているかわからない。冬季の稜線はこれが怖いですね。

とにかく天候が悪い。暴風雪にさらされながら、歯を食いしばって下ります。大日ヶ岳直下に比べれば傾斜は緩やかになりましたが、その代わり雪庇が発達しており登山者を地獄へ引きずり込もうと舌なめずりをしています。

対岸の尾根を遠望。なにを隠そう行きのルートであります。稜線はなだらかで楽勝そうなんですけど、最後の最後でガツンと一発かます悪魔的な構造です。夏は楽勝なんやけどなあ。

急傾斜以外のなだらかな稜線でもデンジャラスゾーンが。これ歩いていてふと気づいたんですけど、すぐそばにクラックが! ホンマに数センチメートル単位の差でした。漫画のように飛び上がって驚いてしまった。「うわっ!?」的な。

 

本ルートは常時強風が吹き荒れているため、雪庇が南側へ異常なまでに発達しています。このようにクラックが目印になりはしますが、崩れ落ちる前だと安心して歩けるスペースがわかりづらい。南側により過ぎないよう注意。

なんぼ痩せ尾根やゆうても、これは細すぎちゃう? 樹林にへばりつくようにして通過しました。見た目ほど足の置き場は狭くありません。

瘦せ尾根ゾーンを振り返って。ちょっとでも南側へ逸脱すれば雪庇を踏み抜き、切れ落ちた崖へ向かってダイヴであります。肝を冷やしました。

14:55、水後山(1,558メートル)到着。なにやら掘り返されたあとと、雪をかぶったオブジェクトが出土しています。これはたぶん水後山の山頂標識でしょう。ここまで下りてくればもう大丈夫です。これより下で難しいポイントはありません。それでは大日ヶ岳~水後山を地形図で振り返っておきましょう。

大日ヶ岳から鎌ヶ峰は本ルートの核心部です。慎重な足さばきが必要となります。鎌からは直下の下りと、痩せ尾根が曲者。雪庇を踏み抜くと数十メートル下へ転落しますので、尾根芯にへばりつくように歩いてください。

鎌ヶ峰を睥睨します。やはり直下の下りはかなりの傾斜となっていますね。厳冬期にはあまりリピートしたいコースではありませんなあ。

ご覧のように水後山からはいままでの難易度が嘘のように、なだからに下っていきます。ここまでは登山者のトレースがついていました。おそらくウィングヒルズ白鳥からリフトを経由して、プチスノーハイクを楽しんだのでしょう。安全圏で楽しみたい方はそれがよかろうかと思います。

細い部分もありますが、先ほどまでとは比べるべくもない。大日ヶ岳との標高差はこの時点で200メートル強。たったこれだけでもだいぶ風速が和らいでいます。

15:20、ウィングヒルズ白鳥のリフト降り場着。ゲレンデにはこんな天気なのにぽつぽつ人がいて、彼らのたくましさに思わず口元が綻びました。

 

冬は外出を控え、炬燵や暖房器具に囲まれてネットフリックスやらアマゾンプライムやらで動画視聴をするという輩がいるようですが、やっぱりちゃんと冬は冬の醍醐味を味わうべきだと思うのですよ。

 

暖房を使うなというわけではなくて、1年中20度前後の快適環境に甘んじるのではなく、われわれの祖先が耐え忍んできた厳しい環境を肌で感じてこそ、生きている実感を得られるのではないかと、こう申しておるのであります。

 

真夏は汗だくですごし、真冬は震えながら眠る。それが動物の生き方ってもんでしょう。そうして初めて、メリハリのある生活を送れるのではないでしょうか。まあエアコンを使わない温度変化の激しい環境は寿命を削るんですけどね
スキーヤーやボーダーの邪魔にならぬよう、ゲレンデ外の樹林帯を下っていきます。心にもだいぶ余裕が出ていたので、婚活高望み女性が深みにはまっていく動画を垂れ流しならザクザク降りていきます。もう最近、これくらいしか娯楽がないのですよ……。
 
上記の道標で桧峠方面へシフト。とはいえ積雪が多く、スキー場下部は平坦で道もわかりづらい。もうここまで来ればGPSを参照しながら適当に歩いてしまって大丈夫です。
こんな感じなので、夏道もなにもありません。右手にウィングヒルズ白鳥の駐車場を見ながら、全身凍傷寸前の状態で、

16:00、桧峠登山口に降りてきました。いやあ、安堵感がすごい。まさに九死に一生を得たという感慨が。標高900メートルともなれば雪の降り方も穏やかで、深々と積もる雪のなか、道路歩きをひたすらこなす作業へとシフトします。

 

ちょうどスキー場から帰る車の列に紛れ込む形となり、次から次へと後ろから追い抜かれていきます。桧峠へ通じる県道は道幅も狭く、ギリギリ1車線あるかないか程度。立錐の余地もないところを歩いていたわたしは、さぞや邪魔だったでしょうね。

 

16:40、車回収でした。9:00発、16:40着ですので山行自体は7時間40分程度だったようです。実際の体感時間は少なくとも2~3日はありましたけどね。これは観測主体によって時間の流れが変わりうる――すなわち相対論を示唆しています。

 

相対性理論は重力レンズ効果を日食の際に観測したことで立証されたのですが、今回の山行は別の切り口で当該理論を立証したかっこうとなりました。すなわち、

 

気候の厳しい厳冬期の亜高山帯を登ると、主観時間が伸びる

 

お粗末さまでした。

 

2 コース所感など

夏季はともかく、冬季はけっこうしんどいです。少なくともわたし程度の技量ではスイスイ登れて物足りない、などということにはならないでしょう。厳冬期には適していないかも。
 
とはいえそんなことを言い出したら、北アルプスだって厳冬期に適してるはずがないですよね。結局この手の難易度評価は、技量の足りない山屋の言いわけなのです。どんどんチャレンジしていってください。
 
ただし雪の具合だけは要注意。2月下旬くらいから根雪が露出してクラストしますよね。この時期だけは命の保証はできません。本文中に「傾斜がきつく巻いた」という表現のあるエリアは、ちょっとの油断で即滑落と相成るでしょう。雪の豊富な時期か、3月のように雪が腐ってからお越しください。
 
3 反省

反省点がいっぱいあって困っちゃう。枝葉末節は大胆に切り捨て、個人的に振り返っておきたい点をひとつだけやりますか。

反省点はいうまでもなく滑落ポイントですね。順番にいきましょう。

 

Q 滑落は防げなかったのか? 

A まあ、防げたんじゃないの。

解説 進行方向に踏破困難な急坂があれば、冬季は巻くのが常道です。ちゃんとコース取りを考えましょう。ひとつ言い訳させてもらえば、現場は暴風雪で白一色、坂の角度なんか登ってみるまでわかりませんでした。

 

Q 滑落は止められたのではないか?

A まあ、止められたんじゃないの。

解説 冬季になるとみなさん誰もが携帯する滑落停止器具・ピッケル。著者はもちろん未携帯でした。重いし短いし、ハッキリ言って邪魔なんですよね。それが仇になったわけですが、たぶん持ってても止められなかったでしょうね。よほど熟達してない限り、そんな瞬時に態勢を変えてピッケルを突き刺すなんてまず無理です。実際に体験してよくわかりました。反応時間の猶予はもはやゼロコンマの世界です。オリンピックレベルやん……。

 

Q 他にルートがあったのではないか?

A ある!

ここだけ食い気味に回答したのは、この項だけはちゃんと反省しているからです。

再掲します。死ぬ思いでダイナランドルートに合流したあと、コルをのぞいてみると比較的なだらかな谷になってました。黄緑線で示したルートなら危険か所もなく、うまいこと合流できるのでは? 黒星のついた山行は原則、リトライするのがわたしのスタンスです。

 

よっしゃ、やったろうやないかい! と意気込んだまではよかったのですが、いつの間にやら4月です。めでたく1年後にお預けと相成りました。夏季にでもちょちょっと歩いて研究などしておくつもりです。ともかく死ななくてよかった。全身のダメージも数日で回復し、後遺症もなし。でも見えない部分できっと蓄積しているんでしょうね。こうして満身創痍となっていく。それが山屋の宿命であります。

 

さて次回予告。またもや雪が降ったタイミングを見計らい、今度は霊仙山へ行ってまいりました。もちろんバリルートもたっぷりありますので、どんなマニアな方でも大丈夫(→天井もたっぷりありますよ、どんな長身の方でも大丈夫)。乞うご期待。

 

おわり