悲願の鋸岳 地獄変 | 強化人間331のブログ

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サイボーグである強化人間331の、つれづれ山行記録。
さしておもしろくもないのは、ご愛嬌。

後半戦!

 

のっけから登山口を通り過ぎたり、想像以上に手強い角兵衛沢遡行にメタメタにされたわたくし。大幅に予定時間をすぎており、甲斐駒までいけるかどうか、そろそろ決断せねばなるまい。

 

前回は鋸岳に登頂し、そこからいよいよハードな縦走を開始、俺たちの戦いはこれからだ! といったシーンで終わってましたね。後半は非常に泣き言めいた展開になるかと思いますが、それでもよければお付き合いください。

まずはコースを再掲。こうして見るといよいよ稜線歩きが始まるとか書いてるくせに、ほとんど上を歩いてないっていうね。

 

①稜線

 

のっけから難易度の高い鎖場にぶつかり、すっかり怖気づいた強化人間。ま、まあこれはあれでしょ、当ルートの核心部で、こっち周りだといきなり最難関エリアにぶつかっちゃったとか、そういうことなんでしょう。もしこんなのが連続するようじゃとても時間内にやり切るのは不可能です。

はい、なんとかよじ登りました。上からおそるおそる下のようすを撮影してます。ああおっかな。手がかりが少なめなうえ、鎖もベストな位置にあるとは言いがたい。おまけに岩ももろく、うかつなポジショニングもできませんでした。難しいなあ。

振り返って1枚。写真中央の右上に向かって伸びているのが尾根筋ですね。最初にこんなところを歩こうと思ったやつの気が知れません。

ちょっと歩いたところでまたぞろ難所が。わかりづらいですが、正面の岩の直下にコルがあり、そこへなんとかして降りなきゃならない。ではと思ってクライムダウンの姿勢をとろうとしつつ、下をのぞき込むと、

絶・対・無・理!

 

すごいよマサルさんネタも思わず飛び出ようというものです。これも現場じゃないと臨場感が伝わらないのが歯がゆい。足元はぼろぼろに風化した岩場、目指すコルは垂直に切れ落ちた先の猫の額。こんなんどうやって降りればええねん。こういうときに限って肝心のお助け鎖もぶら下がってないときた。なぜ最悪のタイミングで連中はサボタージュをやらかすのか?

 

何度もリトライしながら降下を試みるも、高度感がありすぎるうえに掴めそうなとっかかりもない。当然足の置場もありません。尾根筋からの下降は無理と判断し、左右のどちらかを巻けないか模索します。

 

いつもなら強引にやってたかもしれませんが、誰それの慰霊碑、みたいなのがこの小ピークに埋め込まれてたのを目の当たりにすれば、わたしでなくとも慎重になるでしょう。FFTのガフガリオンも慎重すぎるくらいがちょうどいいンだ、と言ってました(なんのこっちゃ)。

よし、こういうときは小休止。それに限ります。深呼吸して後ろを振り返ると、鋸岳第一高点の堂々たる山容が励ましてくれました。一瞬あそこまで戻り、今日はもう角兵衛沢ピストンでいいじゃん、という誘惑に駆られましたがなんとか振り払う。もう一度リトライです!

 

よく見ると右側から負けそうなのに気づきました。ただ右からのトラバースは明らかにセオリーではなかったらしく、踏み跡もない、足の置場も数十センチレベル、おまけにはるか下の戸台川の方向――つまり奈落の底へと若干傾いでいる。数メートル程度のトラバースに5分以上かけ、なんとかコルへ渡ろうと試みるも、どう考えてもこのギャップを渡るのは危険すぎます。

 

こりゃあかんと思い直していったん撤退、慰霊碑のあるピークでうんうん唸ります。結局どうにもならなかったので、上述のトラバースから相当の危険を冒して強引に渡りました。怖すぎやろここ……。

これが結局降りられなかった尾根筋の部分。こうして見るとどうってことないように見えますが、傾斜が鈍角にえぐれており、まったく足の置場がありませんでした。ざっと見積もって3メートル弱。されど3メートル弱ですね。そして右から巻いたほうはというと、

いやあかんやろ、冷静に考えてこんなルートがセオリーなわけがありません。ガレの急傾斜をトラバースしつつ、崩れる岩雪崩に必死に抗いながらよじ登りました。絶対におかしい。もしこれがセオリーだというのなら、3人に1人はここで滑落、1,600メートル下の戸台川まで真っ逆さまという痛ましい事故が頻発してるはず。

 

不審に思って周りを見渡しますと、はい、案の定鋸岳側から見て左側に大きくえぐれた巻き道がついてましたとさ。いまいち釈然としません。むろんわたしの注意力は散漫だった。それは認めましょう。でもここを安全に渡るため、小ピークで20分くらいルートを考察してたのですよ。当然左側から巻けるかどうかも確認したんだけどなあ。なんにせよここは正面からでも、まして右側からでもなく、左側に巻き道がついてます。まちがっても強引にいかないように! (そんなことをするのはお前だけだよ

おお、この光景は予習をしていないわたしでも知ってますよ。ここがかの有名な鹿の窓なんですなあ。

鹿の窓は鋸岳縦走のなかでも難所とされており、このように地獄の底へと通じるかのような鎖が1本通されております。

 

はい、ここでわたしは痛恨の勘ちがいをやらかしました。縦走路はこのまま岩稜の尾根筋をずっと歩くもんだと早合点していたので、この下っていくルートは中野川乗越、つまり熊の穴沢下降点だと決めつけてしまったのです。

 

さらにさっきのギャップ越えで時間をとられ、この時点で11:30すぎ。ここから先がどのような難易度なのかわからないまま、縦走を強行するのはいただけません。バスに間に合わない可能性を考えれば、素直に熊の穴沢から下って(だるいけれども)戸台川をピストンしたほうが現実的でありましょう。

 

というわけで、エスケープ決定!

 

わたしの勘ちがいの詳細は、さっきの慰霊碑ピークが第二高点、そして鹿の窓が中野川乗越だというもの。地図上では第一高点から乗越まで2時間30分とあり、いっぽうわたしはここまで30分足らずできている。どう考えても乗越に着いてるはずがない。にもかかわらず、

 

俺はたぐいまれなスピードでここまできたんや!

 

といういつもの驕りがまともな判断を曇らせたわけです。むろんここは中野川乗越ではありません! 誤解を招かないよう種明かししておきますと、そもそも鋸岳縦走路はほとんど尾根筋を辿らず、どうもその直下をトラバースするのがメインのようです。だから鹿の窓からいったん下って、あとは東へひたすら巻き道を進むのがセオリー。でもわたしはここが下降点だと思ってましたらから、ひたすら下を目指すと。

 

さあこのあたりから泥沼にはまっていきますよ。受難劇の始まりです……。

 

ほい、鹿の窓直下のごようす。傾斜はほぼ垂直、角度がきつすぎて鎖が浮いてますね。これは2本あるのではなく、右側のは影です。とはいえ手がかりはぼちぼちあるので、慎重にクライムダウンすれば大丈夫でしょう。ただ高度感はかなりのものです。

三点確保で体勢を固定したところで1枚。のんきに写真撮ってますけど、この時点でもまだ岩に張りついた状態だっていうね。先週の穂高山行がずいぶん活きてるようです。むかしは撮影してる余裕なんかなかったと思います。

無事鹿の窓直下の懸垂下降をクリア。楽勝と書くと見栄を張ることになりますが、こんなん絶対無理! というほどではありません。さっきの(コースアウトした)トラバースのほうがはるかに怖かった。やっぱりセオリールートは人間がまともに辿れるようになってるようです。

さてここで問題が。道が2つあるんですなあ。ひとつは鹿の窓を降りてほどなく、東へと絶壁をトラバースする登山道。もうひとつはさらに下っていってから、東へとトラバースする登山道。後者が上掲の写真です。

 

どうでしょうかみなさん。矢印の上側に踏み跡があるのがわかりますでしょうか。まだしっかり確認してませんが、おそらく本道は上のトラバース道だったと思われます。でもわたしは下へ進むのがセオリーだと思ってましたから、なんでえんえんと東へトラバースしとんねん、あれはちがう道にちがいない、とこう結論する。

 

上掲の道もなにやらトラバースしてるけれども、とにかく下にいくんだから少しでも高度を下げればいいはずです。そしてそのまま進むと、なんと岩に←―→の赤ペンキマークがあったのですよ! わたしはこのマークをいまでも恨んでます。これにてここが正解ルートだと完全に盲信してしまった。安心してさらに歩くと、

とても本道とは思えないようなむちゃくちゃなガレ場に。傾斜は40度近くあり、歩くたびに岩津波が起きてしまいます。が、このときはもう自分の保身で精いっぱい。なりふり構っていられません。

 

しばらくは急傾斜のおっかないガレ場を慎重に下っていきます。角兵衛沢の遡行を終えたとき、ここは死んでもピストンしたくないと思ったものですが、この沢はあそこの数倍上をいく危険度。同じ遡行ルートなのに熊の穴のほうはこうも難易度が上なのか? ほんとにみんな、こんなところを登ったり下りたりしてんの? でもさっき岩にマークがあったしなあ。

 

遅々として進まない下降も、いよいよその正体を現してまいりました。鎖などの補助がいっさいない崖の下降が、それはもうわんさか出てくるようになってきました。数メートル単位のやつなんかざら、なかには10メートル近く降りねばならないか所も。

 

しかも手がかりと足の置場が本当に少ない。足なんてつま先がちょっと乗せられれば御の字、ひどいときは40度くらいの岩肌に足の裏を押しつけて足場とする、なんてのが徐々に常態化してきました。

 

手がかりもかなりまずく、掴んだ先から崩れ落ちるのには閉口しました。愚直に三点確保を守っていたからよいものの、焦って支持を怠ってたら体重を支えきれずに滑落、戸台川まで数十秒の無重力体験ができちゃうところです(その代償はむろん死です)。

 

心に余裕がなくて写真はほとんどないのですが、ちゃっかり撮ってるっていうね。なかでも最大の脅威はこれ、滝であります。よく山で迷ったら沢を降りちゃいかん、滝にぶつかったら立ち往生するぞ、という警句があるでしょう。あれをついに実地で思い知ることに。

 

こんなのどうすんねんマジで。いや引き返せよという声もあるでしょうが、この沢はここにくるまでいくつか相当大きな岩を飛び降りるようなシチュエーションがありまして、一定のラインを越えると再び登り返すのがほぼ不可能になるわけです。まさに天然の罠ですよこれは。もうおり切るしか選択肢がなくなちゃったところへ、滝ですから。

 

でもなんとかやり切りました。滝といってもぱっと思いつくようなやつではなく、段々の岩場を水が流れてるようなタイプですので、そのまま降りられないわけじゃない。でもウエットな岩場の難易度は想像を絶してまして、水垢や苔などのせいで水のある場所は文字通り手も足も出ません。わずかに残されたドライなスペースを見つけ、震える足を抑えつけて徐々に下降するという感じです。

出てくる岩場がいちいち難しく、そのたびに大幅に時間を取られます。ほんのわずか余裕があるときに撮ったやつはこのように楽勝だった登攀だけなのが残念。

 

さっきの滝が終わったあと、わたしはてっきりいまのが最大の難関だったと額の汗を拭ったわけですが、とんでもない。そこからさらに似たような滝が何度も出てくるし、非常にまずい岩場も多数出演、やむをえずザックを先に下へ放り投げて身軽になってから下るなんていう反則技も何度か使いました。

終始こんなのが続きます。むしろ最初のほうの急傾斜のガレ場が懐かしいほどです。ずっとあんなのだったらどれだけよかったことか。

 

景色だけは正面にずっと開けてるわけですが、それだと余計に現在の高度がだいたいわかっちゃう。いけどもいけども南アルプス林道すら目の高さにならない。時間は無情にもどんどんすぎていきます。

 

さすがのわたしも14:00をすぎたあたりで、ここはもう絶対にセオリールートじゃないということには気づいてました。が、上述のように登り返すのは不可能ですので、いまさら後の祭り。なんとしても下へいくしかないわけです。

 

あまりにも余裕がなさすぎたためか、この沢の下降の記憶はほとんどないのですが、3分の2ほど下ったあたりでぶち当たった滝だけははっきり覚えてます。まさにみなさんが想像されるような崖から水が空中に散逸してるような垂直の滝でした。下をのぞき込むと落差は20メートル以上はありそうです。この滝を直接登攀するのは天地がひっくり返っても不可能ですので、なんとかべつの下降ルートを見つけねば。

 

では左右どちらかから巻けないかと思って確認するも、まったく双方ともにとても人間が下降できそうなあんばいじゃありません。いよいよ詰みです。でも詰みだ詰みだと騒いでても帰還できないので、意を決して右側から草つきと岩のミックスを降りることにしました。

 

予想通りこの登攀は相当にまずかった。足場はほぼ存在せず、あってももろすぎて踏んだ先から崩れ落ちていきます。岩がはるか下まで落下して粉みじんに砕けるのを見て血の気が引く感じ、わかりますでしょうか。掴む岩もないので丈夫そうな灌木を引っ張ったり、ときには棘の生えたイバラを素手で握りしめ血まみれになりながらも、一歩一歩着実に降りていく。

 

この滝を攻略している最中、ついに新しい技を編み出しました。こうした自然ルートではつねに降下先を考えながら下るわけですが、はたと立ち止まって熟考せねばならないような難しいエリアにあまりにもしばしば、ぶつかります。

 

そんなときどうするか? ずばり四点確保による岩壁静止姿勢であります。この技術的根拠はいたって簡単。三点確保が抜群の安定感を誇るなら、四点はそれ以上のはずだ。もしそうであるならば、まずいか所に直面したときに焦っており切るより、いったん止まってじっくりルートを模索したほうがよいのではないか。

 

おっかない岩場を下っているときは、少しでもポテンシャルエネルギーを低下させたいという欲求に突き動かされ、いきおいがむしゃらに進んでしまいがち。でも性急な降下はこの沢のように岩が風化し、握った先からぼろぼろ崩れるような場所では非常に危険です。こうしたなにげない気づきが命を拾ったのかもしれません。

 

崖に張りつきながら、生への執念ともいえる闘志を燃やし、ついに無傷で20メートルの滝をクリア。降り立ったときはほとんど魂が抜けかけてました。ぐったりと座り込み、先に下へ投げておいたザックを背負います。このときサイドに差しておいた水筒がなくなっていることに気づきましたが探す気も起きません。さらば水筒、合掌……

 

その後はこれほどの滝こそなかったものの、依然として岩場は出てきます。人間何時間も集中力を持続させるのは難しいようで、それは命がかかっていても同様。数メートルの滝にまたもや出くわし、猫の額ほどのドライ部分を必死で降りているときにふと、

このまま手離して飛び降りたほうが楽になれるんちゃうか……?

みたいな思考がよぎってしまった(かなり危ない感じですな……)。力が一瞬抜ける。あとはもう想像される通り、ナメ滝に群生する藍藻やら水垢やらで足を滑らせ、ウォータースライダーのごとく落下、その際に右ひざを思い切りひねりました。

山あいにこだまする絶叫。
うずくまって苦悶の表情を浮かべる見目麗しい青年。
彼がおそるおそる膝を曲げてみると――曲がった。痛みはあるが曲がったのである。最悪のケースは免れた。折れてはいないのだ。
彼は脂汗を流しながら獰猛な笑みを浮かべる。

曲がる。折れてないのなら……歩ける!

苦難の道のりは続いた。
負傷した場所は沢を3分の2ほど下ったあたりであり、先は長い。
膝は屈伸と回転に抵抗を示し、浮石を踏んで少しでも角度がずれれば激痛が走る。
そのたびに絶叫がこだまし、鳥たちはその不吉な咆哮をに恐れおののき、飛び去っていった。

降下は永遠に続くように思われた。眼下に広がるガレ沢は彼の気をとことん滅入らせたが、幸いあれ以降滝などの難所が立ちはだかることはなかった。
しかし急傾斜のガレ場を膝を曲げずに下るのはあまりにも難しい。角度がつくたびに襲う激痛にさいなまれ、何度も呪詛の言葉を吐き散らす。
それでも彼は進む。下り始めてから4時間が経過していた。

え、あれ? 沢の角度がずいぶん緩んできて、難しい岩場の下降もついぞ見られなくなったあたりでなんと! 右手の樹林帯にペナントがたなびいてるのを発見しました。降りてるあいだずっと抱いていた懸案は、そもそもこの沢はどこに続いてるのか、というもの。まあ戸台川のどこかに合流するとは予想していたものの、人の手の入った登山道を歩けるならそれに越したことはない。

 

た、助かった……。

 

一気に肩の力が抜けました。15:30、熊の穴沢登山道に合流したようです。樹林帯はガレた沢とちがって歩きやすく、膝へのダメージも最小限にできました。無心で歩くこと1時間、

16:30、ついに懐かしの戸台川に合流。足元を見ると、

ここが熊の沢登山口であることが確定しました。このあたりを早朝にうろついていたのが何日も前のようです。あとは適当なところで沢を渡渉し(なかなか渡渉ポイントが見つからず閉口しましたが)、えんえんと戻るだけ。帰り道はいきに見逃したペナントや本道の多くを発見でき、次回への布石とできました(次回があればの話ですが)。

暮れなずむ戸台川の沢道。ほぼ水平ですので膝もなんとかもってくれました。やがて日没し、渡渉失敗して水浸しになるという一幕こそあったものの、18:15、ついに登山口へ戻ってきました。

 

4:15発、18:15着。実に14時間もの超ロング山行となりました。ちなみに角兵衛沢の登りがジャスト3時間で、(本道でない)熊の穴沢の下りは5時間かかってます。まったく悪夢のような1日でした。

 

②温泉

 

ふらふらになりながらもかっ飛ばし、19:30には駒ヶ根ICにほど近い早太郎温泉「こまくさの湯」に辿りつきました。南信ならやっぱりここで決まり! お湯のなかならかろうじて足を伸ばせましたが、果たしてどれほどのダメージなのか。ぐぬぬ……・。

 

なお帰り道に中津川ICで降りて超セレブな中華チェーン「王将」にてドカ食いしたのが災いしたのか、それからの運転は睡魔に完封され続け、いつ事故を起こしてもおかしくないような蛇行運転をかましてました。結局途中で仮眠しつつ、帰宅したのは午前1時。まる21時間ものあいだ行動してた勘定になります。無茶しすぎました。

 

③反省

 

あまりにも多くの反省点がございますが、例のセオリールートでない熊の沢穴左俣の詳細だけに絞りたいと思います。まずは下図をご覧ください。

本文にも書きましたが、なんといっても予習を怠ったのが最大の原因であります。鹿の窓からの降下はあくまで縦走路への布石であり、沢への下降ルートではありません。むろん中野川乗越であるはずがない。

 

わたしにとって誤算だったのでは、鋸岳登頂ルートは地図に表記があるため、ちゃんとした一般ルートだと断定していた点。歩いた感じでは岩場にマークもなく、稜線には道標もなく(たとえば角兵衛沢のコルに道標はありませんでした)、完全にバリエーションルート扱いだったのでした。

 

ただ鹿の窓を降りたあと、踏み跡が東と南、ふたつあるのに初見では戸惑うはずです。わたしは南へ踏み込み、そのまま熊の穴沢左俣(とおぼしき)沢を下る羽目になっちゃった。

 

等高線を読めるかたはぜひ比べてみてほしいのですが、熊の穴沢右俣(セオリールート)と左俣(まちがい)の角度のちがい、これはもうまったく顕著な差があります。しかもよく地形図を見てみると、この沢は左右ともに急角度の尾根に阻まれ、一度入ったが最後脱出は不可能になるという天然の罠なんですね。

 

さて角兵衛沢も右俣と同じくらいの等高線密度ですが、にもかかわらず本文で書いたとおり、角兵衛の登りでもわたしはけっこう苦戦しましたので、まちがって入った左俣の過酷さがいかほどのものか、地形図から容易に読み取れるというものです。

 

少し調べてみたところ、この左俣は主に冬季、つまりアイスクライミングのルートとしてその道のマニアがたまに入ってるようです。そりゃ手ぶらで、それもテント泊装備の人間が丸腰で下って苦労するわけです。しかしあそこを装備ありとはいえ、自発的に登攀しようとする輩がいるとは……。世界は広いです。66兆2,000円積まれても二度とごめんですな(幽遊白書の左京さんネタが……)。

 

大げさだと思われるのを承知で警告させてください。左俣には興味本位で絶対に入らないこと! ただこの記事を読んで鋸岳そのものを敬遠するのはもったいない。しんどい行程ではありますが、他に類を見ないガレ沢歩きを楽しめますし、稜線歩きもスリル満点の岩稜です。降下点さえまちがえなければ熊の穴沢も問題はないでしょうから、腕に覚えのあるプレイヤーはぜひ、鋸岳界隈をこれからも楽しんでください。

 

最後に膝の調子について。骨には異常がないということで、いまのところ日常生活には支障はありません。が、やはりダメージは大きく曲げ伸ばしには困難が伴ってますね。痛みは多少ましになってるので、そのうち治るとは思いますが(治るよな?)、これはしばらく山はお休みでしょうねえ。

 

なんにせよ鋸岳については、いずれリベンジせねばなるまい(まだ懲りてないの?)。6合め石室あたりで宿泊するプランできっちり予習し、いつか角兵衛~鋸~甲斐駒稜線を絶対にクリアする。そう野望を新たにし、擱筆したいと思います。長々と読んでいただきありがとうございました。

 

おわり