悲願の鋸岳 黎明編 | 強化人間331のブログ

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サイボーグである強化人間331の、つれづれ山行記録。
さしておもしろくもないのは、ご愛嬌。

やっと!

いってまいりました。当ブログで何度も挑戦したいと言及する割にちっともいってなかった南アルプス鋸岳。10/1日曜日、日帰りの弾丸旅行を決行したのであります。

そのために土曜日はエネルギーを蓄えておかねば。たっぷり休養をとり、徹夜に備えればなるまい(まあそのように意図せずとも正午まで寝たり起きたりをくり返してたわけですが)。図書館で本の入れ替えを行い、読書をし、改めてコースの選定をやり切り、気力充実で深夜出発。

まず結果的に言うと、生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い込まれました。これは鋸岳の登山道がウルトラハードというわけではなく(そう表現してもあながちまいがいじゃありませんが)、わたしが愚かにもコースアウトしたからです。わたしの登山史上、宇宙空間まで飛び抜けるレベルで燦然と輝く、生死をわけた戦いとなりました。いま思い出しても怖気をふるいます。

それは後述するとして、とりあえず鋸岳のご紹介を。どの山脈にも難関はあるもので、北は奥穂高(の西穂稜線からのコース。ザイデングラート――ドイツ語、カコイイ!――などの一般向けルートもあります)、中央はわれらが宝剣岳、そして南がこの鋸岳になります。

南アルプスはどちらかというとたおやかな山容を持つ山岳が多く、女性的とか言われてますね。ところがこの鋸岳と甲斐駒までの稜線はまったくの別格、するどく屹立する峻厳な山容、他を圧倒する趣を持つことで有名。

わたしはすでに国内最難関との呼び声も高い西穂稜線をやっつけてしまっているため、思いっきりなめてました。地図上でざっと目安時間を確認するにとどめ、まったく予習をやらなかった。そんなもんやるに値せん、とまあ不遜な態度でして。これがのちのち効いてきます。

実はわたし、鋸岳をやっつけるにあたってずっと温めていた信長ばりの野望があるのですよ。それはずばり、

鋸岳~甲斐駒稜線を1日でやっつける!

であります。戸台登山口から入って角兵衛沢で鋸岳に登頂、それから甲斐駒までしんどい稜線をやっつけ、仙水峠経由で北沢峠に下りる。目安時間は16時間30分ほどで、常識的な観点からすれば明らかにオーバーワークでしょう。

 

このルートのもっとも厄介な点は時間制限、すなわちバスの最終便に間に合わせる必要があること。バスは16:00で営業終了するため、これに間に合わないとなると3~4時間にもおよぶであろう車道歩きが待っております。前回の上高地でずるをしたタクシーも、戸台~北沢峠にはなぜか未通。なんとしても逃すわけにはいきません。

とりあえずコースとしては以下の通り。

戸台川登山口~中間の堰堤~角兵衛沢登山口~岩屋小屋~鋸岳のコル~鋸岳~鹿の窓~急峻な沢(おそらく熊の穴沢左俣)~右俣分岐~熊の穴沢登山口~戸台川登山口(車回収)

あれれ? 甲斐駒までの稜線を歩くんじゃなかったの。それに急峻な沢ってのはなんなのよ。わかりますおっしゃる通り。ほんとなんでこんなことになったのか……。

①超早出!

今回は意気込みがちがいます。午前1時すぎには出発し、一般道を飛ばし放題に飛ばし、小牧東ICから中央道へイン。さらに駒ヶ根ICで降りて一路、戸台目指して50分。現地には4時すぎに着きました。はい、2時間50分かかってます。やはり南アルプスは遠いなあ。ちゃっちゃと準備し、4:15出発。このときはまだ甲斐駒稜線をやるつもりでしたので、12時間でクリアせなならん、急げ急げと気ばかり焦ってました。

夏も過ぎ去り、午前4時台は真っ暗。なにやらおっかない道標が。やたらに上級者以外はくるな、セルフレスキューできるやつじゃなきゃいかん、みたいな脅し文句が書き連ねてあります。わたしは上級者ですのでこんなもんが抑止力になろうはずもなく、そのまま続行。

よっしゃ、いきまっせ! ちなみに気温5度。さむ。

と意気込んだものの、広大な沢を初見で、しかもナイトハイクするのは非常に難しい。あとでわかったのですが、中間点の堰堤までは左岸に歩きやすい登山道がででんと鎮座していたのでありました。予備知識ゼロのわたしは方角だけ確認して、ひたすら東へ突き進みます。

 

そうはいっても勘だけではどうにもならず、右に左にうろうろしながら歩いていると、藪に突入して立ち往生する仕儀と相成りました。こりゃ本道じゃないなと思ってふと左を照らすと、立派な道があったのでした。やっぱり沢は暗いうちに歩くべきじゃないですね。1年ほど前、鈴鹿の治田峠からの下りで死ぬ思いをしたのも広大な沢でした。興味のあるかたは(いないとは思いますが)、藤原岳~土倉岳 死の彷徨 地獄変を参照。

やっとあたりが明るくなってきました。左岸をずっと登山道が通っていることがわかったのは帰り道でのこと。このときはそうとは知らず、ガレている沢の岸辺をふらふら苦戦しながら歩いてました。やはり予習は大切です。

中間点の堰堤には5:10ごろ到着。およそ1時間。暗闇のなかさまよっていたせいか、コースタイムとほとんど同じという体たらく。先が思いやられます。

気を取り直して進むも、沢があまりにも広大すぎてどこを歩けばいいのやらさっぱりわからん。方角さえ合ってれば大丈夫だとは思いますが、もっと歩きやすい道はないものか。ガレまくってて非常にうっとうしい。

 

そして写真のような堰堤にぶつかるも、どこから登ればいいのやら依然不明であります。幸い高さも大したことなかったので、とっかかりを掴んで無理やりよじ登りました。帰り道にわかったのですが(そればっかだな)、力任せに登攀せずとも右岸にちゃんと道はついてます。ちなみに登山道はこのあたりで右岸につけ替わります。むろんそうとは知らず相変わらずふらふらしてましたが。

広大な沢をひたすら東に歩いていると、沢の分岐に出くわしました。分岐点には道標こそないものの、このようにマークやケルンがこれ見よがしに設置されてます。見逃さないようにしましょう。

こんな感じで絶対こっちにこいよ! とばかりにマークが。ありがたやありがたや。この分岐から先は急にマークやペナントが激増し、途端に道は明瞭になります。ますますありがたい。川幅も狭くなり、ただっぴろい沢に圧倒されて右往左往することもなかろうかと思います。

 

それはいいのですが、目指す角兵衛沢登山口が一向に見えてこない。時計を確認しますとすでに6:20すぎ。出発から2時間以上経ってます。地図上の目安では2時間半となってますし、暗いうちにちょっとうろうろしはしましたがそろそろ着いてもいいころあいのはずです。

 

首を傾げながらも驀進してますと、「6合め通行止め」の道標が見えてくるじゃありませんか! 地図によればその道標は、角兵衛沢と熊の穴沢の、しかもけっこう進んだあたりにあることになってる。そんなばかな。急いでたとはいえつねに周りに気を配って水も漏らさぬ警戒体勢だったはずなのに……。

強化人間331のレーダーは世界一ィィィィィ! のはずだがなあ。などとジョジョネタを炸裂させたのもつかの間、冷厳な事実に直面しました。思いっきり道標、出てんじゃん! これを見落としたとでもいうのですか? もしそうなら誰のレーダーが世界一なんですかね。ほとほと自分に愛想が尽きてきます。そしてさらにもう少し戻ると、

弁解させてください。ちがうちがう、ほんとちがう! などと武士沢レシーブネタを炸裂させつつご説明しましょう。当ルートは沢の右手に樹林帯があり、登山道はそこを通ってました。一応その通りにトレースはしていたものの、途中で面倒になってペナントの巻いてないエリアを適当にざくざくっと歩いた区間があった。

 

あとは想像がつくでしょう、マーフィーの法則が発動したのです。その適当に歩いた区間に道標があったというわけ。ええいくそ、こんなしょうもないミスで30分近くロスしました。道標の通りに対岸へ渡ると、何張りかのテントと堂々たるケルンがあり、ほっと一息。どうやらここが角兵衛沢登山口のようです。

 

それにしてもここで幕営するのかあ。勉強になりました。鋸岳日帰りがしんどいというかたは(果たしてしんどくない人がいるのでしょうか)、前日に戸台川だけ歩いて翌日に備えるのもよいでしょう。わたしも次チャレンジするときはそうしよう。次チャレンジするのかどうかは大いに疑問ですが。

それからは迷うようなか所はありません。樹林帯のなかをひたすら登っていきます。踏み跡も明瞭、随時ペナントも巻いてあるので、登山道の錯綜する里山でならした猛者なら息を吸うように道を追っていけるでしょう。破線ルートとは思えぬ充実ぶり。ひたすら登っておりますと、

視界が開けました。こ、このガレた沢はいったい……。いつの間にか中間地点である岩小屋とかいうしろものはすぎてたようです。このなかを歩くのかよ。前回の西穂山行で天狗沢というものすごいガレ沢を歩かされたばっかりなのに、また同じようなのに苦しめられるとはよくよく徳が足りないのでしょうなあ。

まあしかしこれが長い。バリルート扱いなのでマークも描かれておらず、自分で歩きやすそうな道を見つけねばならぬのもしんどい。一応踏み跡っぽいものはありますので、注意深くそれをトレースしていきます。後続の登山者がいたので落石にはかなり気を遣いました。しかもそいつら、ねちっこくつかず離れずのペースを維持してやがる。どうせなら若い娘にストーキングしてほしいものですなあ。

これ本当の話、宇宙空間まで続いてるんじゃないの。いけどもいけどもガレた沢がえんえんと続きます。傾斜もきつく、足場は最悪、体力と精神力の両方がごりごり削られていきます。道自体は右端につけてあり、そこだけは岩も少なかった。でもひどいザレ場。きつ。

樹木の生え具合から傾斜を想像してみてください。これはあんまりですよ、いくらなんでも! 落石は不可避です。ちっちゃいのを数メートル落とすくらいはもう、仕様でしょう。このコースで一個も落とさずにクリアできたら、そいつはもう人にあらずといっても過言ではあるまい。とはいえ後続の登山者がさっきからつかず離れず肉薄してますので、慎重に。

 

すさまじい傾斜をクリアしつつ、たまにルートをロストして後続の登山者と相談しながら進みます。樹林帯まではきっちりペナントがあったのに、ガレた沢になってからはマークのたぐい、いっさいなし。マークがしっかり描かれているぶん、穂高の天狗沢のほうが難易度は易しいでしょう。

そして見てください、これはいよいよコル直下のガレですが……なあ角兵衛沢さんよ、これはひどすぎやしないかね? こんなんどこに道あんねんホンマ。ほんとばかじゃねえのマジで。わかりづらいですが写真中央の上あたりに青っぽい色が映ってます。これは肉薄してきた登山者に抜かされたんですね。

 

そのおかげでここのルートファインティングを連中にやらせることができ、わたしは何食わぬ顔で後をつけ、難所をクリア。利用できるもんはことごとく利用する。まさに囚人のジレンマ、ゲーム理論の王道でしょう。

 

ところでみなさん、囚人のジレンマというのをご存じでしょうか。2人の囚人が司法取引に応じるという例のアレのことですが。概要はこうです。それぞれが別室で取引を持ちかけられており、次の選択肢を与えられます。すなわち、①自白、②黙秘、③告げ口。これらが相手の出かたと組み合わされて点数化されます。

囚人のジレンマはスルーしてくださってけっこう。どのみちおもしろい話に昇華できるか自信ないので(予防線を張るな予防線を!)。永遠に続くかと思われた角兵衛沢、ついに幕引きであります。出だしは好調だったので2時間と少しで登れちゃうのでは、などという甘い見通しは完膚なきまでに打ち砕かれ、きっちり3時間かかってしまいました。9:40、やっと鋸岳のコルです。これほどやり遂げた感のある山行は久しぶりですね。

 

ちなみに地図上の目安は3時間50分。そんなにちんたら歩いたつもりはないので、かなり厳しめに設定されてるようです。もし登られる予定がおありなら、ここに限っては目安時間をそのまま採用したほうがよいかもしれません。誰かさんみたいに2時間でいけるだなんて大味な計画を立てると日没に間に合わず、立ち往生しかねません。

 

さて上述の選択肢が相手の出かたと組み合わされるというのは、たとえば自分が黙秘して相手が告げ口すると(ゲーム理論的には)間抜けとみなされて厳罰、10年食らい込み、相手は無罪放免。両方が告げ口すると相互不信として双方5年食らい込む。両方が黙秘すると信頼の証として3年ですむ。などなど、4パターンの結果が生まれるしくみ。

 

種明かしをしますと、囚人のジレンマにおいて最適な行動は、相手を裏切る、つまり告げ口するのがよい。ところがこれは1回限りのケースでの話でして、この状況が何度も続く場合は強欲な裏切り者はすぐ破綻する証拠があります。

 

そりゃもちろん何度も囚人になって何度も司法取引を持ちかけられるシチュエーションというのはありえないけれども、なにも囚人同士の読み合いに限定する必要はありません。日常の些細なことでも類似した状況はいくらでも考えられます。

このコルは実にこじんまりとしており、数人でもう満杯の猫の額です。鋸岳のテント泊を考えながら登ってたのですが、ここでもテントの展開は不可能。そうなると結局日帰りが主流になる。でもそれは上述の通り、しんどい角兵衛沢(もしくは熊の穴沢)のピストンを意味する。鋸岳が手強いとされるゆえんでありましょう。写真はコルからピークを眺めて。あともう少し。でもその前に昼飯にしましょう。お腹ぺこぺこです。

 

たとえば割り勘の際に多く出してくれる人がいるでしょ(まだ続くのかよ)。本人は端数とか面倒くさいなどと言いながらでかいのをぼん、と出しちゃう。おまけに釣りも小銭が増えるからいらんなんて粋なことを言う。

 

こういう太っ腹なやつがいるかたわら、死んでも人数で割り算した額以上は出さないという筋金入りの吝嗇家もいますよね(ときには太っ腹の払った額でカバーされてるからと言って、割り当て以下の額しか出さないことも。神経を疑いますよ、こういう輩はね)。この状況は囚人のジレンマに似ていなくもない。

 

むろん短期的には後者がまちがいなく得をしてます。いわば相手の善意につけ込んでるのですね。でも毎回こんなことばっかりやっていては評判を落とすのは目に見えてる。いっぽう前者はそのときどきでは損をしてますが、長い目で見れはおおらかで気前のよい慈善家として、みんなから一目置かれるはずです。

 

ちょっと話が逸れますが、人間はそもそも未来のことを考えるのが不得手でして、現在価値を重視する傾向がありますね。いまもらえる100ドルと10年後もらえる150ドルだったら、まずまちがいなく前者を選ぶ人がほとんどでしょう。経済学ではこうした論拠から、将来の資産価値を割り引いて考えるのが主流であります。そういう意味では意図的にせよそうでないにせよ、慈善家タイプは非常に打算的かつ大局的と言えましょう。

 

ニートとかキモオタとかでない限り、よきにつけ悪しきにつけ誰でも所属しているコミュニティがありますから、そのなかの評価というのは案外ばかにできません。それは高いほうがいいに決まってます。毎回少しの出費でそれを買えるなら、安いもんです。上述のケースでは太っ腹は結果的に得をしていることになり(冷静に将来の資産価値を評価している)、これは囚人のジレンマでもまさにそうなってるのですね。

もうすぐ管巻きも終わります、ご辛抱を。コルから後ろを振り返って1枚。あの山はなんじゃろなあ。疲れすぎて調べる気にもなりません。担担麺とクリームパンで腹ごなしを終え、10:20、鋸岳ピークを目指して再稼働。ここで見覚えのあるじいさんと邂逅しました。向こうはそんなそぶりすら見せませんでしたが

 

むかし中央アルプスの南駒ヶ岳で会ったような? 恵那山でも会ってるし、さらに言えば塩見岳でも会ってる(ホンマの話、赤い糸で結ばれてへんやろな)。東条英機のような眼鏡をかけたナイスなじいさんでした。それにしてもあの歳で鋸岳を登頂するとは……。彼はどうも一部では有名なようでして、ヤマレコにも彼と思しき人物の描写があったのを読んだことがあります。いったい何者なんでしょう。

 

囚人のジレンマ理論を考えた人(名前忘れました、ごめん)がプロアマ問わずプログラムを持ち寄らせて戦わせる大会を開いたのですが、買ったのは「しっぺ返し」というプログラムでした。アルゴリズムはいたって簡単。「やられたことをやり返せ」

 

裏切られれば裏切り(告げ口)、協力してくれれば協力し(黙秘)、というように、直前の相手の行動をそのまま模倣するという流れです。こいつが最終的に最高得点をマークしたのですね。この実験結果から言えることは、われわれ人間も親切にしてくれる相手には親切にすべきだという、当たり前の事実だと思うのです。たまたまそれはゲーム理論的にも最善の解答だったというだけでね。

 

相手の好意を利用するのはうまみがあるでしょうが、最終的にはそういうこすい野郎は信頼をなくす。目先のしょぼい利益にとらわれず、寛大な心で「しっぺ返し」戦略を実践したいものです(なんとかまとめられました、ああ気遣った。なら脱線するなよ)。

鋸岳への登り。これがまた急傾斜なんですけど、角兵衛沢のあとですのでどうってことはありません。ひょいひょいと詰めていき、

じゃーん! ついに悲願達成、10:25ごろ鋸岳第一高点(2,685メートル)に登頂であります。これほどやり切ったと感じたのは本当に久しぶり。いやあすばらしい、実に充実した気分です。例によって展望は360°の大パノラマでして、

じゃーん! 南アルプスの女王こと仙丈ヶ岳。この風格とたおやかな山容。まさに女王と呼ぶにふさわしい一品ですね。ちなみに山腹を横断している細い線は南アルプス林道です。よくもまああんなところに道路を通したもんです。その下の沢は朝に歩いてきた戸台川。ここが南アルプス北部のどん詰まり、最下部というわけ。よく這い上がってきました。

そして標高ナンバーツーを誇る北岳もどどんと。かっこええなあ。一度登ったことはあるものの、そのときは雨のなか一面真っ白のガスでした。いつかリベンジしたいものです。

遠景にして1枚。右端の目立つピークが北岳、そして正面にそびえる急峻な稜線がこれから辿る難関コースになります。さてどのような冒険が待ち受けているのか!?


鋸岳山頂のようす。こじんまりとした猫の額といった趣で、まさに見た目通り、天を衝く男性的なピークです。山頂にはおっさんおばさんが思い思いに絶景を堪能しておられました。彼らは見たところ40~50代くらいのようですが、いったいどこから登ってきたんでしょう。

 

鋸岳への最短ルートはわたしの遡行した角兵衛沢か、もしくはおとなりの熊の穴沢の遡行のいずれか。熊のほうも角と似たようなコースタイムですので、行程自体もおっつかっつだと思われます。あんなのをわたしの一回りも上の世代がこなしたってのか? 信じらないタフさです。

じゃーん! (しつこいな)そして真東には甲斐駒ヶ岳の堂々たる山容が他を圧倒する存在感を放ってました。なんとまあ美しい山岳でしょうか。今日はあそこまでいくのかあ。よし、気を引き締めるぜ! ※諸事情によりいきません

ふんどしを締め直し、鋸岳以東の稜線を睥睨します。見るからに痩せた尾根ですね。登行意欲をそそるというものです。10:30出発。出だしは好調、道は細いけれどもどうということはありません。鼻歌交じりに歩いておりますと、

あかん……。

いきなりこんなのが目に飛び込んできました。這い上がった登山者たちが口々に「ここ怖いわ」「うん、ここ怖かった」などとしゃべってるのが聞こえてきます。途端に空威張りし始めるわたし(妙に負けず嫌いななんです、ご容赦を)。こんなもん西穂稜線に比べりゃ楽勝、楽勝、らく……あれ? ごっつおっかないやんけ……。正面の登りもさることながら、

この下り。まずはこっちを下ってから2枚前の登りをこなすわけです。のっけから絶壁やんけ。しかも手がかり足がかりもなにやら心もとない。このあたりの岩は風化していて非常にもろく、得意の三点確保も慎重にポジションを見極める必要があります。

 

いつもはお助け鎖なんか使うやつは素人や、わいは玄人、そないなもんはいりまへん! と京都人のごとき驕りを発揮するのですが(京都在住の人が見てませんように)、このときばかりはありがたく使わせてもらいました。だっておっかないもの。

 

のっけからこんなありさまで、果たして無事に五体満足のまま帰還できるんでしょうか。先が思いやられるなか、いい加減くどくなってきたので後編へバトンタッチ。強化人間331の受難劇をご期待ください……。

 

つづく