リバプールで主力になった(これは個人的には大谷翔平なみにすごいことだと思います)遠藤航の少年時代について、父親が語っている記事がありました。
読んでみて「本当にそうだよな」と同感しかありませんでした。
というのは、私自身、弱小チームで3代延べ30人弱を卒業させました。その中で2人がプロ一歩手前の関東大学リーグキャプテンと副キャプテンになったわけですが、2人とも、本当に遠藤航の少年時代にそっくりなのです。
特に関東大学リーグ副キャプテンになったS君は、文字通り市内最下位の代のキャプテンでした。5年時には市内最強チームに0対17で負けています。私のコーチ人生でのワーストレコードです(笑)。
そんなところから、関東大学リーグ副キャプテン(しかも1年時からスタメン)にまでなったのは、本人に明確な強みがあったのだと思います。
私の練習がよかったと言いたいところですが(笑)どちらかと言えば私はS君の邪魔をしないようにした、というのが本当のところです。
それくらいS君の人間性が良かったのです。
「素直」さは伸びる条件の一つだと思います。
その0対17で負けた試合前、どう考えても勝てないのはわかっていました。
なので私は「何点取られてもいい、とにかく1点取ろう」とミーティングで言いました。
そうは言っても、2分に1点取られるような状況では誰でも下を向きたくなります。コーチである私でさえそうだったのでした。
ですがS君は、10点目を取られたとき、ダッシュで自ゴールのボールを取ってセンターサークルに走りました。
「絶対に1点取ろうぜ!」と叫びながら。
私は感動しました。コーチは私ですが、私がS君に教えられた気になりました。
そして自分の言ったことを愚直にやってくれているS君の姿を見て、下を向いている場合ではないと思ったのでした。
そのようなことを遠藤航のお父さんは語っています。
「『なぜプロになれたのか』とよく聞かれます。最大の要因は謙虚さだと思います。この部分はズバ抜けていました。私は航が卒団してからも指導を続け、計15年間、育成の現場にいましたが、聞く力を持っている子は少ないです。うまい子ほど聞く耳を持っておらず、天狗になり、何か言われるとすぐふてくされてしまいます。
一方で、航は指導者から耳の痛いことを言われても、『自分の成長のために言ってくれているんだ』と真剣にアドバイスを聞いて実践していました。吸収しようとする姿勢が明らかにほかの子とは違っていました。
私も少年サッカーを指導していて、本当に遠藤航のお父さんが言うことがわかります。
人の話を聞くという、一見当たり前に思えることを、ほとんどの子ができないと思います。
聞いたとしても「俺には俺のやり方があるんだ」的な感じで、露骨に不愉快な態度を示したりします。
もちろん私の伝え方の問題もあるのでしょう。ですがそれだけではないと思っています。
S君の代は、弱かったですが賢い子が多かったので、私がこのブログで書いているようなマニアックな技術をやらせました。
するとS君をはじめとして、みんな面白がってやるのです。
そして卒業時6人しかいなかったS君の代は、2人が関東リーグ所属のクラブチームに合格しました。
弱小チームから関東リーグ所属チームに2人受かるのはけっこう奇跡的でしょう。
後の子は部活でしたが、そのうち1人は都大会出場チームで副キャプテン、もう一人は都大会出場チームのエースになりました。残り2人も高校でレギュラーを取っています。
私はこのS君の代を成功体験として、サッカーブログを書き始めたということもあります。
実際に結果を残せたと思うからです。
ただそれも、彼らが全員人の話を聞く素養を持っていたからだと今にして思います。
現にS君の代以外、私がサッカーについて思うようなことすべては、やっていないのです。聞く耳を持っていない子にやっても、むしろ逆効果だと思うからです。これは良し悪しではありません。それはそれで、子どもたちがサッカーを楽しんでいればいいのだと思います。
なので私としては、そういう代はそういう代の時代ということで、変わらない熱量でやっているつもりです。
それはそれで、めちゃくちゃおもしろいのです。「誰も俺の言うことを聞いてねえな」というのも、ある意味おもしろいのです(笑)。
たまたまS君の代は6人とも人の話を聞ける子でした。
やはりというか学業も優秀で、そのうち2人が早慶、1人がMarchの大学に入学しました。
実は技術や身体能力といった問題よりも、人の話を聞けるかどうかというのは、今後の伸びにかなりかかわってくるのではないでしょうか。
賢さというのは、やはりサッカーの伸びに影響すると思います。
遠藤航のお父さんは次のように語っています。
際立っていたのは記憶力です。試合後、私が『あのプレーはどういう意図だったの』と質問すると、航は味方と敵の立ち位置、敵の狙いなどをすべて覚えていて、細かく説明するので驚きました。サッカーIQは高かったと思います」
そして最後は人間性の勝負になると私は思っています。
S君を指導していて、彼がチームメイトに文句を言うのを1度も聞いたことがありません。
S君以外も誰もチームメイトに文句を言いません。
みんな矢印が自分なのでした。人に文句を言うのではなくて、自分のプレーに集中しているのでした。
自分に矢印を向けられる選手は、相手にやさしくなれます。
究極に努力しても、完璧にできないことをわかっているからです。
世界のトップオブトップに行けば行くほど、そうなのだと思います。
リバプールの選手たちが、お互いをリスペクトし合っているのは、映像からも伝わってきます。
世界のトップは人間性がいいというより、その人間性が彼らを世界のトップに引き上げたのだと私は思いたいです。
遠藤航のお父さんはこう語っています。
部活にはサッカー歴の浅い子もいたが、ミスに対して不満を言ったり、声を荒らげたりすることもなかったという。
「うまくいかない原因を仲間やコーチのせいにすることなく、まず自分と向き合う。そして、足りないものを見つけて修正していく。子供のころからずっとこれを続けてきた。その積み重ねがプロ、そしてリバプール移籍につながったのだと思います」
ブログでたびたび書かせていただいている「弱小チームの良さ」は、まさに遠藤航の中学時代のような環境だと推測しているのです。
リバプールの主力になる選手が中学時代、素人に毛が生えたくらいのレベルの選手と同じチームでプレーしているのです。
そしてそこで味方に文句を言うことはなかったといいます。
ということは、チーム内で圧倒的にレベルが高かったと思われる遠藤航は、縦横無尽にピッチを駆け回っていたでしょう。
そして本人は無意識かもしれませんが、そういう態度がキャプテンシーにつながったのだと思うのです。
リバプールでの遠藤のプレーは、気が利きすぎています。
あれができるのは、遠藤が小学中学と普通のチームでプレーしたからだと私は考えています。
当時は全部自分でカバーしていたのだと推測します。
マリノスジュニアユースに受験してすべて落ちたと遠藤は語っていますが、私はむしろ落ちたから今の遠藤があるとさえ思っています。
だからブログで再三「弱小チームで縦横無尽に走り回るのも悪くない」と書かせていただいています。
もちろん質が高いチームでやるのもいいでしょう。
しかし、もしその子に人間性や素直さがあるならば、私はむしろ普通の地元チームでやった方が伸びるのではないかなと勝手に思っています。
最後に、遠藤が一気に飛躍した要因として「視野の確保」があると思います。
日本サッカー協会が推奨してきたことを体現しているのが遠藤だという気もしています。
そのことで以前記事を書かせていただきました。
遠藤がリバプールの主力ならば、私の見立てでは、チャンピョンズリーグ優勝を狙えるチームでレギュラーを獲れる選手は、日本人で複数いると思います。
久保、富安、守田、伊東は間違いないでしょう。
そう思うとすごい時代になったものです。
そのなかで、日本が世界のトップに遠かった時代に「視野の確保」などをやりはじめた加藤久さんはすごかったと思います。
偉大な先人には感謝しかないのです。