私の記憶では、1990年代末、加藤久さんが日本サッカー育成改革を始めたと思います。
そして当時は「ボディシェイプ」と言われたものが、秀逸なアイデアだったと思います。
今でいえば「視野の確保」です。
簡単にいえば「トラップはスペースの広い方に止めようね」ということです。
たとえば右サイドの選手から、そのフォローに入ったボランチにパスが出ます。
ボランチはどちらの足で止めたら次のプレーが広がるでしょうか。
右足で止めてしまうと身体の向きが右サイドになってしまいます。
ですが左足で止めれば、左方向(広い方)に展開できる身体の向きを作れます。
私は簡単な言葉で「左からボールが来たら右足で、右からボールが来たら左足でボールを止めよう」と言っています。
もちろんケースバイケースですが、基本的にそのように止めれば間違いがないのだと思います。
そして遠藤航です。
リバプール移籍当初は苦しんだようです。
ただ、マクアリスターの怪我もありボランチのレギュラーを掴むと、目覚ましい活躍を見せました。
12月にはリバプール内での月間MVPにまで選ばれました。
遠藤といえば激しい守備が持ち味と言われています。
確かにそうだと思います。
ただ、遠藤のプレー集を見ると、調子がいいときはほとんどボールを奪われないし、いいパスを出しているのがわかります。
遠藤は、お世辞にもボールタッチ感覚がいいとは言えないと私は思っています。
それでも素晴らしい組み立てを見せます。
私はその理由を「視野の確保」だと思っています。
↑動画で、遠藤のトラップを見ていただきたいと思います。
忠実に「右からボールが来たら左足で、左からボールが来たら右足でトラップ」をやっています。
そうではないトラップをしたのは、私が見る限りでは2回しかありませんでした。
そうやって、トラップで広く視野を保てているので、リバプールでも通用するのだと思います。
リバプールの超一流の選手たち、たとえば左ウイングのルイスディアスや、インサイドハーフのソボスライなどは、以外に大雑把なトラップをしていると私は思っています。
右利きの彼らは、右から来たボールでも無造作に右足で止めます。
特にルイスディアスに関しては、あれだけの身体能力やボールテクニックがあるのにイマイチ突き抜けられないのは、私はトラップの雑さがあると思っています。
右足のインサイドで止めてその勢いで右アウトサイドで突破しようとするのがルイスディアスによくあるプレーですが、私には「相手を見ていないプレー」に見えます。
左ウイングのルイスディアスが、右から来たボールを左足で止めて、相手と正対して相手を見て抜きにいければ、ポテンシャル的にはプレミアどころか世界最高のウイングになる素質があると思うのですが、どうでしょうか。
「視野の確保」は左右だけではなくて、縦方向でもあります。
ディフェンダーからのボールを「遠い足」で止めれれば、一発で前を向けます。
たとえば右サイドよりの真ん中にポジションを取っていて、センターバックからパスが来ます。
そういうときに左を向きながらゴールに向かって「半身」になって、センターバックからのパスを受けると「本人からしたら左からパスを受ける」ことになります。
なので右足で止めると、一発で前を向けます。
これも遠藤は非常にうまいです。
つまり私は、視野の確保を徹底的に意識してトラップしているだけで、遠藤はリバプールで通用するパス回しをできていると思っています。
遠藤のそういった技術を、マスターレベルまで高めたのが、私はレアル・マドリーのトニ・クロースだと思います。
クロースは「視野の確保」の次の段階である「正対」をできます。
一瞬敵と身体を向かい合うことによって、左右どちらにも行ける身体の向きを作れるから、トラップで抜けるのだと思います。