利き足か両足かのおもしろい修士論文。 | 徒然に。

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 何気なくネットを見ていたら↓の修士論文を発見しました

https://www.waseda.jp/tokorozawa/kg/doc/50_ronbun/2021/5020A001.pdf 

 

 どんなに自分がいいと思っていても、たとえば地球上で最もサッカーがうまいメッシのプレーが自分の考え方と違うならば、自分が間違っていると考えます。

 メッシでなくとも、世界の一流選手のプレーが私の考えと違うのならば、そちらが正しいと考えます。

 そういった意味でこの修士論文は、統計処理もなされていて、興味深いと思います。

 抜粋してみます。

 

Peters(1988)は「実際に選手が使用している左右の脚は同じ割合ではない」と述べ,高崎 (2018)は「利き脚が武器にならないようでは世界に通用しない」と述べている.Carey et al.(2001)によって,W 杯出場選手の使用脚が調査された.その結果,エリート選手におい て両利きは存在せず,高頻度で利き脚を使用していたが,非利き脚の精度は利き脚と同等であることが明らかになった.

 

残差分析の結果,オフェンスプレー全体に比べ,ファーストタッチ(24.8%),シュート(24.7%)において非利き脚を使用した割合は有意に高い一方,ドリブル(9.6%),パス(14.5%),セットプ レー(3.4%)においては非利き脚を使用した割合は有意に低いということが示された.

 

残差分析の結果,ファーストタッチ全体に比べて,パスに対して遠い方の脚でのファーストタッチにおいて非利き脚を使用した割合は有意に高く,パスに対して近い方の脚でのファーストタッチ,正面からのパスに対するファーストタッチ, 後方からのパスに対するファーストタッチにおいて非利き脚を使用した割合は有意に低いということが示された.

味方からのパスに対して遠い方の脚でのファーストタッチをすることで,近い方の脚でファーストタッチをした場合に比べ,パスが来た方向とは逆の方向に視野を広げることが 容易になる.シマル(2012)は「ボールを受けた競技者が,ピッチ全体を見渡せる姿勢を取ることが効果的な攻撃をすることに繋がる」と示している.実際に,ファーストタッチ全体の半分以上は,パスに対して遠い方の脚で行われていた.つまり,ファーストタッチで視野を広げるためには,パスに対して遠い方の脚でのファーストタッチが重要になると考えられる.しかし,パスに対して遠い方の脚が左右どちらの脚であるかについては,パ スが来る方向によって変わる.このことから,パスに対して遠い方の脚でのファーストタッチにおいて,非利き脚の使用頻度が高くなったと考えられる.

 

プレー種類ごとに使用した利き脚と非利き脚の割合の比較についてカイ二乗検定を行った結果,ドリブルにおいて非利き脚を使用した割合は9.6%であり,オフェンスプレー全体 (15.8%)と比べて有意に低かった.また,利き脚と非利き脚のドリブルにおけるプレー結果を比較した結果,有意な差がみられた(χ2 (1)=22.182, p<0.001).

ドリブルにおいては,ボールを守備側競技者に取られないようにするためには守備側競技者から遠い脚でボールを扱うことが重要であり,そのためには非利き脚の技術も必要であるとされている(JFA, 2016).しかし,実際にはドリブルにおける非利き脚の使用頻度は低かった.それだけでなく,ドリブルにおいては非利き脚を使用した際に失敗しやすいという結果が得られた.世界トップレベルの選手においても,利き脚に比べて非利き脚のドリブルの精度は低く,同時に使用頻度も低くなった.

 

プレー種類ごとに使用した利き脚と非利き脚の割合を比較した結果,パスにおいて非利き脚を使用した割合は14.5%であり,オフェンスプレー全体(15.8%)と比べて有意に低かった.

 

プレー種類ごとに使用した利き脚と非利き脚の割合を比較した結果,シュートにおいて非利き脚を使用した割合は 24.7%であり,オフェンスプレー全体(15.8%)と比べて有意に高かった.また,利き脚と非利き脚のシュートにおける成功と失敗の割合の比較についてカイ二乗検定を行った結果,有意な差はみられなかった(χ2 (1)=1.278, p=0.258).シュートにおいては非利き脚の使用頻度が高いという仮説と同様の結果が得られた.成功率に関しても,利き脚と非利き脚で差がみられなかった.先行研究においても,「試合中,全てのシュートチャンスを逃さないためには,利き脚だけでなく,両足で蹴れること(富岡, 2011)」と述べられている.これのことから,ゴール前でのシュートチャンスを逃さないためには,利き脚,非利き脚に関わらず,シュートを打つ必要があり,同時に非利き脚でのシュート精度も必要であるということがいえる.

 私は↓記事で「基本は利き足でいいけど両足使えるようにしたほうがいい。具体的にはドリブルは利き足、キックやトラップは両足」と書いています。

 

 

 私の主張は、この論文の主張と大方一致したと思います。

 キックの中でもパスは、トッププレイヤーは利き足が多かったので私の主張はその点では間違っていましたが、トラップやドリブル、シュートに関しては合っていたと思います。

 

 ただ注意しなければいけないのは、利き足のパスが多いドリブルは少ないといったことの比較対象が「オフェンス全体のプレー」ということです。

 そのオフェンス全体のプレーの15.8%が非利き足ということで、総体的に利き足を使う頻度が高いということは確かだと思います。

 その中で、トラップとシュートに関しては非利き足が統計的に有為に多いということでした。

 論文にも書かれているように、トラップに関しては「視野の確保」に関連すると思います。

 そういった意味で↓岡田メソッドの最初の練習をやる際、左回りと右回り、どちらもやる必要があるのではないかと思います。

 

 

 シュートに関しては、クリスチャーノ・ロナウドのユベントス時代のときの部位別得点があります。

 

 

 左右の足ゴールの比率に絞って考えますと、右足78%左足22%です。

 私は「利き足論」で非利き足のシュートは20%くらいだと体感的な数字を書きましたが、概ね合っていたようです。

 ですがクリスチャーノ・ロナウドの「PKで133ゴール」を除外すると意外な数字が浮かび上がります。

 なぜPKを除外するかというと、必ず得意な足(右足)で蹴る状況だからです。

 PKを除外したロナウドの利き足ゴールは72%、非利き足ゴールは28%。

 左右足に絞って考えると、実に3割もの得点を非利き足で決めていることになります。

 この数字は無視できるものではないでしょう。

 

 主観を排し、見えてくるものは何でしょうか。

 ドリブル練習は利き足重視でやること、ゲーム中に利き足ばかり使っていても修正しないことでしょうか。

 逆に「視野の確保のトラップ」や「非利き足のキック」は、両足を使えるように徹底的に練習することでしょうか。

 ただ、サッカー経験のある人間から考えると(経験はあまり持ち出したくありませんが、あくまで体感の話です)このような区分けは、しっくりくるのです。

 ただ技術とは難しいもので、両足が均等に伸びるものでもないと思います。

 利き足がうまくなると、逆足もある程度自然にうまくなるか、もしくは少しの努力でうまくなるというのが私自身や選手を指導した中での経験則です。

 リフティングがわかりやすいのですが、利き足でリフティング100回できれば、非利き足もすぐにできるようになります。

 最初から左右リフティングは(できる人もいるのかもしれませんが)ハードルが高いと思います。

 メッシも子どもの頃は左足でリフティングしているのです。

 

 

 大人になれば両足でやっています。両足リフティングのほうが楽です。