三鷹天命反転中!! | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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JR三鷹駅からバスで約20分。

車通りの多い幹線道路沿いに、

思わず二度見する建物が建っています。

 

 

 

その名は、三鷹天命反転住宅。

(正式名は、三鷹天命反転住宅 In Memory of Helen Keller)。

美術家の荒川修作と詩人のマドリン・ギンズによって設計された集合住宅です。

今もなお現役で、実際に住んでいらっしゃる方もいます。

 

 

 

さて、そんな三鷹天命反転住宅は、

2005年に竣工をして、今年でちょうど20年目を迎えました。

それを記念して現在、三鷹市美術ギャラリーでは、

“三鷹天命反転中!!──荒川修作+マドリン・ギンズの死なないためのエクササイズが開催中!!

三鷹天命反転住宅が完成するにいたるまでの、

荒川+ギンズの活動の軌跡を振り返る展覧会です。

 

(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)

 

 

まず本展の冒頭で紹介されていたのが、荒川の貴重な初期の作品群。

どことなく「棺桶=死」を想起させる作品です。

 

 

 

芸術家としてデビューした当初の荒川は、

ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズの設立にも参加していましたが、

他のメンバーと作風が異なることもあって、次第にグループ内で浮いた存在に。

美術評論家の瀧口修造の勧めもあって、

当時のダダの本場であるニューヨークへと渡ります。

そこで、言葉の壁を痛感させられたり、

生涯のパートナーとなる詩人のギンズと出逢ったり。

さらには、ダダの巨匠デュシャンと交流する中で、

画面上に図面や図形、記号や言語などが登場する、

いわゆる「図式絵画」を制作するようになります。

 

 

 

そこから発展して生まれたのが、「意味のメカニズム」。

荒川+ギンズの代表的なプロジェクトで、

“意味とは何か?”という問いを追求したものです。

美術というよりも、もはや哲学に近く。

「意味のメカニズム」自体の意味は、

説明を読んでも、よく意味は分かりませんでした(笑)。

とはいえ、そんな「意味のメカニズム」は、

1970年のヴェネツィア・ビエンナーレで発表され、

日本はもとより、絵画でも大きな話題になったそうで。

それにより、荒川の評価が国際的に高まりました。

 

・・・・・と、ここで率直な疑問が。

 

 

 

この芸風(?)から、何がどうなったら、

あのカラフルな住宅を作るようになるのか?

中身がすっかり別人と入れ替わってしまったのでしょうか??

荒川は「意味のメカニズム」プロジェクトを展開する過程で、

西洋の哲学や思想、芸術の分野において長らく軽視されてきた、

身体による知覚の可能性に注目するようになったのだそうです。

誤解を恐れずにいうならば、“もっと身体を動かせよ!”ということ。

そのために、身体を動かさざるを得ない建築、

つまり、負荷のかかる建築を作ろうと考えるようになります。

 

 

 

当時まだバリアフリーという概念こそなかったですが、

そのような建築があえて実際に作られることはもちろん無かったそう。

ようやく実現するのは、1994年のこと。

磯崎新が設計した岡山県の奈義町現代美術館、

その常設作品として、初めて彼らの建築(?)作品が制作されました。

 

 

 

↑実は、当初はこちらの模型のように、

巨大な円筒の中で、法隆寺の五重塔を逆さまにし、

それを取り囲むようにスロープを配置した作品を構想していたそうですが。

あまりにも荒唐無稽すぎると、磯崎新に怒られたそう(笑)。

結局、実現した作品は、当初の案から考えると、大人しいものになっていました。

 

また、翌年には、岐阜県の依頼で、

養老天命反転地というテーマパークを制作。

自分も数年前に実際に行ってみましたが、

とんでもないスケールのとんでもない場所でした。

 

 

 

ただ、荒川が考えていた全体計画によれば・・・・・

 

 

 

養老天命反転地は、ほんの一部に過ぎなかった模様。

あの一帯をもっともっと、とんでもない場所にしようと考えていたようです。

個人的には、「いいぞもっとやれ」と言いたいところですが、

地元の人たちにとっては、アレで済んで本当に良かった気もします。

 

養老天命反転地を作った後も、

荒川の建築欲はとどまることなく、

むしろ、都市計画レベルで考えるように。

しかし、待てど暮らせど、自治体からのオファーはなし。

だったら、「自分で都市を作ってしまおう!」と、

その第一歩として、自費で建設したのが、三鷹天命反転住宅だったのです。

本展のクライマックスでは、三鷹天命反転住宅を徹底的に深掘り。

模型はもちろんのこと、

 

 

 

竣工時の写真や都市設計概要といった貴重な資料も多数紹介されています。

 

 

 

さらには、設計に携わった人や、

実際にお住まいの方々の貴重なインタビューも紹介されていました。

 

 

 

床がボコボコしているので掃除機がかけられない。

タンスが置けないから、衣服は天井に吊るす・・・などなど。

知れば知るほど、住みたくはなりましたが(笑)。

荒川+ギンズや関係者、住人の熱い想いを知って、

建築作品としては、とても愛すべきものになりました。

三鷹天命反転住宅は、間違いなく三鷹が誇る宝。

これからも大切に守り続けて欲しいものです。

星星

 

 

ちなみに。

三鷹天命反転住宅を起点にして、

都市計画を構想していた荒川+ギンズ。

その幻の「大沢・野川プロジェクト」も世界初公開されていました。

 

 

 

三鷹を流れる川の上に、人口地盤を設置して、

三鷹天命反転住宅のような建物をたくさん作ろうとしていたよう。

もしも、この壮大な計画が実現していたら、

三鷹の森ジブリ美術館よりも、三鷹の森ジブリ美術館です(←?)。

 

 

 

 

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