この夏、東京国立博物館では特別展、
“神護寺一空海と真言密教のはじまり”が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
京都駅からバスで約50分。
さらに、そこから歩くこと、約20分。
京都の西北、高雄に位置する紅葉の名所、神護寺。
その選りすぐりの寺宝の数々を紹介する展覧会です。
東寺や醍醐寺、清水寺といった、
京都の中心地にあるお寺と比べてしまうと、
一般的には、その名前にピンと来ないかもしれませんが。
所蔵する寺宝は、質・量ともに京都屈指のレベル!
教科書でお馴染みのあの《伝源頼朝像》(展示は8/12まで)も神護寺に伝わる寺宝。
本展でももちろん出展されています。
また、後期の出展とはなりますが、
院政期仏画の最高傑作と称えられる“赤釈迦”、
国宝《釈迦如来像》も、神護寺が誇る寺宝の一つです。
国宝 釈迦如来像 平安時代・12世紀 京都・神護寺蔵
(展示期間:8月14日~9月8日)
なお、神護寺の前身となる高雄山寺が、
唐から帰国した空海の活動の拠点であったこともあり、
空海ゆかりの寺宝も数多く伝わっています。
そのうちの1つが、国宝の《灌頂暦名》。
国宝 灌頂暦名(部分)空海筆 平安時代・弘仁3年(812) 京都・神護寺蔵
(展示期間:7月17日~8月25日)
こちらは、空海が神護寺において、
「灌頂」という儀式を執り行った際に、
自身で書いた参加者の一覧です。
いうなれば、参加者リストのようなもの。
この時の灌頂が、真言密教最初の灌頂だったこともあり、
参加者リストとはいえ、日本の宗教史上重要な文献とされているそうです。
また、書道の手本としての評価も高く、名蹟の一つとされています。
それから、空海関連でもう一つ見逃せないのが、
高雄山神護寺に伝わったことから「高雄曼荼羅」とも呼ばれる、
国宝の両界曼荼羅(縦6m、横5m)です。
国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅) 平安時代・9世紀 京都・神護寺蔵
(【金剛界】後期展示 【胎蔵界】前期展示)
こちらは、空海が制作に関わった現存唯一の両界曼荼羅で、
先日、約230年ぶりに修理され、奈良国立博物館でお披露目されたばかり。
修理後、東京で公開されるのは今回が初めてとなります。
修理ホヤホヤとはいえ、パッと見、全体的に茶色がかってはいましたが。
じーっと見つめていると、目が慣れて、
徐々に仏様などの像がキラキラと浮かび上がってきました。
曼陀羅は宇宙を表している、と言いますが、
まさに、夜空を眺めている感覚に近いものがありました。
さてさて、そんな国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》が、
東京で目にすることができるというだけでも大変ありがたいですが。
本展の目玉、最大のサプライズともいうべきが、
神護寺の本尊である国宝《薬師如来立像》の寺外初公開。
平安初期彫刻の最高傑作とされる《薬師如来立像》が奇跡の上京を果たしています。
とある仏像研究者さん曰く、
「自分が生きている間に、神護寺の《薬師如来立像》が、
東京の展覧会に出展されるなんて想像すらしていなかった!」とのこと。
国宝 薬師如来立像 平安時代・8~9世紀 京都・神護寺蔵
正直なところ、目に飛び込んできた際の率直な印象は、
“なんかテンション低くね?”“元NHKアナの堀尾正明に似てね?”、
“スピードスケートの選手くらい太ももパンパンじゃね?”でしたが。
寺外での公開がそれほど貴重な機会だと知った上で観ると、
そのどっしりと構えたお姿がありがた~いものに感じられました。
ここ近年、毎年のように、どこかしらの館で、
大規模な“○○寺展”が開催されているため、
なんとなく、本展もそのうちの一つくらいに思っていましたが。
いやいや、そんな単純な展覧会ではありませんでした。
寺社仏閣ファン、仏像ファンならずとも観ておきたい・・・、
いや、美術好きであれば、今年観ておくべき展覧会の1つです。
ちなみに。
本展には《薬師如来立像》以外にも、
神護寺からたくさんの仏像がお越しくださっています。
とりわけ印象に残っているのが、
ズラリと一列に並んだ《十二神将立像》。
仏像本体もさることながら、
ライトアップされたシルエットがカッコよかったです。
まるでLDHのダンサーのようでした。
┃会期:2024年7月17日(水)~9月8日(日)
┃会場:東京国立博物館 平成館
┃https://tsumugu.yomiuri.co.jp/jingoji/