内藤コレクション 写本—いとも優雅なる中世の小宇宙 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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現在、国立西洋美術館で開催されているのは、

“内藤コレクション 写本—いとも優雅なる中世の小宇宙”という展覧会。

 

 

 

2015年度に筑波大学・茨城県立医療大学名誉教授の内藤裕史さんより、

一括で寄贈された写本のコレクション、通称「内藤コレクション」の大多数と、

国内の大学図書館が所蔵する写本も若干数加えた約150点を紹介するものです。

日本史上最大規模の写本展といっても過言ではありません。

 

 

 

ところで、そもそも写本とは一体何でしょうか。

簡単に言えば、人の手によって書き写された本のことです。

 

カマルドリ会士シモーネ彩飾《典礼用詩編集零葉》

イタリア、フィレンツェ 1380年頃  内藤コレクション(長沼基金) 国立西洋美術館蔵

 

 

印刷技術がなかった中世ヨーロッパにおいて、

本は一冊一冊すべて人の手によって書き写されていました。

その作業にも途方もない労力がかかっていますが、

当時のヨーロッパにおいては、紙を作るのも一苦労でした。

写本に主に使われているのは、獣皮紙。

ヒツジなどの動物の皮を薄く伸ばして作られたものです。

それだけ手間暇がかかっているわけですから、写本は贅沢品の一種でした。

そんな写本に、内藤さんはパリの古本屋で出逢い、

その“世界に1点しかない美”の魅力に開眼したのだそう。

以来、40年近くに渡って、写本の蒐集を続けてきました。

ちなみに、本業は医学研究者である内藤さんは、麻酔学と中毒学の権威。

2004年には、『中毒学の確立』により、吉川英治文学賞を受賞しているほど。

そのように立派な御仁が中毒になってしまうほどの写本。

奥深いこと、この上なしです。

 

さてさて、一言で写本と言っても、その種類や用途はさまざま。

例えば、こちらは『聖書』の写本。

「創世記」の冒頭が書き写されています。

 

《聖書零葉》 イングランド 1225~35年頃 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

 

 

また例えば、こちらは聖務日課書と呼ばれるもの。

 

フランチェスコ・ダ・コディゴーロ写字、ジョルジョ・ダレ マーニャ彩飾《『レオネッロ・デステの聖務日課書』零葉》 

イタリア、フェラーラ 1441~48年 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

 

 

聖務日課とは、日々8回定刻に行われ、

修道院や教会の典礼の基本をなすものです。

その祈りで唱えられるテキストをすべて収録した書物が、聖務日課書。

いうなれば、業務のガイドライン集みたいなものでしょうか。

 

また、業務のガイドラインといえば、このようなものも。

 

パヴィアのサン・サルヴァトーレ聖堂のミサ聖歌集の画家彩飾《ミサ聖歌集零葉》

イタリア、パヴィア 1480~85年頃 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

 

 

こちらは、ミサの典礼書のうちの1枚。

楽譜のように見えるものは、まさに楽譜で、

ミサで歌われる聖歌が掲載されているのだそうです。

 

 

ちなみに。

興味深いところでは、教会の法令集の写本も紹介されていました。

 

《グラティアヌス『グラティアヌス教会法令集』(ブレーシャのバルトロマエウスの「標準注釈」を伴う)零葉》

フランス南西部、トゥールーズ(?) 1320年頃 彩色、インク、金/獣皮紙 

内藤コレクション(長沼基金) 国立西洋美術館蔵

 

 

左上に描かれている絵にご注目。

画面右の男女2人が、妙にイチャついています。

このページで取り上げられている事例は、

夫が敵の捕虜となり長年家を離れている間に、

妻が別の男と再婚してしまったというもの。

具体的にどんな判決がくだるのかは不明とのことですが、

なにはともあれ、裁かれている最中は、お前らイチャつくなよ。

 

 

 

地味か地味でないかと言えば、

ハッキリ言って、地味な展覧会です(笑)。

だけど、そこをグッとこらえて(?)、

1点1点、じっくり鑑賞してみると、意外と面白かったです。

星

 

個人的な面白ポイントとしては、絵のユルさ。

そこに尽きます。

 

《祈祷書零葉》 ドイツ南部、アウクスブルクもしくはニュルンベルク(?) 1524年頃

彩色、インク、金、銀/獣皮紙 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

 

 

テキストに合わせて描かれたものなのかと思いきや、

写本によっては、まったく関係ない絵が描かれているのだとか。

意外と、ツッコミどころは多かったです。

とりわけ突っ込みたくなったのは、こちらの《詩編集零葉》

《詩編集零葉》 フランス北部(?) 1270年代-80年代

彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

 

 

何でそこに絵を描きたかったん?!

もっと余白を上手く使えよ!!

イニシャルの文字から、変な線出てるぞ!!

よっぽどつまらない授業を受けている時のノートのようにも思えてきました。

 

それから、つい絵に目が向かいがちですが、

1文字1文字書き写された文字も味わい深かったです。

 

リュソンの画家彩飾《時祷書零葉》 フランス、パリ 1405-10年頃 

彩色、インク、金/獣皮紙 内藤コレクション 国立西洋美術館蔵

 

 

じーっと眺めていたら、『Bling-Bang-Bang-Born』に見えてきました。

 

 

 

 ┃会期:2024年6月11日(火)~8月25日(日)

 ┃会場:国立西洋美術館
 ┃https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2024manuscript.html

 

 

~読者の皆様へのプレゼント~  
“内藤コレクション展”の無料鑑賞券を5組10名様にプレゼントいたします。  
展覧会名・住所・氏名・電話番号を添えて、以下のメールフォームより応募くださいませ。  
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/ 
なお、〆切は7月5日です。当選は発送をもって代えさせていただきます。

 

 

 

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