三島喜美代―未来への記憶 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

芸術家としてのキャリアは、実に70年。

特に2020年以降に、受賞や展覧会が相次ぎ、

91歳を迎えた今がもっとも油が乗っていると言っても過言ではない、

THE SECOND・・・いや、THE THIRDな現代美術家・三島喜美代さん。

その東京では初となる大規模な個展、

“三島喜美代―未来への記憶”が、練馬区立美術館で開催されています。

 

 

 

三島さんの代名詞ともいえるのが、

印刷物をシルクスクリーンで陶に転写し焼成した“割れる印刷物”。

本展ではその最初期の作品となる70年代の作品も紹介されています。

 

 

 

パッと見は、普通の新聞のようですが、陶です。

なので、当たり前ですが、

落としたり、衝撃を与えたりしたら、割れます。

 

当初は、新聞をモチーフに作られていた“割れる印刷物”ですが、

徐々にそのモチーフは増えていき、新聞のチラシや雑誌、段ボールなども作られるように。

 

 

 

さらには、荷物に貼るシールも陶で作るようになりました。

 

 

 

「ワレモノ」や「われもの注意」と書かれた、

この赤い札そのものが、われものなわけで。

会場内で上映されているインタビュー映像で三島さんは、

「自分がオモロいと思うものを作ってるだけ」と豪語されていましたが。

この赤い札に関しては、オモロさを通り越して、

もはや一種の哲学性のようなものを感じてしまいました。

 

さて、そんな三島さんは90年代以降、

ゴミに対して強い関心を抱くようになったそうで。

本人曰く、「ゴミでゴミを作っている」とのことです。

 

 

 

廃材を使って、新たな命を吹き込む。

近年、そのスタンスで作品を制作するアーティストは、少なくないですが。

三島さんの作品は、そういったアーティストの作品とは似て非なるものでした。

ゴミがちゃんとゴミのまま、と言いましょうか。

特にゴミが第2の人生を歩み出しているわけではないのです。

かといって、ただのゴミかと言えば、そういうわけでもなく、

美術作品としか言いようのない何かにはなっているのです。

これぞ三島マジック。

70年のキャリアで培った妙なのでしょう。

 

なお、本展では、三島さんが陶に出会う前、

まだ平面で作品を制作していた時代の作品も紹介されています。

今の作風からは想像がつきませんが、

活動をスタートさせた当初は、油彩画を描いていたようです。

 

 

 

次第に、新聞や雑誌をコラージュしたり、

シルクスクリーンで作品を制作するようになります。

 

 

 

新聞や雑誌をモチーフにするところや、

シルクスクリーンを制作に取り入れているところに、

のちに“割れる印刷物”が生まれるフラグが立っていました。

さらに、この頃制作された中には、こんなコラージュ作品も。

 

 

 

パッと見は、幾何学的な抽象作品ですが、

近づいて観てみると、その正体は意外なものでした。

 

 

 

これらはすべて、三島さんの夫が、

捨てずに貯めていた馬券や競馬の出走表とのこと。

まぎれもなく、ただのゴミです。

この頃からすでに、ゴミで作品を制作していたのですね!

 

 

ちなみに。

展覧会のハイライトともいうべきが、

ラストに待ち受ける《20世紀の記憶》という作品。

三島さんの代表作にして最大規模のインスタレーション作品です。

 

 

 

床一面にビッシリと敷き詰められているのは、中古の耐火レンガ。

その数、なんと1万飛んで600個!

 

 

 

それらの表面には、過去100年の新聞記事の中から、

三島さんがセレクトしたものがそれぞれ転写されています。

 

 

 

こちらの《20世紀の記憶》は、2014年以来、

ART FACTORY城南島に常設されていますが、

今回初めて、施設外へ移設されたのだそう。

1万600個もの作品を作った三島さんがスゴいのは当然として、

これほどの数のレンガをすべて運んで並べた業者の皆様もスゴい!

しかも、展覧会が終ったらもう一度同じ作業が待っているわけです。

《20世紀の記憶》を運んで、また元に戻す。

21世紀の記憶に残る重労働です。

星星

 

 

 

 

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