1990年以降、板橋区立美術館には、
洋風画を中心とした珍しい個人コレクション、
通称、「歸空庵コレクション」が寄託されています。
その数は、実に248件。
そんな「歸空庵コレクション」から選りすぐりの73件を紹介するのが、
現在開催中の“洋風画という風―近世絵画に根づいたエキゾチズム―”です。
歸空庵コレクションの中でも、
特に名高いのが、秋田蘭画のコレクション。
秋田蘭画とは、秋田藩士が中心に描いた阿蘭陀風の絵画のこと。
略して、「秋田蘭画」です。
その中心人物と言えるのが、小田野直武。
もし彼の名前は知らずとも、
彼が描いた『解体新書』の挿絵は、
教科書などできっと一度は目にしているはずです。
そんな小田野が描く秋田蘭画は、
当時の日本画と比べて、だいぶとコッテリしています。
当時の日本画が、和菓子の味わいなら、
秋田蘭画は、バターがしっかりと効いているような。
そのコッテリ感に、西洋が感じられます。
また、こちらも小田野直武による作品。
描かれているのは、ワラビとのことですが、
コッテリしすぎていて、もはや新種の生命体のよう。
それも、地球外の。
しばらく眺めていたら、この場所がナメック星のように思えてきました。
さて、そんな小田野直武から絵を学んだのが、
久保田藩(秋田県)の藩主であった佐竹曙山です。
キャプションの解説によると、かなりの癇癪持ちだったそう。
本展では、佐竹曙山が描いた絵画だけでなく、
彼が癇癪を起して書いたとされる手紙も展示されていました。
なんでも、印を彫る職人に、オランダの印を注文したところ、
雨天や人形制作を理由に、なかなか仕上がってこなかったのだとか。
曙山はそれに癇癪を起して、この追求の手紙を書いたのだそうです。
達筆すぎて、具体的に何と書かれているのかは、よくわからなかったですが、
謎のマークを書き込んでしまうくらいに、正常な状態でなかったことはわかりました。
しかし、藩主のオーダーに対して、
雨天や人形制作を理由に、印を作らなかった職人も、なかなかの大物ですよね。
さて、本展では秋田蘭画の画家の他にも、
さまざまな洋風画家たちが紹介されています。
例えば、亜欧堂田善。
昨年、千葉市美術館で大規模な回顧展が開催された銅版画家です。
本展では、新寄託の作品も併せて紹介されています。
また例えば、石川大浪。
その名を聞いても、ピンと来ないかもしれませんが、
教科書でもお馴染みの杉田玄白の肖像画(←ぬらりひょんみたいな)を描いた人物です。
本展では彼の作品が数点紹介されていましたが、
中でも一番印象に残っているのが、《ターフェルベルグ天使図》。
彼なりに頑張って、天使を描いたのでしょうが、
目にした瞬間、「天使なんかじゃない!」と口走りそうになりました。
ダウンタウンの浜ちゃんに、ちょっと似てましたし。
他にもインパクト強めな洋風画がいろいろありましたが、
個人的にもっとも衝撃を受けたのが、結城正明による《HIPPOCRATES》です。
タイトルは、「医学の父」ことヒポクラテスですが、
実際は、キリスト教の聖人ヒエロニムスを原図にしたものとのこと。
と、それはさておき。
圧の強さがハンパではありません。
医者でもなければ、聖人でもなく。
老人が襲ってくる系のホラー映画のようです。
全体的に、思わずクスっとなる洋風画が多かったのですが。
決して、当の洋風画家たちは、
笑いを取りたかったわけではないでしょう。
彼らは少ない情報の中で、必死に西洋画を追求していたはず。
にもかかわらず、現代の眼から見ると、
妙な可笑しみが生まれてしまっていることに、
愛らしさのようなものを感じずにはいられませんでした。
こんなオモロい展覧会が、無料で観られるなんて有り難い限り。
板美と歸空庵さんに感謝です。
なお、思わずクスっとなるのは洋風画岳にあらず。
先ほど紹介した小田野直武のワラビの絵に対して、
「モゾモゾ わさわさ ブンブン」と擬音だけで表現するなど、
思わずクスっとなるキャプションも、本展ではたくさんありました。
それらセンス溢れる数々のキャプションの中から、
マイ・フェイバリット・キャプション、MFCを一つ選ぶとすると、
やはり、こちらの作者不詳の《少女愛犬図》のものになるでしょうか。
「カゲつけ過ぎて、ヒゲに見える」とありました。
確かにw