● コレクションの新地平 -20世紀美術の息吹 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。


さて、今回の “とに~の美術展へ行こう!” は、 『抽象画』 をテーマにお送りします。

「美術って、よくわからない…」の元凶とも言える 『抽象画』 。


振り返ってみれば、このシリーズで取り上げたことは、一度もなし…。
3年目にして、その事実に気付きました。
これからは『抽象画』の面白さも、もっと伝えていかなくては。



“意味不明”、“難解” と苦手意識を持たれる方の多い 『抽象画』 。
ところが、見方によっては、意外にも楽しいものになるのです。


例えば、前回の横浜美術館のイベントで最初にご紹介したこちらの一枚。

これは、現在でも活躍されている白髪一雄さんという抽象画家が描いた 《梁山泊》 という絵。
どう見ても、“意味不明” な一枚。



梁山泊


しかし、この絵がどのように描かれているかを知るだけで、ちょっと楽しい絵になるんです、これが。


さて、ここで問題。
この絵は、他のどの画家の作品とも違う独特の方法で描かれた絵です。
一体、どのように描かれていたものでしょう?
〈ヒント〉 左下に注目!







はい。タイムアップ。

正解は、何と、足で描かれた絵。


よく見ると、左下に足跡がありますね。
白髪一雄さんは、天井にロープをくくりつけ、そのロープにつかまった状態で、
足を使って絵の具を広げて、作品を制作する画家なのです。


そう思って見てみると、絵の至る所に、白髪さんの足が取った軌跡が見てとれるわけです。
“ここはもう完全にズルッと滑ったんだな(笑)” とか、
“お、ここはグニュニュと踏ん張ったのだな(笑)” というのが、見てわかります。



そんな風に、創作風景を想像してみると、何だかとても面白い絵になってきませんか?

と、このように『抽象画』も、どのように描かれたか知っただけで、
“意味不明” が “イミフwww” くらいにはなるのです。はい。


大事なのは、決して “意味がわかった!” にはならないということ。

「抽象画って、よくわからない…」とお嘆きの貴方。
これからは、「抽象画って、よくわからない(笑)!」 と胸を張っていいのです!



さぁ、そんないつになく長い前置きを踏まえた上で、
今回ご紹介するのは、東京・ブリヂストン美術館にて、
4月13日まで開催中の “コレクションの新地平 20世紀美術の息吹” という美術展。


ブリヂストン美術館が誇る20世紀美術コレクションが惜しげもなく展示されています。
その中には、初公開作品が何と20作品もあるそうで。
抽象画の大御所カンディンスキーやモンドリアン、
そして、もちろん冒頭で紹介した白髪さんの作品も展示されています。


とにもかくにも、抽象画のオンパレード。
右を見ても、左を見ても、前を見ても、後ろを見ても、抽象画。
これだけの抽象画に囲まれる機会は、そうそうありませんよ。

これだけの抽象画があれば、一つくらいは自分のお気に入りが見つかろうかというものです。


また、さらに付け加えるなら、万が一見つからなくても、
ブリヂストン美術館の常設展には、

ルノワールやピカソといった西洋画の一級品も展示されていますので、

無駄足にはなりません。はい。
抽象画を食わず嫌いしていた人にとっては、またとない絶好のチャンスの美術展と言えましょう。



さて、実に様々な抽象画家の作品が展示されていますが、
その中で今回取り上げるのは、アメリカの抽象画家ジャクソン・ポロック



ジャクソン・ポロック


実に約90点もの作品が展示されている中で、僕が一番印象に残ったのが下の一枚だったのです。
これは、ポロックの 《Number2,1951》 という作品。



Number2,1951



僕は、抽象画を見るときに、必ずしていることがあります。
それは、“何に見えるか?”と自分に自分で問いかけること。
“よくわからないや” と作品を通り過ぎてしまうのではなく、

作品の前に立ち止まって、そう自問自答します。

すると、自分でも思いがけない発想が生まれてきたりして、新鮮な驚きを得ることもあるのです。
そう、抽象画の鑑賞とは、セルフ深層心理テストのようなものなのですね。


で、上に挙げた絵の前で立ち止まった時も、
“この色が塗られた部分は何に見えるか?” と、自問自答してみたのです。
皆様は何に見えましたでしょうか?
僕の答えは、こうでした…。



“…ブーメランパンツ?”



いやぁ、本当に思いがけませんでした。
自分で自分の深層に蓋をしたくなりました。

ところが、このとんでもない連想を受けて、パッとひらめくものがありました。
ジャクソン・ポロックを紐解くキーワードは、ブーメランパンツがトレードマークの彼しかいないと!



そう、2007年に大ブレイクした芸人、 【小島よしお】 です。

ポロックの作品の一体どこが ‘芸術’ なのか?
一方、【小島よしお】のネタの一体どこが ‘お笑い’ なのか?
これは、何だか通じるものがありそうですね。


“果たして、 【小島よしお】 は面白いのか?”

2007年、日本人の誰もが一度はこの疑問を持ったのではないでしょうか。
まぁ、それはともかくとして。



【小島よしお】 のネタの基本的な流れは、次のようなもの。
Woodyの「hype 'o' tek」という曲に合わせて、左腕の拳を握り締め、床に向かって振り下げながら、
「○○○、でもそんなの関係ねぇ!あー そんなの関係ねぇ!あー そんなの関係ねぇ!」と
心のうちを叫ぶというもの。


この 【小島よしお】 のネタは、肝心のネタの部分( “○○○” に当たる)が面白いわけではなく、
その独特のアクションと、心のうちを叫んだ「そんなの関係ねぇ!」というフレーズに面白さがあるのです。
ネタそのものでなく、動きに “笑い” を見い出す。
これこそが、【小島よしお】のネタの大きな特徴と言えましょう。



実は、ポロックの作品にも、これと同じようなことが言えるのです。
ポロックの基本的な制作スタイルは、次のようなもの。


彼はジャズの音楽を聴きながら、トロットロの絵具をつけた筆や棒を手に持ち、
床に置いたキャンバスに向かってその絵の具を滴らせるというもの。心の赴くままに。



ドリッピング


ちなみに、彼が用いたこの独特の技法は、“ドリッピング” と呼ばれています。
そして、彼が “ドリッピング” という技法を用いて描いたこの絵画の様式は
“アクション・ペインティング” という名前で確立するに至るのです。


この “アクション・ペインティング” で一番大事なのは、
描かれた肝心の作品そのものよりも、その描かれるまでのプロセス、アクション(動き)なのです。
つまり、それは、完成した作品自体ではなく、
その作品を描くために取ったポロックのアクションこそが “芸術” だということ。



これは、今までの美術界には存在しなかった非常に画期的なもの。
鑑賞するときは、滴らされた絵の具の軌跡から、ポロックの動きを想像して楽しむのがベストなのです。


また、ポロックの行った “アクション・ペインティング” は、
それまでの絵画には確実に存在した『あるもの』をキャンバスから消し去りました。
それは 『描かれる対象となるもの』 。
それまでの芸術家たちは、現実のものにしろ、想像のものにしろ、必ず 『何か』 を絵に描いてきました。
しかし、ポロックの絵画には、それがありません。



アクション・ペインティング


「描く対象?そんなの関係ねぇ!」
…とポロックが言ったかどうかは定かではないですが、

ともあれ、これは非常に革新的なことだったのです。



そして、もう一つ、ポロックの作品の大きな特徴に

“オール・オーヴァー” と呼ばれるものがあります。
それを説明するために、もう一度、 【小島よしお】 に登場していただきましょう。



「ロンドンハーツ2007冬3時間SP」、「笑っていいとも! 年忘れ特大号」、
「1億分の1の男」、「3時間15分ぶち抜き生放送!堂本剛の朝までしんどい」、
「ぐるナイおもしろ壮 レア芸人だけで生放送祭りだオッパッピー!」、「大笑点2008!」、
「第41回初詣!爆笑ヒットパレード」、「第45回 新春かくし芸大会 2008」…etc。


ここに列挙した番組は、去年から今年にかけて放送された、
いわゆる年始年末特番の中で、 【小島よしお】 が出演したもの。
確認できただけでも、実に21本の番組に出演しています。


そして、それらのすべての番組で、あのネタを要求されたことは言うまでもありません。
年始年末のどの日にも、そして、どのテレビ局にも “均一的” に出演し、毎回同じようなネタをする。
(注・NHKの「紅白歌合戦」にも出演する予定でしたが、服を着ていないことが、NHKコードに触れ断念)
これこそが、まさに “オール・オーヴァー” 。



…えっ、よくわからないですか?



では、ポロックの絵を一つ見てみましょう。



秋のリズム ナンバー30


これは、彼の代表作の一つ 《秋のリズム ナンバー30》 という一枚。
画面全体が、“ドリッピング” によって “均一的” に描かれているのがおわかりでしょうか?

今までの絵には、自然と目が行くところと、反対にあまり目がいかないところがありました。



モナ・リザ



例えば、 《モナ・リザ》 の場合は、

人物ばかりに目が行ってしまい、背景にはあまり目がいかないように。

ところが、ポロックの作品には、全くそういうものがありません。
全体が均一的で同じような印象を持っています。
この “オール・オーヴァー” な表現こそ、ポロックの芸術の新しさだったのです。



さて、最後にポロックの作品の魅力についてお話しましょう。
それは、一見すると、何とも荒々しい作品のようなのですが、

実際絵を前にして見てみると、意外なことにとても静謐な絵であるということに驚かされます。
そんなギャップが、ポロックのファンの心をつかんで離さないのでしょう。


それは、 【小島よしお】 が、あれだけ激しいアクションを行いながらも、
最後に「オッパッピー(オーシャン・パシフィック・ピース〈太平洋に平和を〉」と結ぶ
ギャップに通じているのかもしれません。



会期を逃すと、後で “あ~ 下手こいた~!” と後悔するハメになるかも。
さぁ、 “コレクションの新地平 20世紀美術の息吹” へ行こう!



Now Printing

★ from yukimone ★


トレーディングカードイラストは、後日更新しますので少しお待ちください。



■ブリヂストン美術館 URL

http://www.bridgestone-museum.gr.jp/


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