● モーリス・ド・ヴラマンク 展 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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今回、ご紹介するのは、

損保ジャパン東郷青児美術館で6月29日まで開催されている

“モーリス・ド・ヴラマンク展”


フランスの画家・ヴラマンクの最初期から晩年までの作品が、

バランスよく、展示された美術展です。



と、この時点で。

「ヴラマンクって誰よ?」
…と思われた方が、大勢いらっしゃることでしょう。

Wikipediaには、このように書かれております。


『モーリス・ド・ヴラマンク(Maurice de Vlaminck, 1876年4月4日 - 1958年10月11日)は、

フォーヴィスム(野獣派)に分類される19世紀末~20世紀のフランスの画家。』


と、ここでまた一つ聞きなれない美術用語の登場してしまいました。

「フォーヴィスム(野獣派)って何よ(泣)?」
…と思われた方が、やはり、大勢いらっしゃることでしょう。

Wikipediaには、このように書かれております。


『フォーヴィスム(Fauvisme、野獣派)は、20世紀初頭の絵画運動の名称。…(以下略)』


フォーヴィスムについて、上の一文の後に、十数行の説明が続いております。
とてもでないですが、面倒なので読んでいられません。
もうWikipediaの力は、借りないことにします。



そこで、今回は、まずヴラマンクを知る上で避けては通れない “フォーヴィスム” について、

“美術展へ行こう!” 流にご説明するところから始めてまいりましょう。

“フォーヴィスム” 。日本語に訳すと “野獣派” 。


その名前は、 “野獣派” に分類される画家たちの作品が展示された会場を訪れた、

とある美術批評家が「あたかも野獣の檻の中にいるようだ!」と発言したことに由来します。
それが、そのまま美術用語として定着してしまったわけで。

どうやら ‘言いえて妙’ な発言だったようです。


とは言え、野獣のような絵とは、どういうものなのでしょうか?
イメージしやすいようで、意外とイメージしづらいですね。



では、美術史の流れを追って、見てみましょう。



まずは、モネやルノワールの “印象派” の時代、



モネ



続いて、ゴッホやゴーギャンのような “後期印象派” の時代、


ゴッホ


その後に、いよいよ、 “野獣派” の時代がやってきます。

 


帽子の女


(↑この絵は “野獣派” の一人・マティスの 《帽子の女》 という絵です)



こうして、3枚を並べてみると、時代が進むにつれ、

どんどんとタッチが荒くなっているのが、お分かりになるかと思います。

『時代が進むにつれ、物事が荒くなっていく』 というのは、何も芸術に限った事ではありません。
最初は一字一句丁寧に板書を書き写していたノートも、ページが進むにつれて雑になっていくものです。
また、新婚時代は、きちんと分量を量って作っていた手料理も、

年を経るにつれ、段々と目分量で荒々しく調理をするようになっていくもの。


これは、もはや、人間の摂理なのかもしれません(例に挙げたのは、単なる“手抜き”のような気も…)

そして、この美術史の流れと全く同じことが、ロックの歴史にも言えるのです。
チャック・ベリーやエルビス・プレスリーが世に広めた “ロックンロール” は、

その後、ビートルズやローリング・ストーンズといった “ロック・バンド” によって、

より激しい音楽へと進化していきます。



この進化を、 “印象派” → “後期印象派” という図式に当てはめるなら、

“野獣派”の登場は、ロックの歴史における次なる進化である “ハード・ロック” の台頭に他なりません。

まさに“野獣派”の荒々しいタッチは、 “ハード・ロック” の荒々しいエレキサウンドのようなもの。

そして、その共通点は、「表現の荒々しさ」だけではありません。
“野獣派” も “ハード・ロック” もともに、美術史・ロック史において、

全く同じような大革命を起こしているのです。


“野獣派” が起こした革命。それは、『色』 の革命です。
それまでの絵において、色が果たしてきた役割というのは、

自然を再現するための道具、つまり黒子的なものに過ぎませんでした。
空が青いから、青を使うわけで。

葉っぱが緑色だから、緑を使うわけです。



ところが、 “野獣派” は、色を感情を表す手段として用いたのです。
情熱的な絵にしたいから赤や黄色を。

絵に落ち着いた雰囲気を出したいから、青や緑を使うのです。


“野獣派” は、『色』というものを、絵画の主役にしたのです。
これは、まさに、 “ハード・ロック” の登場で、

それまで伴奏に過ぎなかった 『ギターの音色』 を一気に楽曲の主役になったようなもの。



ちなみに、“野獣派” が『色』を強調させたように、

“ハード・ロック” を代表するバンド(レッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、ピンク・フロイド)が

そのバンド名に 『色』 の名前をつけていることに、もはや偶然を通り越して、

なにか運命的なものを感じずにはいられません。
…ちょっと大げさに言ってみました。



と、ここまでで、 “野獣派” については、だいたい理解して頂けたかと思います。


では、ここからは、今回の主役ヴラマンクのお話。



vlaminck

ヴラマンクは、その体格や所作から、

最も “野獣” という言葉がふさわしいと “野獣王” と呼ばれたほどの

“野獣派” の中の “野獣派” の画家。


先に引き続き、ロック・バンドに例えるならば、

“ハード・ロック” を代表するロック・バンドである 【ディープ・パープル】 のような存在。
(余談ですが、 【ディープ・パープル】 もまた、バンド名に『色』がついておりますね)



ディープ・パープル



ディープ・パープル・イン・ロック



もし、 【ディープ・パープル】 という名前を知らないという人でも、

きっとこの曲は聴いたことはあるはずです。


http://jp.youtube.com/watch?v=pfzv3bf9-OY

現在でも、よくテレビやCMで使われる「紫の炎」という曲。


http://jp.youtube.com/watch?v=QHlODWd4GeM

そして、UCCのCMでもお馴染みのこの曲のタイトルは、「ブラック・ナイト」。


やはり、イントロや間奏のギターのメロディ(←これをリフと言うそうです)が特徴的です。
というか、反対に、歌の部分の印象はすごく薄い…。



それでは、今度はヴラマンクの絵を見てみましょう。
まずは、今回展示されている一枚 《製紙場、ナンテール》



製紙場、ナンテール



もう一枚展示されている絵の中から、 《オーヴェール=スュル=オワーズの雪》



≪オーヴェール=スュル=オワーズの雪≫


そして、ブリヂストン美術館にある 《運河船》

(今回の展示では、これに似た 《ル・アーヴル、港の停泊所》 という絵が展示されています)



運河船


やはり、どの絵を見ても、その色使いと荒々しい絵のタッチに目がいってしまいます。
どの絵も、ロックな感じです。



そして、さらに。
【ディープ・パープル】 の曲を聴きながら、この3枚の絵を見ていた時、

僕はヴラマンクの絵の大きな特徴に気がついたのです!


3枚の絵には、“あるもの” が共通して描かれているのです。

その発見のきっかけとなったのが、 【ディープ・パープル】 の楽曲の中でも最も有名なこの曲。


http://jp.youtube.com/watch?v=2WX_4FNoto4



世界で最も有名なリフとして知られている

“♪ジャッジャッジャー ジャッジャジャジャーン ジャッジャッジャー ジャッジャジャーン” という

このリフは、アマチュアバンドのギタリストなら、誰でも一度はカヴァーしたことがあるそうです。



まぁ、それはさておいて。

この曲のタイトルは、そう、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」。


もうおわかりですね。
スモーク、つまり、どの絵にも “煙” が描かれています。
しかも、《運河船》に限っては、スモークもウォーターも描かれています。


ちなみに、ヴラマンクの絵を、ネットで検索してみたところ、

上に挙げた以外にも、 《River Scene with Boat》 や、

 


River Scene with Boat


《Tugboat on the Seine》

 


Tugboat on the Seine



などなど。

「スモーク・オン・ザ・ウォーター」な絵が見つかること見つかること。



しかし、残念ながら、今回参考にしたどの資料にも、

ヴラマンクの絵と煙については、全く触れられておりませんでした…。
ヴラマンクがなぜこうも煙の絵を描いたのか。
その真相は、煙の中のようです。



最後に、ヴラマンクの絵のもう一つの特徴をお話しいたしましょう。
まずは、こちらの絵をご覧ください。

 


≪雷雨の日の収穫≫


これは、ヴラマンク独自のスタイルが、

すっかり確立した頃に描かれた 《雷雨の日の収穫》 という絵です。
今にも雷雨が降りそうな気配が漂っておりますね。
描かれている人物に、 “早く家に帰った方がいいって!” と言いたくもなります。はい。



さてさて、ヴラマンク独自のスタイルとは、一体何でしょうか?

それは、画面全体に漂うスピード感、疾走感。

例えば、この絵、描かれている道や雲に注目です。
とても素早い筆致で描かれているのが、わかります。
画像でも、ある程度、その筆致の素早さは伝わるかと思いますが、実物を見れば、一目瞭然。
きっと、 “は…速い!” と驚くことでしょう。



しかし、なぜ、ヴラマンクはこのような速さのある絵を描いたのでしょうか。
そのヒントもまた 【ディープ・パープル】 の代表曲にありました。


http://jp.youtube.com/watch?v=KgZSnAkQc4c


この曲は、ご存じ「ハイウェイ・スター」。



そして、ヴラマンクもまた “ハイウェイ・スター” だったのです!


…なんじゃ、そりゃ!
と、ツッコミを入れたくなった皆様。
もう少しお付き合いくださいませ。



実は、ヴラマンク。

画家になる前は、自転車のレーサーとして賞金を稼いでいました。
その後、画家に転向したのですが、相変わらずのスピード狂だったそうで。
自転車から自動車にハンドルを持ちかえ、そのスピードを楽しんだのだとか。


彼は、運転中に見えた速いスピードで流れる景色を、風景画の中で表現したのです。

そう、ヴラマンクの絵には、 “ハイウェイ・スター” の彼だったからこそ

見えた景色が描かれているのです。


さぁ、ヴラマンクのロックの精神を感じるために。
モーリス・ド・ヴラマンク展へ行こう!



028.ヴラマンク Illust by.yukimone


★ from yukimone ★


(08/06/16更新)

本日、ヴラマンクのトレカをアップしました!

トレカの更新はすごく久しぶりになってしまいました。

楽しみにしていてくださっている方々、大変お待たせしました。


大きい身体の方を描くのは、このBlogでは初めてですね。

楽器を演奏しているポーズ、結構難しくて悩みました。

■損保ジャパン東郷青児美術館 URL

http://www.sompo-japan.co.jp/museum/



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