コロナで旅行気分でなくなり、記すのが遅くなりましたが、
前年の高岡旅行の話を:
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群馬県高崎市には、アントニン・レーモンドが設計した群馬音楽センターがあるだけでなく、自邸の「写し」もあります。
写し、といっても展示用にコピーしたものなどではなく、レーモンド本人の許可を得て、寸法を測らせてもらい住宅用として1952年に建てられたもの。
依頼者/発注者は地元の有力者で、メセナ活動にも熱心だったという井上房一郎氏。
会社経営などで富を築いた方と聞きますが、焼失後の自身の邸宅として白羽の矢を立てたのが、レーモンド邸だったようです。
とはいえレーモンドの家は平屋で意外に簡素。
社長の自邸にしては地味すぎるのでは、という声もあったとか。
それでもレーモンドにほれ込んでいた証拠なのでしょう、実体を選んだようです。
レーモンドがそれを快諾したということなので、やはり芸術に理解を示してきた井上氏だったから、なのだと感じます。
・・・とまあ以上の点は、去年末の高崎旅行の際に断片的に触れた気はしますが、その後コロナ感染者が急増して、旅気分ではなくなったので中断したままでした。
現状を鑑みて、このタイミングで掲載することに。
場所はというと、これまた以前記した高岡市美術館内にあります。
美術館の入場料で、こちらの邸宅見物付き。
ただし私が行ったときはコロナの関係で1日に3回、1回に5組(あるいは5人)のみ。
予約が取りにくかった覚えがあります。
上記に書いたとおり、地元の有力者たる社長の家にしては地味。
2Fはなく、平屋建て。
窓の形もシンプルです。
ただ、中央のへこみにはー
家の外と内の中間のようなかたちでこんな団らんのスペースがありました。
実はこの場所に行こう、と思ったきっかけが、この部分の写真でした。
写真のアングルは逆側からの撮影でしたが、レーモンドと、インテリアデザイナーの妻ノエミさんの食卓風景です。
それを私はパナソニック汐留美術館で目にしました。
元来パナソニック汐留美術館は、ルオーの絵画や、松下幸之助氏が愛した茶道具などを企画展あるいは特別コーナーで公開してきましたが、分社化したパナソニックホームズなどを抱える企業だけあって、住宅関連の展示にも力を入れています。
私が汐留美術館を最初に訪問したのはルオー美術館から招かれたフランス人館長さんのトークを聞くためでしたが、その後2013年に日本の民家一九五五年展、翌年建築家ピエール・シャローとガラスの家展を見ました。
目黒区美術館で村野藤吾展が開催されたのは2015年のことで、このあたりは見ごたえある建築の展覧会が続いた記憶があります。
そして昨年見た「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展」でレイモンドがフィーチャーされ、群馬音楽センターやこの自邸の写しの存在を知ったのです。
部屋を横断する白いダクトが目を引きます。
極めて開放的なこのお宅。
前川國男氏の邸宅(江戸東京たてもの園に移設)を思い出しました。
やはり開放的でごてごてオーナメントがあるわけではありません。
前川氏の自邸は2階もさらっと存在しますが、部屋というより階段の踊り場のようなスペースですので実質平屋に近いものがあります。
森美術家で見た丹下健三氏の自宅の模型も、やはり開放感があって1Fは高床式のようなピロティになっていて、住居スペースは2階部分。
建築家たちの一押しは、横広がりの風通しのいい家、ということなのでしょうかね。
↓このへんのあたりが特に前川邸をほうふつとさせました。
家具はノエミさんが造ったものもあるのでしょう。
外から見えました。お風呂が小ぶり!
アシンメトリーな片流れ屋根。
この砂利使いが何気にアクセントになってるなぁ。
お昼頃の予約は取れず私が行ったのは最終回。
他に数人予約が入っていたはずですが、最初から最後まで私一人(監視員の方はひとり常駐)だけでした。
確かにごてごてしていないし、家具などもシンプル。
手を加えたくなるところをぐっとこらえて、空間重視の自然体にする、、こういう住宅が贅沢なのかもしれないなぁ、そんな思いに駆られました。
高岡’20/秋① 音楽溢れる城址公園 木立に佇むコントラバス
高岡’20/秋② 建築家A・レーモンドが手掛けた群馬音楽センター
高岡’20/秋③ 井上房一郎邸見学とTV番組「ノースライト」の椅子
高岡’20/秋④ 日本を愛したチェコ人建築家
高岡’20/秋⑤ アントニン・レーモンドの自邸のコピーが見られる場所