真アゲハ ~第57話 雲野 顕2~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



栗栖「まさか驚いたよ、あの時の昌人くんだったとは!」

橋川「僕も命の恩人の栗栖先生だと知らず…すみません!」

橋川は10年前、栗栖の患者だった
当時15歳だった彼は、まだ学生だったのに身体のだるさとめまい、頭痛などの体調不良が続いていた
最初はただの風邪かと思い、病院に行っていなかったが、健康診断で再検査の通知を受けて、風邪ではないことが分かった
名古屋市総合病院で詳しい検査をしたところ、白血病だと診断され、さらに助かる確率が低いと言われた

これからの人生を楽しもうと考えていた時に重い病気に、しかも余命宣告を余儀無くされ、絶望のどん底に落ちた
その時に助けたのが、当時務めていた栗栖だった

橋川「栗栖先生の治療のおかげで、白血病が治ったんです!若手の医者と言われていましたが、手術を成功させて、それがきっかけで栗栖先生は一躍有名人に…!」

栗栖「有名人は止めてくれよ。…あの時昌人くんは、癌のせいで身体が痩せていたからね。今じゃこんな立派な青年になって…嬉しいな」

橋川「栗栖先生のおかげで回復して、将来は栗栖先生みたいに人の命を救いたいと思って、めっちゃ勉強して、医大に受かったんです!卒業してから看護師として総合病院で働いて、今年で3年になります!」

航平(栗栖さん、やっぱりすごいお医者さんだったんだぁ~!かっこいい!)

栗栖が人の命を救ったと言う武勇伝を聞いて、航平は目を輝かせる
同じく聞いていた輝人は、こっそりため息をつく

輝人(結局受けることになったとは…)

橋川の依頼を受けることになった
自分の元患者と言うこともあったのだろう
栗栖からも強くお願いされ、断れ無かった

4人は早速、名古屋市総合病院に到着した

栗栖「うーん…まさかまたここに来ることになるとはな」

橋川「確か…栗栖先生ってもう辞めてしまったんですよね?一緒に仕事したかったなぁ」

栗栖「すまない、ちょっとした事があってね」

輝人「さて、中に入ろうか。栗栖、もし嫌ならお前だけここで待ってろ」

栗栖「行くよ、大丈夫だから」

栗栖がここに来たがらないのは、元職場だからと言うこと
そして何より、ここの次期院長が元婚約者の義兄にあたるからだ

橋川「えっと…まずは亡くなった患者さんの病室へと向かいますね」

栗栖「あぁ、そうしてほしい」

?「おや?おやおやおやぁ?見たことある顔がいると思ったら栗栖“くん”じゃないか~!」

栗栖「!」

輝人(うわ、来たよ…)

聞き覚えのある声に、栗栖は立ち止まる
丁度そこに、次期院長で栗栖の元婚約者の義兄である逢坂渉が現れた

「あ!逢坂先生だ!」
「本当だ!珍しいね!」
「あれ?もしかして…栗栖先生!?」
「え!栗栖先生!?」

渉の声に反応した患者や看護師達が2人を見て注目する
渉は栗栖の前に立つ

橋川「お、逢坂先生!お疲れ様です!」

渉「橋川くん、君今日は非番じゃないのかい?」

橋川「は、はい…でも…」

渉「それも、元医者のこいつといるとはな」

栗栖「お…お久し振りですね」

渉の顔を見ると、栗栖は手が震え出す
その原因となったのは、自分が元婚約者を守れなかったからだ

渉「それにしても、まだ探偵とつるんでいるとはな。探偵業に医者とは、豚に真珠じゃないか?」

輝人「はぁ?」

航平「ちょっと、そんな言い方…!俺達は栗栖さんにすごく助けてもらって…!」

栗栖「良いんだよ、航平」

航平「でも…!」

渉「お前らなんでこんなところに?…まさか、例の患者の事を調べに来たのか?」

栗栖「!」

輝人達がここに来た理由をすぐ理解したみたいだ
栗栖の反応を見て、納得した
そして、それがどうして漏れたのかも、すぐに分かった

渉「…橋川くん、勝手な行動は慎みたまえ。そもそも病院の事情を外部に漏らすとは、あるまじき行為だ」

橋川「す、すいません…ですが…」

?「ん?おい、どうしたんだ?」

そこに新たな声が響く
現れたのは、白衣と白い髭が特徴の初老の男性だった
栗栖と渉、橋川はその人物を見ると、目を大きくする

渉「父さん!」

栗栖「お、お義父さん…!」

輝人「は?父さん…ってまさか…!」

橋川「…はい、この名古屋市総合病院の院長先生です」

渉と栗栖の反応を見て、理解する
現れたのは、名古屋市総合病院の院長先生だ

ー名古屋市総合病院 院長
 逢坂 弘泰(60)ー

弘泰「一体何を騒いでいるんだ、渉。他の患者に迷惑だろ?あと病院では院長と呼びなさい」

渉「す、すいません…!ですが、橋川くんが例の患者の事で、外部の人間に協力を…」

弘泰「…ん?君は、栗栖くんじゃないか」

栗栖「!…ご無沙汰しています、院長先生」

弘泰「うむ、ちょっと向こうで話そう。渉、お前は業務に戻りなさい」

渉「父さ…いや、院長!ですが…」

弘泰「聞こえなかったのか?戻りなさい」

渉「!…は、はい…」

弘泰の強い圧に負け、渉はその場を去る
他の患者もいると言うことで、弘泰が輝人達を連れて、場所を変える
何故ここにいるのか、輝人や橋川から話を聞く

橋川「申し訳ありません、勝手な行動をしてしまい…!」

弘泰「確かに、外部の人間に情報を漏らすのは良くない。だが、君は患者を助けたい。そう思って決断したのだろう?こちらも何も動かずに、辛い思いをさせてすまないね」

橋川「院長先生…っ」

弘泰「それに、久し振りに娘の婚約者に会えたのも、嬉しかったし」

栗栖「…!」

栗栖に向けて、優しい微笑みを見せる
知っての通り、弘泰には息子の渉と娘の祐希奈がいる
祐希奈は栗栖の元婚約者だったが、3年前に海外の雪なだれの被害に遭い、亡くなってしまった
しかしそれが、とんでもない形で生きていたと言うことを知らない

航平(…娘さんが、ネクロとして生き返ったなんて知らないんだ。知ったとしても、辛いよなぁ…っ)

弘泰「栗栖くん、すまないね。うちの渉が…」

栗栖「い、いえ…私自身にも責任はあります。責められるのは当然で…」

弘泰「そう自分を責めないでくれ。祐希奈だって、それは望んでいないと思う」

輝人(残念だが、完全に怨んでいたぜ…)

航平(てかめっちゃ院長先生良い人じゃん!なんでお兄さんだけあんな性格なんだ…?)

弘泰「…大切な患者をあんな姿にした者が許せない。例えうちの者だろうと、それ相応の処罰を下すつもりだ。橋川くん、私も警察に相談しようとしていたんだ。もちろん、喜んで協力させていただくよ」

橋川「ほ、本当ですか?」

弘泰の予想外な言葉に驚く
輝人達に協力してくれるそうだ

弘泰「必要な事があれば、言ってほしい。出来る限りの事はする」

輝人「じゃあ早速ですが…亡くなった患者の資料を見せてくれますか?」