真アゲハ ~第54話 ペンギン1~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

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「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。




?『…ふぅ、暑いわね』

?『さぁ彩耶華、プールを開いたよ』

…ある夫婦が手を伸ばす
その日はとても暑い夏だった
大きなプールの水面が反射して、白くて大きな屋敷の壁にキラキラと輝いている

?『わぁ~!すごく楽しみですわ!』

?『あ、コラ!まずは着替えて来ないとダメでしょ?』

?『ハハハ、本当にプールが好きなんだなぁ』

…夫婦の子供と思われる女の子は、目の前の大きなプールに大はしゃぎだ
すぐに女の子は自分の部屋に戻り、水着に着替えてくる
そしてプカプカ浮かぶために、浮き輪も用意する

?『プール!プール!』

?『うわぁぁぁあっ!』

?『!』

…その時、プールの方から夫の悲鳴が聞こえた
すぐに女の子は部屋から飛び出し、プールの方に向かう

?『…!』

そこには、プールに似合わない大きな火が焚かれていた
しかもよく見ると、火の中に人型が見えた
それは、夫婦だった

?『あ……や…か…!』

?『お父様…!?お母様…!?』

…女の子はすぐそれが、両親だと分かった
自分が水着に着替えている間に、何があったのかは分からない
だが故意にやった様に見えない

?『…え!?』

…しかも先程たくさんあったプールの水が、1滴残らず干からびていた
これでは火を消すことが出来ない

?『…に…げ…!』

?『や……かぁっ…!』

?『い、嫌っ…!』



彩耶華「…イヤァァァァーーーーーッ!」

目の前に火を纏った2人が自分に迫ってきた直前で、悲鳴を上げてガバッ!と起き上がる
そこは、自身が住んでる狭いアパートの1室だった
カーテンから光が差し込んでいるところを見ると、朝を迎えたみたいだ

彩耶華「ゆ……夢…?」

先程見た景色が違うと確認すると、彩耶華は安堵する
だが同時に、悲しくなる

彩耶華「…お父様、お母様…!」





同日  PM 14:25
数時間が過ぎ、ここネクロ研究センターにあるお客が来ていた

瑠美「…検査の結果、どこも異常は無かったから安心していいよ」

大介「ありがとうございます!」

敦彦「良かったな、大介」

それは、小学生でありながら“廃棄物(ダスト)”のアビリティを持っている野木沢大介だ
大介も以前オーバーネクロとなってしまい、父親の敦彦の協力もあって、元の姿に戻ることが出来た
今日は定期検査である
担当しているのはもちろん、ネクロ研究センターの所長の加治木瑠美だ
今日は名古屋名物のお土産「かえるまんじゅう」の被り物をしている

瑠美「ゴミも食べなくなったから、アビリティを使うことは無くなったみたいですね。そのおかげで数値も格段に減っているので、安心していいですよ」

敦彦「ありがとうございます」

瑠美「検査はこれで終わりです。大介くん、学校早退して来たんだよね?ありがとう」

大介「うん、大丈夫だよ」

敦彦に発見されるまで、大介は見た目も酷く汚れて、ボロボロの服装だったが、今は新生活を送っているおかげで、髪も整い、服も新品の物を着ている
前の生活とは大違いだ

輝人「…ん?おっ、大介じゃん」

大介「あ!輝人さん、こんにちは!」

検査室を出ると、輝人と出会った
敦彦もお辞儀をする

輝人「検査だったのか?」

大介「うん、もうゴミも食べなくなったから大丈夫だって!」

敦彦「今日は学校早退して、検査に来たんです。私は今日お休みをもらったんですがね」

輝人「そうですか、また事務所に遊びに来てください。ゆにや始も会いたいって言ってましたので」

大介「うん!」

敦彦「大介、うんじゃないだろ?」

大介「あ、間違えた…はい!」

瑠美「お、斑目くん来たね」

輝人がここに来たのは、昨日の事だ
昨日自分の偽者である松房が、オーバーネクロになる直前で、謎の生物が身体から生えたと栗栖達から聞いた
幸いな事に、茜がその生物を写真で撮っていたみたいだ
その写真を見せて、ネクロ研究センターの所長である加治木に質問をしに、ここにやって来たのだ

早速茜が撮った写真の生物を確認する

瑠美「うわっ!これは…」

輝人「松房のアビリティは間違いなく“溶岩(マグマ)”だった。だが一瞬目を離した隙に、こんなのが生えたらしいんだ。見たところ、松房自身の能力じゃない。誰かにやられたと言っていたから、その誰かの能力だと思うんだ」

瑠美「うーん…これは今までにないかも。見たところ、生物みたいだけど、動物でもなけりゃ植物でもないね。昆虫…にしては形態が違いすぎる」

初めて見る生物に加治木も頭を悩ませる
ファイルも確認してみるが、見たことないためデータにない

瑠美「…これまで動物のアビリティはDr.アルバトロスのおかげで多少は確認出来たけど、こんなのは初めてだよ。何かしらの条件で、やられたらこうなったって事は…ある意味これは、“寄生”かもね」

輝人「寄生…!?」

思いがけない単語に輝人は眼を大きくする
確かにこれは他人から松房に起こったアビリティで、動物や植物とは考えにくい生物だ
それにこの生物が宿った時に、松房の意志でアビリティが使われたのではなく、この生物が強制的にアビリティを使っていた
その結果、過剰使用となり、オーバーネクロになってしまった
そう考えると、これは“寄生”だ

瑠美「…でも、この写真だけだと詳しい事はまだ導き出せないかも。“寄生”は仮にしておくね。出来るのなら、このアビリティを使う人物を探して欲しいかな。この人物を放っておけば、他のネクロにこの生物を寄生させて、オーバーネクロを大量に作る事も考えられるからね」

輝人「…分かった。誰かは分からないが、探してみる」