真アゲハ ~第54話 ペンギン2~ | 創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

創作小説「アゲハ」シリーズ公開中!

「アゲハ族」
それは現在の闇社会に存在する大きな殺し屋組織。しかし彼らが殺すのは「闇に支配された心」。いじめやパワハラ、大切な人を奪われた悲しみ、怒り、人生に絶望して命を絶ってしまう…そんな人々を助けるため、「闇に支配された心」を浄化する。



瑠美「…そういや聞いたよ?命狙われたんだって?」

輝人「…!もうそこまで情報回ってんのかよ」

謎のアビリティの話と変わり、輝人がネクロハンターに命を狙われている事を話した

瑠美「うん、でも…」

輝人「でも?」

瑠美「命を狙われることは不思議なことじゃないかもね」

輝人「は?なんでだよ」

瑠美「うちにいる研究員達は、過去にネクロとなんかあって集まったことは知ってるよね?それで、過去に被害に遭った研究員達から少し聞いた話だけど…とある国で、危険性が高いネクロが現れたって話題があったの」

輝人「は?」

そう言うと瑠美はあるファイルを取り出し、ペラペラと開く
その中には、ネクロに関係するニュースが書かれた新聞の切り抜きが保存されていた

瑠美「あった、これこれ」

加治木はある記事を指差す
イタリア語で書かれた小さい記事ではあったが、写真も載っている
モノクロ写真で良く見えないが、後ろに大きな怪物が倒れ、手前には外国人の男がいる

輝人「…“フランクフルトの英雄現わる”?」

瑠美「その記事さ、たまたまうちの研究員が見つけて、貴重な記事なんだよ。私もその記事を調べてみようとしたんだけど、検索しても、どこにも載ってないんだ。恐らく関係者が消したんじゃないかと思う」

輝人「何々?…“風を操る謎の怪物が現れたが、その怪物に勇敢にも立ち向かった1人の男がいた”」

興味を持ったのか、その記事を輝人は読む
内容は、風を操るネクロがオーバーネクロとなり、台風の様な大きな風を起こし、ドイツのフランクフルトを危険にさらした
そんな中、1人立ち向かった男がいた
その男は苦戦したものの、オーバーネクロに埋め込まれている“核(コア)”を見事に破壊し、フランクフルトを救ったと言う

輝人「…これ俺に何の関係あるんだよ」

瑠美「この事件がきっかけで、裏社会でネクロを殺す組織が現れたんだよ」

輝人「…!」

加治木の話を聞いて、輝人はさらに興味を持つ

瑠美「詳しくは分からないけど…ネクロを良く思ってない人達がいるのは知ってるよね?その中でも特にネクロに対して憎悪を持つ人達が集まって出来た組織だって」

輝人「それが、ネクロハンターとなったって訳か」

瑠美「ネクロは悪だと考えて、この世から消そうとする人がいるのは不思議じゃない。だから狙われることはおかしくない。…だけど、私はそうとは思わないな。斑目くんはもちろん、さっきの野木沢くんやパティシエールの森口さん、他のネクロだって全てが悪人じゃないんだし。その人達も生前と変わらない生活を送れるために、私達が頑張らなきゃいけないからね」

輝人「ありがとうよ」

加治木の言う通り、全てのネクロが悪いネクロだと決めつけてはいけない
だが、そう思わない者がいるのは紛れもなく事実だ

輝人(…そういや、炎はなんでネクロハンターになったんだ?あいつの過去は知ったが、ネクロを憎むような出来事は無さそうだった。むしろあのペンギンガールは…)

ふとネクロハンターの1人であるペンギンを思い出す
彼女は戦闘時、輝人と対戦となると、凄まじい憎悪を増して攻撃を仕掛けてくる
もしかしたら、何か過去にあったのかもしれない

輝人(…だとしたら俺が狙われるのも不思議じゃないか。ここからは、事務所で調べてみるか)





茉莉花「…うーん…」

その頃、愛知県警察署
屍人対策課の茉莉花は、調べ物をしていた
茉莉花の机には、大きなダンボールが乗ってあり、中にはファイルが入っていた

犬渕「ん?茉莉花、何してるんだ?」

茉莉花「あ、犬渕警部。いえ、昨日の“溶岩(マグマ)”のアビリティの事で思い出したことがありまして…」

犬渕「思い出したこと?」

犬渕は茉莉花の机の上にあるダンボールを見る
よく見てみると側面に名前が書かれている
茉莉花の名前ではなく、『陽光』と書かれている

鬼頭陽光、茉莉花の弟だ
昨年“植物(プラント)”のアビリティを持ったネクロに殺されてしまった
ダンボールに入っているファイルは、彼の遺品だ

茉莉花「陽光の物です」

犬渕「ほぉ…あいつこんなに事件の事を調べていたのか」

茉莉花「はい。それで…松房が起こした事件なのですが、“5年前の事件”と少し似ているところがあったと思いまして」

犬渕「5年前?」

茉莉花「これです」

見つけたみたいで、茉莉花はファイルを開いて、あるページを見せる
それはとある事件をまとめた資料だった

犬渕「!…これは覚えている。夏の時に起きた“財前夫妻の焼死体”だろ?」

そこに載っていたのは、5年前のとある事件の資料だ

5年前の夏
記録的猛暑だと観測されたある日、通報があった
なんとあの有名な“財前スポーツ”の社長とその妻が亡くなったと言う

財前スポーツ
それは一流メーカーで、スポーツに使う道具はもちろん、ユニフォームや運動靴、キャンプ用品までもが揃う
何よりこだわり抜いた素材なのに、とても安いと言うのが売りで、かの有名なオリンピック選手もそれを愛用しているほど人気なブランドだ

しかしその社長と妻が、自宅で亡くなってしまった
しかも焼死体だったと言う

茉莉花「…当時の使用人の話によると、財前夫妻は娘さんと共にプールを楽しむ予定だったそうです。ところが…」

犬渕「水を溜めていたプールは干からび、そして夫妻は焼死体で亡くなっていた。プールで消火は出来たはずだが、水が全く無くて、間に合わず絶命…幸いにも、残った娘は無事に保護されたそうだな」

茉莉花「はい。当時、弟も現場に駆けつけて事件の操作をしていました。この不自然な燃え方…まるで今回の事件と似てると思いまして」

犬渕「だが松房は、家やビルを焼いたりしたが、人は殺していない。…この事件は結局分からずお蔵入りとなってしまい、生き残った娘は行方不明となってしまった…」

茉莉花「財前夫妻の遺産も凍結したまま…」

犬渕「財前…あれ?どこかで…」