それから数分後
匠「……フゥ……」
フロント担当の匠は昼間の温泉に入っていた
ザァーーッとシャワーの音が響く
すると、戸を叩く音がした
トントンッ
匠「……?誰だ?」
哀幻波「俺です、黒木哀幻波です」
匠「あぁ…すみませんが、この時間帯はお客様は使用できませんので、もう少しお待ちください」
哀幻波「いえ、お聞きしたいことがありまして」
匠「なんですか?」
哀幻波「ここって、オバケは出るんですか?」
匠「オバケ?いやいやうちは小さいですが、そんな怖い噂は無いですよ?」
哀幻波「…そうですか、ありがとうございます」
匠「そのためだけにこちらに?」
哀幻波「いいえ、あともう一件」
匠「なんでしょう?」
哀幻波「太陽の両親が殺された事件です」
匠「あぁ…とてもお気の毒としか思えませんよ」
哀幻波「お気の毒…よくそんなこと言えますね?」
匠「?…どういうことですか?」
哀幻波「…なら質問を変えます。どうしてあなたが、温泉に入ってるんですか?“自分の服を脱がないで”…」
匠「…!」
ガラッ!
哀幻波はすぐに温泉の開き戸を開けた
するとそこには、桶を使って“血のついた”服を洗っている匠がいた
哀幻波「…やっぱりあんただったんだ」
匠「なっ…」
哀幻波「あんたが今朝の朝食の時、“浴衣”で現れたから何か違和感があると思ったんだよな。他の4人はちゃんと自分の職業に合ってた制服なのに、あんたはフロント担当とは思えない浴衣…。さらに現場となった部屋には壁や遺体から離れたところに大量の血が飛び散っていた。あれは犯人が急所を刺さないと出来ないし、自分にも返り血がかかるはずだ」
匠「い、いやこれは…」
哀幻波「けど血って簡単に落とせないんだよな。だからあんたは夜中、空大さん達を殺した後にここに来たんだ。一晩洗剤に浸してから洗おうとした。幸い、この旅館は朝風呂はやってないし、清掃員はお昼の時にしか来ない。つまり、この時間がベストだったんだ」
匠「な、何を言ってるんです?黒木さ…」
哀幻波「気安く俺の名を呼ぶんじゃねぇよ!」
バゴォンッ!
哀幻波は近くにあった桶を蹴る
哀幻波「血なんて余計に目立つよなぁ、誰かさんが言ってたよ。赤い服着てれば洗う手間が省けるって。あ、知ってるか?血には炭酸水とレモン汁がいいんだとよ」
匠「ハハハ…ならやってみましょうかね…。けど私があの2人を殺す動機なんて…」
哀幻波「あんたの事を調べていたから…だろ?」
匠「!」
哀幻波「空大さん達はあんたのことを調べていたよ。“潜り”であったあんたを。どこかで聞いたあんたは、正体がバレるんじゃ無いかと思って口封じのため殺したんだろ?」
匠「っ…」
哀幻波「それにいい濡れ衣を着せるやつがいたな、居候の蒼汰を犯人に仕立てるとか…けど残念だな。あいつにはアリバイがあった。俺らと一緒にいたアリバイがな。そうだろ?匠さん…いや、“九十九神也”さんよぉ」
匠「!」
哀幻波の言葉にビクリとなる
なんと、匠の正体は九十九神也だった
だが、まだ九十九は諦めない
匠「…九十九神也?何者なんですか?」
哀幻波「投獄中のフランケンの手下で、黒魔術を使う忍者集団の幹部。空大さん達を殺した本当の真犯人さ」
匠「へぇ…それは初耳ですね」
哀幻波「よく言うよ、そんな話を聞いて信じるのは…本人であるあんたしかいねぇからな」
匠「ですがなぜ俺が忍者?俺はここの旅館の長男ですよ?」
哀幻波「いいや、あんたは匠さんじゃない」
匠「その根拠は?」
哀幻波「さっき俺があんたに聞いた“オバケ”だよ」
匠「は?オバケだと?」
哀幻波「やっぱり知らないんだな。普通は旅館で何年も勤めていたらオバケの意味ぐらいわかるんだけどな」
匠「何…⁉」
哀幻波「オバケとは、予約が入っていないのに、予約したといって訪ねてくる客のことを言うんだよ。旅館の家族や蒼汰に聞いてみたところ、全員正解。あんただけだよ?怖い噂とか言ったのは」
匠「つまり…ハメたってことなのか?」
哀幻波「そういうこと。証拠もその制服を取り返せばあんたを捕まえることが出来る。まぁ落とせたとしても、あんたの部屋を調べれば空大さん達が持っていた資料や証拠が見つかるだろうし。さて…覚悟するんだな」
哀幻波は武器のカードを持ち出した