【支援するほど、ウクライナは滅びる】

アメリカ議会で、600億ドルのウクライナへの軍事支援が可決されてしまったというので、アメリカの軍事専門家のスコット・リッターは、これでウクライナは終わりだ、とものすごく怒っていた。

NATO諸国は、ウクライナに武器を送らないと、ロシア軍がヨーロッパまで侵攻してくると言い続けているから、これはヨーロッパを守るために必要な支援なのだという話になっている。しかし実際には、ロシアはヨーロッパに侵攻するつもりなどまったくない。キエフでさえ侵攻するつもりなどないのだ。占領する気があったら、とっくにしているだろう。現に2022年3月、軍事介入が始まった数週間後には、ロシア軍はキエフ付近まで来ていた。あのときキエフから撤退したのは、イスタンブールでの停戦交渉が成立したからだ。そのときの交渉では、ウクライナ軍がドンバスから撤退して、ドンバスとルガンスクの独立を認め、中立に留まることだけが条件だった。ロシアは、ドンバスを領土にする気さえなかった。

アメリカのジャーナリスト、タッカー・カールソンは、モスクワに行ったあとで、「ウクライナを軍事支援することは、ウクライナ人を殺すことだ」という動画メッセージを出していた。イスタンブールの停戦交渉を破棄して以来、ウクライナは戦争を続ければ続けるほど、領土を失い、犠牲が増えていくという事態になっている。とりわけ昨年夏の反転攻勢の失敗以来、一日に千人近くのウクライナ兵が犠牲になり、西側から送られてくる戦車や戦闘機が次々と破壊されていくようなことになっている。

いくら武器を送り込んでも、この状況は変わらない。武器を送れば送るほど、破壊されていくだけなのだ。それで、また新たにウクライナ兵たちが犠牲になることになる。NATOの軍隊も、傭兵という形ですでに大勢来ているけれど、やはり同じことだ。武器が来たら、それを使う人が必要になるので、ウクライナ政府はまた動員の枠を拡大したらしい。西側諸国に避難しているウクライナ人たちも動員しようとしていて、5月以降は動員対象になっているウクライナ人にはパスポートが更新されなくなるということだった。それで今、更新停止になる前に更新しようとするウクライナ人たちが、各国の大使館で長い行列を作っているということだ。

そんな状況で、ウクライナ軍の兵士たちは、戦う気などとっくに失せている。ただ一日も早く戦争が終わることを願っているだけだということだ。前線に出たらどんどん死んでいくだけなのがもうわかっているのだし、司令官は兵士たちに暴力をふるっているだけで、ちゃんとした司令さえ出していないと、投降して捕虜になったウクライナ兵たちは言っていた。捕虜になった方が、よほど人間らしく扱ってもらえる、と。まるで終戦間際の日本軍と同じような状況だ。ウクライナでは、西側諸国から巨額の支援が行っているはずなのに、現場の兵士たちは、武器も食糧もろくにない状態で戦わされているのだそうだ。

ウクライナは今や世界でも最も腐敗がひどい国で、支援のお金も武器も、現場に届く前に、大半が転売されて、政治家たちが着服しているということだ。ウクライナ議員のオレクサンドル・ドゥビンスキーは、このアメリカの新たな支援で起こることは、「アメリカの軍産ロビーとウクライナのエリートたちが儲けるために、ウクライナがさらに犠牲になる」ことだけだと言っていた。

ところで、600億ドルの軍事支援といっても、そのすべてがウクライナに送られるわけではない。そのうち80%は、これまでウクライナに武器を供給して空になった米軍の軍備を補填するための費用だという。つまり、大部分はアメリカの軍事産業に行くことになるのだ。残りの120億ドルほどがウクライナに行くのだけれど、これも実はクレジットとしてで、ウクライナが返済することが条件になっているお金だという。

アメリカは、もうウクライナに軍事支援する財政的な余裕がないからと、昨年から支援を停止していた。アメリカが支援をやめれば、ウクライナは停戦に応じるしかないから、これで戦争は終わるはずだった。ところが、アメリカは自分が支援する代わりに、EUに軍事支援を押しつけた。それで戦争は延々と続いていったのだけれど、今度はクレジットにするということで、ウクライナ支援に反対していた共和党議員たちを納得させて、可決にもっていったということらしい。

ウクライナ政府はすでに財政破綻しているので、クレジットにしたって返済する能力はないはずなのだけれど、アメリカはEUなどに保証させるつもりなのだろうと、ロシア在住のドイツ人ジャーナリスト、トーマス・レーパーは言っていた。アメリカは、アメリカの銀行にあるロシアの資産を経済制裁で凍結していたけれど、これをウクライナ支援に充てることになったのだそうだ。それで、EUが凍結しているロシアの資産も、保証人としてクレジットを返済するためにということで、ウクライナへの軍事支援に使わせようとしているのだろうと。

勝手に資産を凍結したり、それを自国の財産にしてしまったりしたら、通貨の信用は落ちる。実際そのために、世界中で米ドル離れが激しく起こっている。それで、まだ信用を保っているユーロでも同じことをさせて、ユーロの信用を落としてしまえば、米ドルに有利に持っていけると計算しているのだろうと、レーパーは言っていた。

気になるのは、あれほど頑強にウクライナ支援を拒否していたアメリカ共和党が、どうして急に支援に賛成したのかということだ。トランプは、自分が大統領だったら、そもそもこの戦争は起こらなかったと言って、ウクライナを支援するバイデン政権を批判していたけれど、今回のウクライナ支援については、反対しなかったのだ。下院は共和党が過半数を占めているから、共和党が反対していれば、可決することはなかったのに、だ。

トランプもやはりグローバリストの仲間なのだという説があるけれど、このことはそれを証明しているようにも思える。しかし、私にはどうもそういうことでないように思えるのだ。それというのも、トランプもやはりグローバリストの仲間だと言っている人たちは、その根拠として、在任中にロシア、中国、イランに厳しい経済制裁を科したということを言っているけれど、今のこの3国の状況を見れば、経済制裁がこの国々にダメージを与えたようには思えないからだ。そればかりか、この3国は今や軍事的にも経済的にもアメリカに対抗できる勢力になって、アメリカ覇権主義に終焉をもたらす勢いになっている。

アメリカが経済制裁を科すということは、アメリカ資本の支配から解放するということでもある。実際、ロシアはアメリカに経済制裁をかけられて、米ドル決済以外の取引方法を取る以外になくなった結果、ますます経済が繁栄することになった。アメリカ政府は、米ドルが国際通貨として循環することで入ってくる収益で、世界中に軍隊を駐留させるだけのお金を得ているのだとも言われている。それがまさにアメリカ覇権主義の元になっているわけなのだから、トランプは意図的なのか計算違いでなのかは別として、ロシア、中国、イランに厳しい経済制裁をかけることで、この3国を米ドルの支配から解放し、アメリカ覇権主義に亀裂を入れる元を作ったということになる。

トランプは、まるでそのときどきの気まぐれでこうした決定を行なっているように見せているけれど、彼はチェスの名手で、立体になった五次元チェスが得意なことでも知られている。実のところ、彼は先の先の先まで読んで手を打つという思考に慣れているのだ。そうした思考から出てくる結論は、普通の人にはまるで逆のことをやっているように見えるかもしれない。そうしたことをポーカーフェースでやっていたら、まるで気まぐれでおかしな手を打っているようにしか見えないかもしれない。そうしたことを考えたとき、トランプが急にウクライナ支援について考えを変えたのは、何か裏の裏の意味があるのではないかと、私には思えるのだ。

スコット・リッターは、いくらウクライナを支援しても、ロシアが勝ち続ける状況を変えることは不可能だから、これ以上ウクライナを支援して戦争を続けさせれば、ウクライナが消えてなくなることになるだろうと言っていた。7月には武器が切れるだろうし、その間ロシア軍はドンバスを解放し続けるだろう。今ウクライナが停戦に応じれば、オデッサとハリコフは失わないで済むだろうけれど、それも失うことになる。ウクライナは国を保っていることはできなくなり、分割されて消えてなくなることになるだろうと。

トランプは、民主党がウクライナ支援をしろしろとあまりにも圧力をかけてくるので、それに譲ったといった風だったけれど、実はまさにこの事態を想定して、バイデン政権のやりたいように道を開けたようにも思えるのだ。今回の決議では、ウクライナ、イスラエル、台湾への軍事支援が決まったのだけれど、この3つはどれも、周辺の国と紛争を起こして支配するために、アメリカの諜報機関が工作して、軍事化させた国だ。ウクライナはロシアと敵対するために、台湾は中国と敵対するために、イスラエルはアラブと敵対するために、アメリカ政府が武装させている。

しかし、ロシア、中国、イランが経済的にも軍事的にもアメリカに依存しないで強くなった今、ウクライナ、イスラエル、台湾は、もはや消えてなくなる運命にある。現に今、ウクライナで起ころうとしているようにだ。もともとはウクライナはロシアの一部だったし、台湾は中国の一部、イスラエルはパレスチナの一部だった。それが分裂させられて、敵対させられていて、そのために絶えず軍事衝突が起こり、ロシア、中国、イランは軍備を整えなければならないようなことになっていた。

だから、アメリカが今この3つの国に軍事支援するということは、この3つの国に戦争させて、結果的にロシア、イラン、中国がその国を軍事的に支配するように仕向けるということになる。その結果、ウクライナは国家としては消えてなくなり、ロシア、ポーランド、ルーマニア、ハンガリーに併合されることになるだろう。もともとウクライナは、これらの国から少しずつ領土をもらってできた国だったのだから、つまりは元の国の形に戻っていくということになる。台湾は、中国に併合されて、平和的な関係が作られるだろうし、イスラエルはパレスチナの一部になるだろう。

ウクライナ、イスラエル、台湾がこのように統合されたら、世界はどれだけ平和になることだろう? それによって、いよいよアメリカの軍事産業資本は世界を牛耳ることができなくなり、世界は戦争から解放されることになるだろう。

戦争なしに調和する状況ができるのなら、それに越したことはないけれど、アメリカの軍産ロビーはその方向へはどうしても動こうとしないらしい。それならば、止めようとするよりも、逆に背中を押して奈落に突き落とすというのも、一つの手なのかもしれない。


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