長編小説「思春期白書」 63~バンドエイド~ | 有沢祐輔の「空虚ノスタルジア」

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「やめなさいよ。無理強いしても結局は同じ事よ」

「だからってずっとここに居るわけにはいかないだろ?大丈夫だって、俺が付いてる」

「無責任なこと言わないで!実際、あんたはあのとき、居なかったじゃない!」

「それは…リレー中だったし…でも、何か言う奴が居たら俺が言い返してやる」

 

 

竹内まりやの歌詞のようだ。一触即発の事態にも関わらず、呑気な事を思った。

 

「けんかをやめて ふたりをとめて 私のために争わないで」

 

まあ、この場合は色恋沙汰とは無縁だけど…

 

ヒロは案の定「皆、反省してる」とか「何も心配しなくていい」とか聞こえのいい前向きな言葉を並べた。だけど、僕の臆病さはそのようなものを受け入れられるはずも無くスルーし、足に根っこが生えたようにここから離れることを拒んだ。そりゃ、ずっとここに居るわけにはいかないってのは分かってるけど、沁み付いた恐怖心は後ろしか向けやしない。

 

 

「とりあえず、先生が来てからにしたら?」

 

険悪な空気を生み出したのは紛れも無く僕だ。その罪悪感に謝罪を述べようとしたが、また、声は声にならず嗚咽だけを放った。背中を擦る公平のズボンに滴が垂れる。こんなにも情けない姿をユリちゃんやクリリン、いっくんにキシモン…皆に晒す羞恥、涙腺は更に刺激を受ける。そんな呼応など望んじゃいないのに。

 

 

鬼婆に再び手を引かれ、僕は相談室という場所に連れていかれた。恐らくは何かやらかした生徒のための生活指導室のようなものだろう。テーブルと椅子、何も置かれていない埃の被った棚、この殺風景さはテレビドラマの取調室を彷彿とさせ、僕に相応しい場所だと思った。

 

「彼には無理強いしないように言っておくから」

「…すみません」

 

手渡されたハンカチがくまのプーさんの絵柄、鬼婆は「イメージに合わないってね」と自虐的に言ってみせたが、つられて笑う余裕は無い。それでも、期待など抱いたことの無かった「教師」という存在に何らかの澄んだものを感じたのは確か、養護教諭の白鳥もそうだが、教師を一括りにする僕の捉え方は間違いだったらしい。鬼婆は泣き止むのを根気強く待ってくれた。5時限目を知らせるチャイムが鳴った後も…

 

 

とりあえず、母さんに知らせることだけは止めてほしいと懇願した。運動音痴は熟知だが、女っぽい云々が耳に入れば僕としても都合が悪い。親なんだからそういう部分に気付いてはいるだろう。だけど、それが理由であのようなことが起きたと知れば、最悪、性癖への疑惑を確信めいたものにするかもしれない。家探しされりゃ1発アウトだ。

 

しかし、いくら鬼婆が「無理に教室に入る必要は無い。保健室登校を構わない」と、こちらにかなり傾いた言葉を掛けても、母さんが身に来る以上、体育祭には参加するしかない。それなら、ヒロを頼って早いとこ教室に戻った方がいいようにも思えたが、逃走本能ってやつか、結局この日は保健室で過ごした。

 

あんなみっともない姿を見せたのに瀬川くんもいっくんも僕に対する態度は普段通りだったし、少しではあるが田村先輩との距離も縮まった。クセになるような居心地の良さに不安を感じないわけじゃなかったが、それでも、川のせせらぎに似たのんびりとした穏やかな時間は、僕の痛みに膜を張った。傷口に貼るバンドエイドみたいなものだ。違いと言えば、カサブタになりポロッと剥がれ落ちたりしない、ってとこかな。

 

 

「太一、一緒に帰ろう」

 

鬼婆が皆に何を言い放ったのか?

皆は何を口にしたのか?

ヒロの言葉を鵜吞みにしていいのか?

 

あらゆる戸惑いを抱えながら放課後の保健室を出ると、向こうから宮田が女子を引き連れてやって来た。その表情に険しさなどというものは無く、俯き加減の辺りは覇気を失ったようにも見えた。

 

「…さっきはごめんなさい。酷い事言っちゃって…」

「…別に、気にしてないから」

 

ずっと保健室で過ごしておきながら「気にしてない」というのは誰がどう贔屓目に見ようと大嘘なのだけど、だからといって責め立てる気も無かった。臆病の底辺に溺れた僕は穿った見方しか出来ない。ここに来たのも謝罪も嫌々に決まってる。鬼婆、もしくはヒロがそうするように言ったからだ。

 

「一緒に体育祭、頑張ろうね。あっ!放課後の練習は無くなったから安心して」

 

それを言い残して足早に立ち去った彼女たちの背中に、公平は苦虫を嚙み潰したような横顔を見せ、僕はただひたすら居座り続ける不安に肩を落とした。

 

腫れ物の存在だ。

 

どんなヘマをやらかしても常に温かい励ましが注がれる。そういう浮いた存在に成り果てた自分がとにかく嫌で嫌でたまらない。

 

「放課後の練習は無くなったから安心して」

 

詳しい経緯は不明だが、それも僕が引き起こした結果なのは確か。トシは内心、腹を立てているだろう。そういう想像ばかりが膨らみ、足がすくむ。

 

 

「太一、良かったらCDショップに付き合ってくれない?globeのCD、父さんに頼まれてるんだよね」

 

そういや、公平の父親はtrfが好きだったっけ。彼の気遣いに断る理由も意地も無く、僕らはひっそりと校舎を抜けた。トシやクラスメイトに鉢合わせたらどんな顔をすりゃいいのか、息苦しさを含んだ心配と隣り合わせの状態で…

 

 

(続く)

 

 

 

 

 

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