なぜ日本は原発を止められないのか?
🔳ジャーナリスト青木美希氏が100人超の取材で辿り着いた結論
「首相が決断すれば原発は止められる」
昨年から今年にかけ、日本の原発政策が大きく変わった。
できる限り減らすとしていたものが、脱炭素を旗印に新増設まで容認され、COP28(国連気候変動会議)では「2050年までに世界の原発容量を3倍にする」という宣言に賛同した。
福島原発からの海洋放出も地元関係者の理解なく強行された。
あれほどの大事故を起こしながら、どうして日本は原発を止められないのだろうか──。
30年にわたって原発問題を取材し続け、新著にまとめたジャーナリストに話を聞いた。
◆ジャーナリスト・青木美希さんインタビュー
──原発をめぐる方針転換をどう見ていますか。
ずいぶん目まぐるしく、あっという間にひっくり返るなと。
一番の問題は、説明責任を果たしていないことです。
再生可能エネルギーを推進してきた中で今、原発を優先するルールが作られ、電氣が余るからと、再エネに出力制御が行われています。
1回あたりの出力制御により発電できなくなるのは最大で原発3基分の電力で、非常にもったいない。
そういう議論なしに、ただやみくもに原発に邁進しているようにしか見えません。
──本を読んでハッと氣づかされました。2011年3月の原発事故で出された「原子力緊急事態宣言」は、12年以上経った今も発令中なんですね。
その事実が本当に知られていないですよね。
通常時だと被ばく限度は年間1ミリシーベルトですが、今は国が20ミリシーベルトで避難指示を解除できるようにしてしまっている。
つまり、まだ通常時に戻っていないのです。
年1ミリシーベルトは毎時0.23マイクロシーベルト。
除染後の避難解除された場所でも、それを超えるところがある。サーベイメーターで測ると、アラームがピーピー鳴る状況です。
──ニュースを見て「復興している」と思っている人も少なくない。被災地に頻繁に足を運ばれていますが、現実と報道のギャップを感じますか。
「復興に向けて、新しい建物ができた」などの明るいニュースを中心に発信されている状況です。
例えば、NHKのニュースについて本にも書きました。
福島県浪江町の津島という1400人が暮らしていた地域で、新たに完成したのは10戸の町営住宅。
とてもきれいな建物で、帰ってきた女性が「本当に空氣がいい」と話しているのが放送されました。
そこで、実際に現地に行ってみたんです。
その女性に会ったら、福島市に避難して、福島市で仕事をしているんですね。
じゃあ、どれくらいこの新しい住宅に住んでいるんですかと聞いたところ、「浪江には週2日くらいかな」と答えた。
帰ってきた方はもう1人いましたが、他の4世帯は移住者でした。
もともと浪江町に住んでいた方ではない。
明るいニュースも蓋を開けてみれば……。
本当のところは行ってみないと分からないんですよね。
──なぜ日本は原発を止められないのでしょう。100人を超える研究者や政治家など関係者を取材されて、どんなことが分かりましたか。
複合的な要因があるのですが、今回の原発回帰方針を見ると明らかなように、首相がまともなリーダーではないことが一番の不幸だと思います。
100年後、200年後の日本の将来をしっかり見据えて、グランドデザインをもとに国をどうするかを考えていけば自明の理なわけです。
国民の安全を守るというのが首相の責務ですから、その責務を放棄しているとしか思えません。
最エネが進まない理由は「どうせまた戻る」
──首相の決断があれば止められるということですか。
実はこの本を書き始めたきっかけは、ベテラン政治記者の先輩に「首相がやるって決めれば止められるんだよ」と言われたことでした。
本当にそんな単純なものなのかと思って調べ始めたんです。
同じことを小泉元首相もおっしゃっているし、「原子力ムラの村長は総理である」と原子力ムラの方々がおっしゃっています。
官僚の人たちに聞いても、「上がこうやると決めれば、日本の持続可能性を考えるのが官僚の仕事なので、方向性さえ決めてくれれば、それに合わせて施策と対策を打っていける」と言っていました。
──首相が決めれば原子力ムラは動く?
まず決めることです。
その上で安い再エネの蓄電池を開発する。
再エネを最大限生かすために連系線(電力会社間をつなぐ送電線)を太くする。
日本は連系線が弱いので、九州の電力が余っても本州などで使われていない。
これを強化しなきゃいけないという声がありながら、進んでいないんです。
今後、再エネで行くんだと決めれば、さまざまな課題を優先順位の高い順に解決していくことになる。
ところが、原発にまた戻るんじゃないかという感触が原子力ムラの人たちにあって、どうせまた戻るだろうということで、進まない。
再エネをやっている人たちもフラフラしてしまう。
裏切り行為というか、首相は日本をどうしたいのかと思います。
──首相が方向性を出せない背景に何がある?
よく言われるのは、米国の意向を聞いているということ。
しかし、実際その辺を調べている弁護士、シンクタンクの方が言うには、日本の原発推進派が米国にそう言わせているという構図がある。
日本の原子力産業が米国のシンクタンクに多くの資金を出していて、向こうからこだまのように響いてくるというのです。
──米国の意向ではなく、国内に原因がある。やはり原子力ムラですか。
そうですね。税金を原発に使える仕組みを長年使ってるわけです。
そこの利益集団の経済に関係しています。
企業の方にもちろんお話を聞いていますが、古い原発は減価償却が終わっているので動かせば動かすほど利益になるから、早く動かしたいと言う。
電力会社の昔の知人は「青木さん再稼働に協力してください。じゃないと、うちも経営が厳しいんですよ」と言っていた。
経営問題になっているのです。
だからこそ、政府がしっかり「再エネで行く」と決め、再エネをやれば経営が良くなるようなソフトランディングできる仕組みをつくっていく必要がある。
政府が決めることがすごく大事なんです。
──原子力ムラは、政官業に加え、学者、メディアの五角形。メディアの責任についてはどうお考えですか。
中学生ぐらいの時だったと思うんですが、新聞で「エネルギーのはなし」というコラムを連載していました。
放射線や放射能に慣れ親しませる形のコラムで、広告なのか記事なのか明示されていなくて。
読みながら、これは何なんだろうと思っていました。
広告だったんですよね。どうやって大口の広告を各新聞社が獲得して、電力会社が広告を利用してきたのかということだと思います。
■メディアが再び推進派の拡声器に
──事故を経て、メディアは今も原子力ムラの一角にいるのでしょうか。
事故前と完全に一致はしていないですが、復活しつつあると思います。
例えば海洋放出。
初めは大丈夫なのかという報道もありましたが、だんだんIAEA(国際原子力機関)も大丈夫だと言っているから大丈夫なんだと垂れ流す報道が目立つようになった。
結局、自分たちで検証せず、また原子力推進側の言うことをうのみにして国民を納得させてしまいました。
推進側の言うことをそのまま拡声器になって信じ込ませる。怖い構図が復活していると感じます。
──今回の出版を、所属する大手紙は認めなかったんですよね。驚きです。
社外出版手続きに基づいて届けを出したのですが、「これは過去の職務によって取得した知識や情報が主な内容となる」と判断されてしまった。
「本来の業務に傾注していただきたい」「編集部門の取材活動と競合し、妨害、阻害する恐れがある」などの理由で認められませんでした。
でも、ここまで申し上げたとおり、原発事故後の本当の現状が伝わっていないことや、メディアがまた推進派の拡声器になっているのが心配で、伝えなければと思いました。
取材に協力してくれた方々もどんどん亡くなっていくものですから、絶対に出版しなきゃいけないと思って準備してきました。
ようやく出せました。
<転載終わり>
先日、樋口元裁判長の奥様から資料が届きました。
樋口英明氏は、福島原発事故後、初めて大飯原発の運転差し止めを命じた元裁判長です。
退官後も、原発をなくす為の活動を精力的にされ、『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』と言う映画にも出演されています。
毎日新聞 有料記事↓
樋口氏は、裁判を担当する前は原発問題にさほど関心がなく、原発はかなり安全なのだろうと思っていたそうです。
ところが、調べれば調べるほどそうではないことに驚愕されたのです。
そして、原発の耐震性が低く甚大な危険性があることを人々に示し、国民の命を守るためにただちに原発を止めなければならないとの判決を下したのでした。
「無知は罪、無口はもっと罪」
樋口氏は語ります。
原発の危険性を知ったのに、それをみなさんに告げないのは、さらに重い罪になる。
多くの人は「大きな事故があったのだから、今はきちんとした対応がとられているはず」と思い込んでいる。
脱原発はやろうと思えばできます。やらないのは無能、無責任です、と。
さらに、脱原発運転の最も強力な敵は、先入観だとも。
●審査に合格しているのだから、事故後に再稼働した原発は安全なのだろう。
●事故後、それなりの避難計画が立てられているのだろう。
●政府が推進しているのだから、原発は必要なのだろう。
●原発問題は難しいからわからない。
しかし、原発は災害時に運転を止めただけでは安全にならず、冷やし続けなければならないのです。
そして、停電や断水時には極めて甚大な事態に陥るということを忘れてはいけません。
今年の5月5日に、石川県珠洲市(すずし)で震度6強の地震がありました。
私は、その1ヶ月後に能登半島の先端を訪れました。
実はここは、珠洲原子力発電所の立地予定地だったのです。
しかし、少ないながらも脱原発派の人々の粘り強い反対運動により、2003年に建設は凍結されました。
もし、彼らの反対運動がなければ、福島原発事故に続く悲劇が起きたかも知れないのです。
能登半島の先端は、今も地下から『流体』が上がってきており、地震が頻発しています。
そんな場所に、原発を建てようとしていたなんて‼️
地球の動きを全く理解していない人間のやることは無謀だと、つくづく感じます。
だから、私たちが声を上げることはとても重要なのです。
そして、原発事故を体験し、その危険性を知った我々の責任は極めて重く、私たちの後に続く人々のためにも、これ以上「負の遺産」を増やしてはならないと樋口氏は訴えているのです。
樋口英明氏↓
岸田首相、今、脱原発に舵を切れば、支持率、めっちゃ爆上がりですよ!!