16日の「報道ステーション」に東大教授である姜 尚中(カンサンジュン)さんが出演され、ドイツで取材した事を話されていました。
それをまとめてみたいと思います。
ドイツのイザー原発1号機(写真左)は、福島原発の事故以来稼働中止になっている。
ドイツは2022年までに、国内17基の原発全てを止めるという。
原発事故の当事国である日本でさえ、まだ脱原発に至っていないのに、ドイツのその決断はどうして可能だったのか?
ドイツ留学の経験を持つ姜さんが、脱原発の国の現実に迫った。
1973年に運転を開始したグライフスバルト原発は、東西ドイツ統一後、旧ソビエトの技術が信頼できないとして1990年に停止した。
その5年後から廃炉作業が始まった。
敷地には、解体された部品がまるでオブジェのように置かれていた。
廃炉作業では建屋から、圧力容器、タービン、配管パイプなどを取り出し、それぞれ解体して、放射能で汚染されているものは除染する。
しかし、放射線量の高いものは敷地内の中間貯蔵施設にそのまま移される。
中間貯蔵施設内部のガンマ線は、毎時50マイクロシーベルト。ここには格納容器や圧力容器などが保管されていた。
圧力容器など放射線量が高いものには、特殊な覆いが施され、30年以上ここで保管される。
そして放射線が下がるのをひたすら待つ。
一方、放射線が低い部品は解体除染作業所で処理が行われる。
廃炉で発生したスクラップは、約180トン。その3分の1が放射性のスクラップだ。
こうした部品は、除染をしやすくするために熱カッターを使って小さく解体される。
防護服を着た作業員が、密閉された作業所で部品を切り刻んでいく。
廃炉開始から17年、ずっとこうした作業が続けられてきた。
これは本当に気が遠くなるような作業だ。
細かく解体された部品は、次に除染に回される。鋼の粉を吹き付けて表面の除染をする。
作業員の年間被曝量である16ミリシーベルトを守るため、1日の作業時間は2時間が限度。
2000気圧という高い水圧での除染や、化学薬品を使っての除染。
現在800人以上が廃炉作業に当たり、既に3000億円の予算が使われたという。
作業は2014年には終了する予定だ。
廃炉というのは、時間もお金もかかり建設よりもずっと複雑なのだ。
何よりも、社会に対する透明性が必要になる。中間貯蔵施設には、約5000本もの使用済み核燃料も保管されているからだ。
その事が、近隣住民の不安を抱かせる原因になっている。
ドイツはチェルノブイリの事故の時に、深刻な放射能汚染を体験していた。
ちょうど放射性物質を含んだ雲が、バイエルンの上空を通る時に強い雨が降ったのだ。
だから、今回、福島の事故があって論争が起きたわけではなくて、それよりも30年以上前から激しい議論が続いていたのだ。
1986年のチェルノブイリ原発事故は、ドイツに大きな反原発のうねりを巻き起こす。
稼働する寸前の原発は、解体を余儀なくされ、高速増殖炉の施設は遊園地に変わった。
最初に「脱原子力」を決めたのは、緑の党と社会民主党のシュレイダー政権だった。
続くメルケル政権で、脱原発路線はややブレたが、福島で事故が起こり、メルケル政権は改めて脱原発に舵を切った。
脱原発の決断は、ドイツが国をあげて再生可能エネルギーへのシフトを進めてきた事も背景になっている。
姜さんが、かつて留学していた町エアランゲンは、既に家庭用電力の半分以上が再生可能エネルギーになっていた。
ドイツでは、再生可能エネルギーの助成金を電気料金に上乗せしているため、電気代がその分高くなっているが、それでも人々は高くても自然エネルギーを選択している。
さらに、脱原発の決断をきっかけに再生可能エネルギーへの転換は加速している。
多くの競争が生まれ、再生可能エネルギーのコストが劇的に値下がりしているという。
この2年間で、太陽光発電のコストは3分の1に下がり、原発のエネルギーの方が高くなっている。
ドイツは昨年、電力が余り、原発大国フランスへも電気を輸出した。
緑の党: ヘーン議員
「日本の国民が受け入れれば、脱原発をして再生可能エネルギーに転換できます。大きなチャンスです。
このチャンスを何とか活かして欲しいと思います。」
姜教授
おそらく、日本以外で事故があったら、このようには変わらなかったかも知れない。
技術と科学の先進国である日本で原発事故が起きた事に、外国はショックを受けたのだと思う。
我々は、何を大切にして、それを後世に残すかが問われている。
具体的に言えば、自然だとか環境だとか、商品化できないものに価値がある。
だから、少しくらい高くても我慢しましょう、となる。
公共的に「ガラス張り」にした上で、エネルギーのいろいろな選択を国民ができるようになるといい。
日本もやろうと思えばドイツ以上の事が出来るはずだ。
日本は、今まで体験もした事のない凄まじい状況の中、気が遠くなるような廃炉作業もやって行かなければならない。
廃炉以前に、メルトダウンした核燃料の場所さえも掴めていない状況で、この先何年かかるかも分からない。
廃炉になるまで20年以上かかるかも知れない。ロボットが使えないから人間の手でやるしかない。
ドイツでは、廃炉に17年間で3000億円使っている事を考えると、本当に原発は安いのか?と思う。
*ドイツにも「原子力村」はあるか?という古館氏の質問に答えて*
ドイツには、日本のような「原子力村」というものはないと思う。
「津波」と同じように「原子力村」も世界用語になるだろう。
<まとめ終わり>
本当なら、ドイツより先に日本が脱原発をするべき所でした。
外国からみたら、こうまでして原子力にこだわる姿は滑稽にさえ映るでしょう。
でも、国民の大多数は脱原発になることを望んでいると、私は思います。
それをどうクリアしていくかが、今後の課題です。
ドイツのように、国を引っ張ってくれる政党が出来るとよいのですが。
廃炉にするにも、長い年月と莫大な金額、そして作業員の深刻な被曝という問題を抱えている原発。
間違いに気づいた今からでも、原発をなくしていく方向に早く取り組むべきでしょう。
何世代も先の子孫たちに、こんなプレゼントを遺したくありませんから。
番組動画はこちら 約16分
姜尚中が見た「脱原発」 ドイツで今起こっていること
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