環学連通信 -9ページ目

環学連通信

各地の生物多様性に関心のある若者が中心となり環境保全学生連帯会議が発足しました。
日本中の水辺の再生を目指し日々活動中!

有明海という新なフィールドでの活動は、環境について学んでいる私に大きなインスピレーションと経験を与えてくれた。固有種を始め、全国でも数を減らしているさまざまな生物が細々と生き残れているこの生物多様性的にも貴重な環境をこれからも持続的に保護していき、もっと多くの人に有明海の現状を知ってもらうことが大切なのだと感じた。
舟木さん



今回の会議にて最も印象的だったことは「同年代の生物好きとの交流を通じ、己の世界を広げられたこと」にあると思っています。自分よりも生物への知識向上に熱心な者、生物を守るため実際に大規模に活動している者…数えたらキリがありません。
お恥ずかしながら、これまで自分は他人より知識を多く持ち、考えていることを実際に行動に移し、それを自負している節がありました。それを完全に否定する気はありません。
しかし、もっと凄いことをやっている人達の「存在を知っていること」と「その者たちと言葉を交わすこと」は全く違うことでした。
後輩からこんな言葉を言われたことがありました。「自分の生き物好きなんて、先輩方の知識量から比べたら些細なことです」と。今ならその気持ちがよーっく分かります。会議の時、種類の話をしているのだろうけどさっぱり内容が頭に浮かばない。深夜まで議論しておいて、そのあとも海に行くわ日の出前にまた出掛けて行くわ、何者だよコイツラと思ったことも一度や二度ではありませんでした。もう皆さんから勉強と圧倒されっぱなし、感服でした。皆さんと肩を並べられるような人物となりたいです。
有明海そのものを目にしたことは、実を言うと物足りない気持ちが強いです。次はもっと泥の中の命を見たいです!
こんな私でも、今回会えた方々に、多少なりとも影響を与えられていることを祈るばかりです。爬虫類飼育環境という、全然違う分野の人間ですが、どうかまた会議に参加できるご縁がありますことを。
渡邊さん


第一回環境保全学生連帯会議、総勢12名からなるこの会議は、私にとって特別なものとなりました。会議前日より少しずつ集まり始めたメンバーからは、全員環境問題に対して強烈とも言える程の熱意を感じました。『これだ!これを待っていたんだ!!』と興奮して叫びそうになったのは、今でも鮮明に覚えています。
会議では、メジャーな環境問題である外来種(主に魚)問題や、開催地に特化した、ヤベガワモチ(巻き貝の一種)の保全などについて、参加者各々が知り得る情報や観点を元に議論しました。会議には、森里海連環学の提唱者である、京都大学名誉教授の田中克先生をお呼びし、H to O studies (Head-water to Ocean。H2Oと掛け合わせている)などについて話していただき、とても勉強になりました。室内で会議をするだけでなく、実際にフィールドに出て、有明海の現状や、そこに生息する珍しい生物を目にすることができました。とても内容の濃い三日間になったと思います。
学生という非力な立場にありながらも、こうして素晴らしい仲間と出会え、議論し、感動を分かち合えたのは、主催して下さったNPO法人のSperaさん、会議のお手伝いをして下さったボランティアの方々、そして環境保全学生連合のリーダーである小宮君のお陰です。本当にありがとうございました。
環境や生物について少しでも興味のある方がおられましたら、私たちと一緒に活動してみませんか?我々メンバーはあなたを心待ちにしています。環境保全学生連合が全国規模になる日を願って。
言美さん



今回の会議は私にとってとても大きなものとなりました。生まれも育ちも違う、しかし環境や生き物に対して胸の内に熱いものを持つ学生が柳川に12名集まりました。
環境問題について会議をしている時、私はみなさんの熱気に押されあまり発言はできませんでした。しかし、胸が熱くなるのを感じました。「なんて大切な時間なのだろう」と思い、終わってほしくない気持ちで一杯でした。干潟の見学・田中先生によるレクチャー・会議・柳川の見学、全て充実した時間でした。私にとっては知らない事ばかりで、とても勉強になりました。
環境保全連帯会議に関して1つ希望を言うのなら、女性枠を少し増やして欲しいかな?という思いがあります。環境が多面的に見なければいけないのと同じように、男性目線だけでは意見が偏ってしまうことが必ずあると私は思います。
今回の環境保全連帯会議を設けられたのは、SPERA様・料理を用意してくださった方々・宿泊とご飯を用意していただいたさいふやのマスター様・この会議に誘ってくれた森光くん・リーダーの小宮さんなど沢山の力があったからです。本当にありがとうございました。
みんなで集まり、白熱した議論ができる日を楽しみにしています。
かじさん


最近メディアで大活躍中の生物ライター・平坂寛先生をお呼びしたサイエンスカフェを開催しました!





最近は変な生き物を食べるエキスパートとなりつつある平坂先生。

「捕まえる生物学」と題し、生き物を捕まえることで学ぶことを話してくださいました。




クワガタを捕まえることは、実はこれだけ生き物に詳しくなければならないのです。

生き物を捕まえることは、生き物を知る近道というのもなっとくです。





また、食べることでさらに深く分かることもあるそうです。

デンキウナギ、ウナギ、ヌタウナギそれぞれの特性、そしてそれを捌いたことで分かる体の特徴のお話。


例えば爬虫類でも、ヘビ、トカゲ、ワニは鳥に近い味がしますが、カメは違うそうです。カメは爬虫類に括られているけど、実はトカゲやヘビとは全く別の系統から進化した生き物なのだそうです。

カエルは鶏肉に近いのではなく、実は爬虫類に近い味。しかしオタマジャクシは意外と魚に近いなどなど。


見方を変えてみると、実に面白い生物の進化が見えてきます。


生き物を捕まえて、聞いて、嗅いで、食べることで生き物を知ることができます。


それが、自然や環境に関心を持つきっかけになるはずです。



というわけで、夏休み……というか冬休みでも生き物を探しにいきましょう!


非常に分かりやすく、素晴らしいお話でした!





平坂先生、ありがとうございました!
はじめに
環境保全連帯会議とは、これからの時代を担う若者達自身が、悪化する自然環境を保全し持続的に生態系サービスを利用していくための具体的な方法を考察し活動に移していくことを目的としている。
人々の自然離れが進む現在、環境問題への無関心が広がっている。今日の多くの活動は生物多様性の真価を伝え、環境保全活動の啓発が重視されている。そこで、日本各地の生物多様性に興味関心のある若者を集め、将来社会全体の意識改善が行われた場合のモデルケースとしての“今を生きる世代”による行動が必要である。

有明海塾 塾長







という建前のもと、環境保全学生連帯会議がスタートしました。








(森は海の恋人運動の畠山重篤氏)
この会議の発端は、2016年9月に熊本県荒尾市で開かれた有明海再生シンポジウムでした。このシンポジウムを受け、有明海塾塾長の小宮と鳥取環境大学生物部の森光が学生の環の必要性を感じ、行動を起こしました。

2016年10月15日、福岡県柳川市に若者が運営する水族館“やながわ有明海水族館”がオープンしました。今回の会議は、この水族館を中心に行うことが決定しました。










“環境保全を考える学生の環を作る”

決まっていることはそれだけですが、12月28日、千葉、静岡、愛知、富山、鳥取、福岡と各方面から有志が集いました。








干潟生物調査


プランクトンネットを使った調査。
カイアシやアミ類の他、スジハゼCやイソテッポウエビの仲間などが入りました。



捕獲されたハゼクチ




かなりの数が確認された外来種ヒラタヌマコダキガイ。










筑後中部魚市場の朝市の見学








水路生物調査

同定作業。カゼトゲタナゴを含めタナゴ5種を確認。








水族館での本会議
28日午後、やながわ有明海水族館2階にて意見交換会が始まりました。






まずは「里海連環学」の提唱した田中克京都大学名誉教授に講義をして頂きました。

(以下要約)

かつて豊穣の海と言われた有明海、その所以は正しく森と海の繋がりにありました。流域面積が海面面積の5倍に達し、九重、阿蘇、脊振、太良、雲仙という火山に囲まれた有明海は、火山灰の微粒子を含んだ水が流れ込みます。この微粒子が有機懸濁物の元となります。これがプランクトンの餌となり、豊富な魚介類を生み出していました。


有明海の荒廃について。
田中先生は三つの点を上げました。

・筑後大堰からの取水
福岡都市圏の水不足解消のために作られた筑後大堰から、一日17~20万tの水が取水されています。これにより、本来有明海に供給されるはずの養分やそもそもの水量が減少してしまいました。

・諫早干拓
広大な泥干潟が失われた他、締切により調整池内部に溜まった猛毒アオコやヘドロが、干潮時に有明海に排出されるため周辺に悪影響を与えています。

・筑後川川砂採取
筑後川の川砂が、高度経済成長時にコンクリート用材として大量に採取され、干潟の更新がされなくなりました。


これらの問題をはじめ、海底陥没や貧酸素塊など、数多くの問題が重なり合い9万t採れたアサリが600tにまで落ち込みました。

同様の問題に、琵琶湖のセタシジミも上げられました。

公害時代から水質が改善されたのにも関わらず、砂が代表する底質環境の悪化や森が海へ与える養分の断然により、生物が回復しないということです。




講義の後半は、東北の津波についてでした。津波のもたらした壊滅的な被害に対し、自然は想像以上の再生能力を見せ、油が浮き火の海となった場所でさえ、すぐに生き物が戻ったそうです。




また地盤沈下により数多くの干潟が復活し、そこにアサリを初めとする生き物がやってきたそうです。写真は、震災時から暫く成長を止めていたと思われるアサリの殻です。その痕跡がはっきりと見て取れます。


しかしながら、今その干潟の多くは埋め立てられたり、防潮堤により失われました。一枚目の写真の塩性湿地は、住民は高台に移りましたが、それでも行政の工事は止まらず、土地を買い取ることで埋め立て工事を阻止した数少ない例だそうです。


田中先生は終盤に「地球生命系の免疫システム」を見直して行かねばならないと述べました。

ボルネオは、私たち先進国へパーム油を輸出するためのアブラヤシ農園が広がり、雨が農薬や表土を川に流し、そして海を殺す。まさに負の森里海連環があります。


森里海連環学

海の再生→住民の再起に繋がる。
森と海と人と、それらを全て含んだ学問。

H to O studies
源流から海までを考える学問。

H2O studies
言わば水の学問。

これからは「水際の保全と再生」を考える時代なのです。











田中先生の講義の後に、学生らによる会議が始まりました。

生物多様性を守るためには、具体的には何をしていかねばならないのか。

(以下、概要)




まず、そもそも私たちの望む環境とは何なのかを考えました。

生物多様性の保たれた環境→持続可能な環境(利用)
・人が入りやすい自然

主軸となるのは、やはりこの考え方です。生物多様性がもたらす生態系サービスの価値を伝えることが何よりも重要です。

また人が入りやすい自然は、実際に自然を触れることで自然への親しみを養い、環境問題に関心を持って頂くことに繋がります。




理想はともかく、我々はどう行動していくか。







まず、1つは「ヤベガワモチの保全」が掲げられました。ヤベガワモチとは、矢部川水系や本当に僅かな地域にのみ生息する有明海固有種(絶滅危惧1A類)です。

ヤベガワモチは環境の良い干潟にしか生息していません。そして、ヤベガワモチの最後の生息地(=矢部川水系最期の良質な塩性湿地)が現在失われようとしています。

その最たる要因はヤベガワモチが知られていないことにあります。

知られずに絶滅していく生き物、これはよくある話です。しかし、どうにかこれを、私たちがアクションを起こすことで救えないかということになりました。






具体的かつ積極的な環境保全を進める上で大切になることは「分かりやすさ」だと考えられます。

ある生き物を守ろうと考えた時に、大衆の理解を得られなければ「たかが生き物」で潰されてしまいます。

世の中の人に「自然を守るべきか」とアンケートを取れば、大半の人が「守るべき」と答えるでしょう。しかしながら、同時に自然と自らの生活する社会が密接に関わりあっていると感じている人は少ないでしょう。

“自然を守ること”への良いイメージを持ちながらも、実際には無関心な場合が殆どです。

そこで私たちが起こすべき行動は、自然は実際には身近に存在することを分かりやすく伝え、それを守ることで社会にどのような利益がもたらされるかを提案することでしょう。



ヤベガワモチの例で言えば

ヤベガワモチが生息できる塩性湿地は非常に良好な環境があるため、干潟の浄化作用のみならず、餌場、産卵地としての機能も期待できる

この塩性湿地が失われればそれが失われる。

ヤベガワモチの生息する塩性湿地には有明海で特に有名なムツゴロウが見られる他、甲殻類が豊富。また矢部川水系塩塚川に僅かに残るシチメンソウなどの生息地かなもなり得るため、観光資源としても活用できる。

観光資源や干潟の浄化作用といった、生態系サービスの分かりやすい例を示す必要があります。


また、マスメディアや法律も積極的に利用していく必要があります。
今日の日本には、特定外来生物法や生物多様性国家戦略、河川法などがあります。私たちはこれらを賢く使っていかねばなりません。


シンポジウムの開催や各地の支援を利用することも提案されました。各地の自治体やNPOの支援を積極的に使い、活動を全国に普及させていくことも、この運動には必須です。
既に藤前干潟と有明海の干潟をテーマとしたシンポジウムを愛知県で開くという具体案も動きつつあります。

連帯会議を各地で開催することで新たな参加者を集め、今後の活動に繋げていかねばなりません。

今回は有明海塾が中心となったため有明海の干潟が取り上げられましたが、このような場所を増やし、各地の若者がお互いに助け合うことがこの連帯の大きな目的です。

つまるところ「若者なりの行動力で使えるものをフル活用し、水辺保全の“前例”を作っていくこと」が環境保全学生連帯会議の主軸となりました。この前例が、いつか当たり前となった頃には生物多様性の未来は明るいでしょう。

「2017年夏、ここにもう1度集まりましょう」

そんな形で、学生連帯会議は幕を閉じました。