中学生の頃だったろうか、「サボる」という言葉を漢字で書こうとして辞書を引き、はじめて「サボタージュする」の略だということに気がついた。ずっと純粋な日本語だと思っていたので驚いた記憶がある。日常的に使っている言葉は、昔からあったかのように思ってしまうものだが、意外に新しいということがある。
この業界では「ひもつく」という言葉がよく使われる。個人的には「ひもづく」と言う方が多いのだが、同じものだろう。データ構造に関する文脈などで、「繋がっている」、「関連している」といった意味でよく使う。たとえば、「従業員のデータは部門コードで部署マスターにひもづいている」という具合である。
しかし、この言葉、メールに書こうとすると漢字変換できない。辞書で調べても出てこない。実は、最近生まれたいわゆる「オトナ語」なのである。仕方がないので「繋がっている」とか「リンクしている」などに置き換えてみるが、文脈によってはしっくりこないこともあり、ちょっと困る。
まぁ、どのみち受託システムに関する文章は専門用語のオンパレードである。関係者が読んで理解できる言葉であれば、メールで使うくらいは構わないだろう。とはいえ、平仮名では格好が付かないので、「紐付く」と表記することにした。
逆に、きちんと定義された「正しい」言葉であっても、それを読む人が理解できないものを使うのはよくない。先日も、あるシステムの画面に、
20バイト以内で入力してください。
というエラーメッセージが出てきて、エンドユーザーが「意味が分からない」と言っていた。システムを作る側は、「バイト」という単位にあまりに馴染んでしまっているので、思わず使ってしまったのだろう。しかし、一般には、「バイト」といえば「アルバイト」の略である。
ここは、ユーザー層を考えて「バイト数」ではなく、「文字数」で表現すべきところだった(細かいことをいえば、文字数とバイト数との関係は文字コードセットによって違うので、単にバイト数を示すだけでは、いずれにせよ不十分である)。
バイトといえば、「バイト敬語」が日本語の乱れとして問題視されている。「1万円からでよろしかったでしょうか?」のような、コンビニやファミレスの店員などが話す独特の言葉である。
私もこうした「乱れた」とされる言葉には違和感を感じる方である。しかし、言葉が本来「変化する」という特徴を持っていることを思い出すと、あまりこだわることもないか、と思い直す。何を基準に「乱れている」というべきか分からないからだ。
特に、そう思わせるのが「全然」の誤用問題である。私はずっと「全然」という言葉がその後に否定的な意味を伴わずに使用されるのは誤用だと信じていた。つまり、「全然良くない」は正しいが、「全然良い」のような肯定的な表現は最近の「日本語の乱れ」だと思っていた。しかし、調べてみると実はそうでもない。「全然」の肯定的な表現は昔からあり、漱石や鴎外も使っているというのである。
結局、言葉が「正しい」かどうかというのは、それを使う人同士が持っている「基準」に合っているかどうか、という程度でしかないのだろう。つまり、うまくコミュニケーションするには、「相手が正しいと思う言葉を使え」ということである。相手によっては、自分より「基準」が厳しい場合だってあるだろう。そう考えると、「ひもつく」などという辞書にない言葉に違和感を感じる人もいるかもしれない。とりあえず、設計書などの正式な文書には、「紐付く」などと書かないようにしようと思う。
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