えいやぁと眉を引く話 | 悪態のプログラマ

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とある職業プログラマの悪態を綴る。
入門書が書かないプログラミングのための知識、会社の研修が教えないシステム開発業界の裏話は、新人プログラマや、これからプログラマを目指す人たちへのメッセージでもある。

「えいやぁ」という言葉がある。単なる掛け声ではなく、「思い切って」とか「勢いにまかせて」といった意味のいわゆる「オトナ語」だ。「えいやぁで決めちゃいましょう」といった具合に使われる。「ほぼ日刊イトイ新聞」の「オトナ語の謎。」では、「えいやっ」と紹介されているが、私の周りでは、どういうわけか、その意味とは裏腹に「えいやぁ」と勢いなく発音される場合が多い気がする。

実際にどう使われるかというと、例えば、開発工数の見積(あるいはスケジューリング)をするようなときだ。開発工数なんてやってみなきゃわからないというのが現実なので、結局のところ、えいやぁと気合で決めてしまう。あるいは、ユーザー要件が決まらないとき。無理やり期限を設定してプレッシャーをかけ、顧客の責任者にえいやぁと決めてもらったりする。



こういうと、いいかげんな印象を受けるかもしれないが、この「えいやぁ」というのは、ある程度必要なものである。「えいやぁ」ができないプロジェクトでは、決めなければならないことがいつまでも決まらない。「もう、どっちでもいいから誰か決めてくれよ」と言いたくなるような状況が多発するのである。


もちろん、皆が「誰かが・・・」と思っているからそうなるのだ。誰も決定したことに対する責任を取りたくないのである。自分が決めてしまって、あとで問題が起こったら困るというわけだ。



SE で言えば、仕様を全てお客さんに決めてもらわないと、気がすまないという人がいる。お客さんに細かい質問をするのだが、お客さんからは「そんなのどうでもいいから、好きなようにしてくれ」と言われたりする。


もちろん、システムを受託開発する場合、最終的な仕様の決定権は顧客側にある。しかし、明らかに顧客にとってこだわりのなさそうな問題は、開発者の「おすすめの仕様」で進めていかなければ、効率が悪い。顧客には、ユーザー・レビューやユーザー・テストなどの際に、まとめて確認してもらえばよいことである。



例えば、理髪店では、いつも「眉の下を剃るかどうか」を聞かれる(つまり、マブタのことなのだが、なぜかいつもそのように表現される)。しかし、「眉の上を剃るかどうか」を聞かれたことはない。眉の上については、理髪師が勝手に剃ることを決定しているが、ほとんどの客はそれで文句は言わないだろう。


この眉の上と下を分ける境界(つまり眉そのものか・・・)をどこに引くかということ、つまり、顧客に決めてもらうべきことと、自分で「えいやぁ」と決めてしまってよいこととの境界を見極めることが重要なのである。


開発者として経験を積んでいけば、ある程度は常識的な境界は分かってくる。しかし、顧客によって、「おまかせタイプ」だったり、「こだわりタイプ」だったりと、大きく違ってくるので、簡単にはいかない。このあたり、顧客の顔をよく見ながら、その都度考えていくしかないのである。







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