先日、恵文社で見つけた本。
以前、「柿の種」という短文集を読んだことがありますが、こちらはもっとしっかりとした論考をまとめた随筆集で、地震、津波、台風、噴火といった天災、そしてそれらの災害に対する備え、日本の風土と日本人の自然観などを主題としたいくつかの随筆を、山折哲雄さんが編纂したものです。
寺田寅彦は、日本の自然について、その特異な地理的条件や成り立ちから、多大な恵みをもたらす「慈母」の一面と、時折、不可抗な災害をもたらす「厳父」の一面があり、その二面性が他の国より顕著であることを明確にし、その中で日本人は自然に服従することでその恵みを十分に受けることを学び、その知恵を受け継いできたこと、そうした日本人の考え方が、西洋の文化や科学が取り入れられてさらに発展することにより忘れられ、自然に抗うようになったこと、その結果として災害がより激烈となり、関東大震災などの災禍を招いたことを指摘し、こうした経験を踏まえて災害にどう備えるべきかを考える必要があることを説いています。
物理学の専門家でありながら、自然科学と人文学を融合させたその論考は、現代においても色褪せるものではなく、ほとんど100%頷けることばかりです。
これらの随筆が発表されたのは昭和初期のことですが、今ほど科学や人文学の発達していないこの時代にこのような認識を持っていたことには大変驚かされます。
「天災は忘れた頃にやってくる」という警句は寺田寅彦の言葉だと言われており、この本の中にもそういう文章が登場しますが、現代の日本人は、寺田寅彦が残してくれた叡智をどれくらい活かせているのでしょうか?
滅多に怒らない厳父の怒りに備えよと言われても、なかなか六つかしいことではありますが、特に過去に繰り返し発生している災害の被災地域については、来たる大災害に備え、まだまだやれることがあるのではないかと思います。
あと、この本の中に、何故か一つだけ毛色の違う「何故泣くか」という随筆があったのですが、この考察がとても面白かったです。