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峠(上) (新潮文庫)
810円
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読もう読もうと思いつつなかなか読めなかったこの作品をようやく読みました。
三河時代から家康に仕える牧野家、越後長岡藩7万4千石。
この作品の主人公は、この譜代藩の家臣、河井継之助。
幅広い見識と時勢を見通す目を持ち、その実力と実績を認められて家老にまで登り詰めた継之助は、倒幕か佐幕か、日本を二分する争いへと発展する幕末の混乱期に、藩の命運を一手に担うことにななります。
この継之助が、理想とした藩の進むべき道は、長岡藩を武装中立国とすること。
しかし、時代はそれを許さず、いくつかの誤算や不運も重なって、越後長岡藩は、奥羽越列藩同盟に加わることになり、薩長を中心とする官軍との間で北越戦争が勃発。
夢かなわず藩もろとも敗れ散るという末路をたどります。
時代を見通しながらも、己の美学に囚われ、三河以来の譜代藩という枠から抜け出せなかった継之助。
しかも与えられたのは7万4千石というあまりにも小さい舞台。
薩長や会津と肩を並べるような雄藩であったならば、あるいは多くの志士のように藩を飛び出していれば、どのような活躍をしたのでしょう。
結果的に長岡を戦火に巻き込んでしまったことは、それまでの功績を打ち消すほどの汚点とも評することもできますが、幕末にこのような考えを持ち、それを行動に移し、わずかながらも歴史に爪痕を残した人がいたということを知ると、歴史の見え方が大きく変わってきます。
そういった人物に着目し、その人が生きた意味を世に伝える司馬遼太郎の慧眼に、毎度毎度、敬服します。
継之助の最後など、やや美化しすぎのような気もしますが、それも継之助への敬意の表れであり、なによりこれは小説だからでしょう。
「燃えよ剣」の土方歳三も、侍の美学に殉じた人、ラストサムライですが、この「峠」の河井継之助もまたラストサムライではないかと思います。
司馬遼太郎の幕末ものの中では、前述の「燃えよ剣」や「龍馬がゆく」などと並んで屈指の名作かと思います。
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峠(中) (新潮文庫)
853円
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峠(下) (新潮文庫)
724円
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